スキャナーズ(映画)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『スキャナーズ』とは、デヴィッド・クローネンバーグ脚本・監督による、思考するだけで人間の心や行動をコントロールできる超能力者(スキャナー)達の戦いを描いたサイキック・アクション・ホラー。社会を崩壊させようと企てる邪悪なスキャナーと彼を倒そうとするスキャナーの対決を、特殊メイクを駆使して描写。中でも頭部を内側から破裂させる衝撃的なシーンが有名。1981年・カナダ製作。

『スキャナーズ』の概要

『スキャナーズ』とは、「ヴィデオドローム」(1982年)「ザ・フライ」(1986年)のカナダ出身のデヴィッド・クローネンバーグ監督が、人間の心や行動をコントロールできる超能力者(スキャナー)同士の戦いをパンチの利いた演出で描いたサイキック・ホラー・アクション。
本作に登場する超能力者をスキャナーと呼んでいるのは、超心理学(既知の自然の法則では説明できない現象)の分野にスキャンニング(走査)という言葉があり、超能力者が相手の神経系統と結合して行動や身体機能をコントロールし変化を与えてしまえることから生み出した造語である。
出演は、クローネンバーグ監督の「戦慄の絆」(1988年)に顔を出しているスティーヴン・ラック、カナダのジャック・ニコルソンとも呼ばれる「トータル・リコール」(1990年)「スターシップ・トゥルーパーズ」(1997年)のマイケル・アイアンサイド、カルト的テレビシリーズ「プリズナーNO.6」(1967年~1968年)の主人公を演じたことで知られるパトリック・マクグーハン、「おもいでの夏」(1970年)「リーインカーネーション」(1975年)のジェニファー・オニール。
頭部破壊の特殊メイクアップを担当したのは、クリス・ウェイラス、スティーブン・デュプイス、他。本作の後ウェイラスは、スティーブン・スピルバーグの希望で「レイダース/失われたアーク≪聖櫃≫」(1981年)の顔面崩壊場面を担当した。ウェイラスは、クローネンバーグ監督の「ザ・フライ」(1986年)でもタッグを組んでいる。また、「エクソシスト」(1973年)のメイクアップ・アーティスト、ディック・スミスがクライマックスの超能力バトルのメイクを担当している。
音楽は、本作の後、クローネンバーグ監督の「ザ・フライ」「戦慄の絆」他ほとんどの作品を任されることとなるハワード・ショア。

『スキャナーズ』のあらすじ・ストーリー

スキャナーという能力を持つ者

ホームレスのキャメロン・ベイルは、バーガーショップにあった客の食べ残しを食べていた。
近くのテーブルに彼を見つめる二人の老女が目に入る。目が合った老女の一人が小声で相手の女性に話しかけた。ベイルの耳には聞こえないはずだったが、彼には彼女の心の声を聞こえた。それは、彼を軽蔑するような言葉だった。

ベイルが怒りを感じて老女をじっと見据えると、老女は突然苦しみだし床に倒れてもがきだす。心配した周囲の人たちが老女に駆け寄る中、ベイルはその場から立ち去ろうとした。
すると、ベイルの行動を見ていた二人の男が後を追ってきた。ベイルがエスカレーターに乗ったとき、男に麻酔銃を撃たれる。麻酔が効きはじめるとベイルは気を失うのだった。

ベイルは古いビルのベッドの上で目覚める。起き上がろうとしたが、胸をベルトで固定されている。
すると、見知らぬ初老の男、ポール・ルース博士が彼に近づいてきた。ルース博士はベイルに話しかけ、「君はスキャナーなんだ」と言う。その後、数十人の男女が部屋に入ってくると、ルース博士の指示で並べられた椅子に座った。

途端にベイルがベッドの上で身悶え暴れはじめ、ルース博士は注射を彼に打つ。注射のおかげで落ち着きを取り戻したベイルに、ルース博士は自己紹介をし、精神薬理学者でスキャナーを研究していると話した。

ルース博士はスキャナーについて、「先天性の特殊能力を持つ人間のことだ。その能力はテレパシーと呼ばれシナプス(神経の情報伝達のための接触構造)に異常がある」と説明した。
その特殊能力のせいで、ベイルは相手の心の声を聞いたり、感情を読み取ることが出来たのだ。それだけでなく相手の神経を混乱させることも出来るのであった。つまり、相手の神経系統と結合し、相手の行動や身体機能を遠隔でコントロールしてしまえるのだ。バーガーショップでベイルが見つめた女性が苦しみだしたのは、彼女の神経を彼が特殊能力でコントロールしたからだった。

他人の心の声が常にベイルの頭に氾濫し苦しむことが多かった彼だったが、ルース博士が打った注射のおかげで頭から様々な心の声が消えた。その薬はエフェメロルと呼ばれるもので、スキャン鎮静剤だった。ベイルはルース博士の話を聞き、初めて自分が持つ能力のことを理解した。

謎のスキャナー、レボック

警備保障会社・コンセック社では、財界や政界のVIPを招いたスキャナーの公開実験が行われようとしていた。
スキャナーである男が壇上から集まった関係者たちに、スキャニング実験の被験者になる人はいないかと呼びかける。だが、VIPたちは誰も被験者になろうとしない。すると、一人の男(ダリル・レボック)が手を上げて壇上に上がった。

レボックが席に座るとスキャナーである男は「何か考えて下さい」と彼に言う。レボックは何かを念じるように目を閉じた。
すると、スキャナーの男の脳に痛みが走り、顔を歪め始める。レボックが念じる力を強めようとすると、スキャナーの男は強烈な頭の痛みを鎮めようともがきだす。そして、男の痛みが頂点に達した思われたとき、彼の脳が内側から破裂し、頭部が吹き飛んだ。

会場にいたVIPたちは悲鳴をあげ、次々と外に出て行く。この事態に驚く様子もないレボックの態度を見て、VIPを装って潜入したスキャナーではないかと怪しんだコンセック社の社員が彼を取り押さえる。
社員達はレボックを車に乗せ、別の場所に護送しようとした。

レボックが乗せられた車の後ろを、もう一台の社員の車が走ったが、突然道路から外れビルの一階に追突し爆発炎上する。レボックが、運転手の脳を操り運転を狂わせたのだ。彼は他の社員達も次々と死に至らしめ逃亡するのだった。

レボック探しの始まり

翌日、コンセック社で会議が開かれた。会議にはルース博士もいた。彼は、より厳重な警備を行うためにスキャナーを使おうという計画のスタッフで、そのためのスキャナーを見つけ出し戦力として育成する役目だった。

ルース博士は、「私が見つけ出しリストに上げたスキャナーが次々と死んでいる。誰かが我々の計画を妨害してる」と話す。犯人はおそらくダリル・レボックだとし、彼の妨害を食い止めるためにも、リストに載っておらずレボックに知られていないスキャナーを使ってレボックを探させると続けた。

古いビルに戻ったルース博士は、ベイルにレボックが22歳の時にクレン精神医学研究所で撮影された記録映像を見せた。研究所は危険な患者を収容する精神病院のようなところで、そこで行われた医師とレボックの面談の様子だった。

映像の中で、レボックは眉間に穴を開け、そこに目を描いた絆創膏を貼っていた。レボックは頭の中に人の声や色々なものが溢れるので、軽くするため穴を開けたと話していた。映像を見たベイルは「僕と同じだ」と驚く。彼も、ルース博士に出会う前は頭の中に色々なものが溢れ、悩まされていたからだ。

ルース博士は「彼はすべてに破壊的だ」と語る。レボックはスキャナー達を誘い入れ、社会を崩壊させようとする集団を作り、それに賛同しないスキャナーを抹殺しているので彼を滅ぼさねばならないとルース博士は続けた。
ベイルは自分がレボックを滅ぼす役目に選ばれたと知り、自分の能力を制御する方法や、相手の肉体をコントロールする訓練に励むのだった。

訓練を終え、ベイルのレボック探しが始まる。手掛かりとなる人物はベンジャミン・ピアースという造形作家だとルース博士から教えられた。ベイルはピアースの個展が開かれているギャラリーに赴き、彼の居所の情報を手に入れた。

ピアースとの出会い

ピアースは、人里離れた場所にある家屋に住んでいた。椅子に座っていたピアースを見つけたベイルは頼みがあると話しかけた。ピアースは関心を示さない態度だったが、ベイルがレボックの名を出すと、彼は急に立ち上がり「お前は誰だ」と聞き返してきた。
ベイルは自分もスキャナーだと明かし、レボックの居所を教えてくれるまで出ていかないと頼み込む。ピアースは「それなら俺が出ていく」と扉に向かった。

その時、家に忍び込んだレボックの仲間がピアースに向けて銃を発砲した。レボックへの協力を拒んだピアースを殺しにやって来たのだ。物陰にいたベイルはピアースが撃たれたのを目にして怒り、銃撃者達の神経に働きかけ、次々と気絶させていく。

ベイルはピアースのそばにより、彼の心の声を聞こうとした。ピアースはキム・オブレストという女性のスキャナーの存在をベイルに伝えると息絶えるのだった。

オブレストとの出会い

夜になり、ベイルはピアースから伝えられたオブレストの居場所に向かった。
オブレストの家に着くと、彼女の他にもスキャナーでレボックに賛同しなかった者達がいた。そんな中、オブレストやベイル、他のスキャナー達が集まっているのを察知したレボックは、自分の仲間に彼らを襲わせる。
スキャナー達が次々と銃殺されていくなか、オブレストが絶叫すると、銃撃者達は吹き飛ばされ衣服から炎が上がり倒れていった。

生き残ったベイルとオブレスト、数人のスキャナー達は、慌てて家から飛び出し車で逃走する。ベイル達の乗った車のそばに怪しい車が近づき銃弾を浴びせてきた。運転手のスキャナーが殺され、車は暴走してレコード店に突っ込む。
生き延びたベイルとオブレストの二人は、店の地下室に隠れることにした。

店内にレボックの仲間らしき男が現れ、銃を取り出し階段を降りて行く。
ベイル達を見つけた男が銃を撃とうとするが、ベイルに身動きできない状態にさせられた。ベイルは、レボックに近づく手がかりを見つけるため男の心に入り込む。男は操られるようにポケットから小瓶を取り出しベイルに見せる。小瓶に記されたロゴから、それが生化学研究所のものと分かるのだった。

ライプ計画の謎

ベイルは早速、生化学研究所に潜入した。ベイルはコンピュータ室に侵入すると、研究所でエフェメロルが大量に製造されており、それがコンセック社と関わりがあると知る。

さらに調べていくとライプ・プログラム(ライプ計画)という言葉が画面に現れた。しかし、ライプ計画のデータはアクセス拒否と表示され、詳細を知ることはできなかった。生化学研究所とコンセック社の不可解な関係や、ライプ計画についてルース博士なら知っているのではないかと思ったベイルは、ルース博士とコンセック社で会うことにした。

ベイルはオブレストと共にコンセック社に赴いた。ベイルはルース博士に会うが、警備主任のブレードン・ケラーがオブレストを別室で尋問すると言い張る。実はケラーはレボックの手下だったのだ。

ベイルがルース博士に生化学研究所のことを尋ねると、ルース博士は自身が設立した研究所であり、それをコンセック社に売ったので、今はコンセック社で働いているという。研究所ではレボックの指揮下でエフェメロルを大量生産していることをルース博士に伝えると、博士は驚いた表情をした。

ベイルは続けて「エフェメロルの出荷先は、コンセック社のコンピュータにコード名“ライプ”でプログラムされている」と言う。つまりコンセック社にはレボックの手下が潜んでおり、どこかにエフェメロルを送り届けているようだった。

ルース博士は“ライプ”の言葉に顔色を変える。そして出荷先を知るためにコンピュータを人間のようにスキャンしてアクセスするようベイルに頼んだ。そして二人は、社内のコンピュータ室に向かうのだった。

コンピュータ越しの戦い

別室ではオブレストがケラーの尋問を受けていた。ケラーはオブレストに銃を向けるが、オブレストはケラーの脳をスキャンし、彼を倒して部屋から逃げ出す。すぐに起き上がったケラーは、警報ベルのボタンを押した。

警報ベルが廊下に鳴り響き、オブレストの事が気になったベイルは彼女を探すためルース博士と別れる。ルース博士は、ライプ計画は冷酷だ等とつぶやき、扉の空いていた部屋に入る。すると、うなだれる様に椅子に座り込み、ルース博士は「ライプ計画は絶対に止めさせろ!」と叫びだした。ケラーがその叫び声を聞き、ルース博士を見つけて近寄ると、後頭部に銃を向ける。ルース博士は逃げることもせず、死を覚悟する。そしてケラーの銃口が火を噴いた。

ベイルはオブレストを見つけ二人はコンセック社から逃げ出した。
公衆電話を見つけたベイルは、コンセック社のコンピュータと神経を融合させようと試みる。融合に成功し、ベイルはライプ計画のデータを読み取り始めた。

同じ頃、誰かが外部からコンピュータに侵入していると聞いたケラーは、相手はベイルに違いないと決めつけた。そして、ベイルの神経と繋がっているコンピュータを破壊すれば彼も一緒に始末できると考え、オペレーターにコンピュータの非常破壊システムをオンにしろと命じる。オペレーターが会長の命令なしにはできないと答えると、ケラーは銃を取り出した。オペレーターは仕方なく非常破壊システムを作動させるのだった。

融合していたコンピュータの内部が破壊されると、ベイルは脳内の激しい痛みで唸り声をあげる。途端に電話線に火花が走り、コンセック社のコンピュータが次々と爆発を起こす。ベイルのスキャン能力が引き起こしたのだ。そしてケラーは、吹き飛んだコンピュータの下敷きになり命を落とした。

明らかになるライプ計画

ベイルとオブレストは、ライプ計画のデータにあった出荷先のフレイン医院を訪れることにした。ベイルは診察室に向かい、オブレストは待合室で待つことにした。待合室には診察を受けにきた妊婦がいた。突然、オブレストは誰かにスキャンされていることのに気付く。妊婦の中の胎児がオブレストをスキャンしていたのだ。

その頃、診察室に入ったベイルはエフェメロルの瓶をフレイン医師に見せ、この薬のことで話を聞きたいと尋ねていた。
ベイルが診察室を出ると、廊下にいたオブレストから胎児にスキャンされたと告げられる。ベイルはそれこそがライプ計画で、医者が妊婦たちにエフェメロルを与えることで、新たなスキャナーを生み出していると話した。ライプ計画とは、スキャナーを数多く誕生させるための計画だったのだ。

その時、オブレストが麻酔銃を撃たれてよろめく。ベイルは彼女を抱きかかえて逃げ出すも、待ち構えていたレボックに麻酔銃を撃たれ気を失ってしまった。

ベイルが生化学研究所の一室で目を覚ますと、そこにはレボックがいた。レボックは、ベイルに自分たちは兄弟で、父親はルース博士であると言い放つ。信じられないでいるベイルに、レボックは古い雑誌を見せる。そこには1947年に発売された妊婦用睡眠薬エフェメロルの広告が掲載されていた。

エフェメロルの開発に携わったルース博士は、発売前に自分の妻に服用させていた。そして誕生したのがレボックとベイルだった。しかし、エフェメロルにはスキャン能力という副作用があった。副作用である変異に気付いたルース博士は研究を続けようとした。そして、副作用の変異に興味を持ったコンセック社が資金提供し、ルース博士は会社に自分の研究を売り渡したのだ。そして、エフェメロルにはスキャナー能力を抑える効果もあることが後でわかった。

レボックとの攻防

レボックはベイルに生まれてくるスキャナー達を強く育て上げ、全地球の支配者になるため協力してもらいたいと話す。ベイルは、そんな邪悪なことはできないとレボックの頼みを退けた。ベイルはなかなか引き下がらないレボックの顔を置物で殴る。

床に倒れたレボックは起き上がり、ベイルの脳を吸い取ろうとベイルを睨みつける。すると、ベイルの腕の血管が浮き上がり、苦痛に顔を歪める。痛みに耐えながら、今度はベイルがレボックの脳をスキャンする。レボックの頬や額に太い血管が浮かび、彼は一層険しい顔つきでベイルを睨み返した。するとベイルの胸が焼けただれ血が噴き出す。

ベイルは立ち上がって兄をじっと見据えた。ベイルの手のひらからは炎が舞い上がり、衣服に燃え移った炎で自ら火だるまとなった。すると、その拍子にレボックは白目をむき、咆哮をあげ、のけぞるのだった。

別室にいたオブレストが目を覚まし、ベイルを探そうと隣の部屋のドアを開ける。
そこには焼け焦げた死体が横たわっていた。

すると、彼女を呼ぶ声が聞こえ、部屋の隅でロングコートを頭から被った男に顔を向ける。男が見せた顔はレボックだったが、彼は自分をベイルだと言った。レボックの脳に入りこんだベイルは、彼の脳からレボックの意識を追い払い、自分の意識に取って代わったのだ。人格が変わったことを証明するように、レボックの眉間にあった傷跡がなくなっていた。
本当にベイルが勝ったのか、疑問を残しながら物語は終わる。

『スキャナーズ』の用語

スキャナー

妊婦の胎児にスキャンされて鼻血を出すオブレスト。

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