XBLAZE(エクスブレイズ)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『XBLAZE』とは、格闘ゲーム「BLAZBLUE」や「GUILTY GEAR」で有名なアークシステムワークスが開発したPS3、PSvita用のアドベンチャーゲームソフトで、主人公の篝橙八が謎の少女・Esと出会い、自分の中に隠された「魔導書」と呼ばれる強大な力を巡る大きな事件に挑んでいく物語を描いている。BLAZBLUEとリンクしたストーリーと世界観が大きな特徴となっており、2013年に第1作「CODE:EMBRYO」が、2015年に第2作「LOST:MEMORIES」がそれぞれ発売されている。

研究所の地下で自慢の「新型」であるEs-Nたちを従え、橙八を待ち構えていた鵜丸。この時の鵜丸にとって橙八は、もう自分の野望を実現するための駒にしか見えていない。

そしてついに明らかになる、「エンブリオ」の正体。それは、自分にとって家族同然に育った存在の少女・ひなただった。

こうして、冥がアベンジに橙八たちの助太刀を依頼し、さらにエルスがイシャナから「橙八は新幹線で新横崎から逃げた」という偽の情報を流してくれたことで御剣機関の部隊が混乱に陥っている隙に、橙八とEsは無事に姫鶴家に帰り着いた。そして冥と、空腹に耐えかねてやむなく姫鶴家に戻ってきた久音とも合流し、ひなたの作ったおにぎりで腹ごしらえを済ませた。その後、エルスから送られてきた手紙から、10年前、鵜丸はワダツミにいて、タカマガハラの最高責任者として彼もT-システムの開発に関わっていたことが判明する。そして現在、鵜丸はT-システムを完成させるべく、そのコアとなるエンブリオの行方を追いながらも、T-システムの開発と運用に必要なエネルギーとなる魔導書を探し、さらに同じくエネルギーとなるユニオンのクリスタルをEsたち機関の部下に集めさせているということを橙八たちは知った。鵜丸の目的に気づいた橙八たちは衝撃を受けながらも、これ以上彼を放ってはおけないと決意し、鵜丸がいるとされる閉鎖特区のワダツミ研究所へと向かった。
そして、橙八たちが閉鎖特区に辿り着くと、巨大な氷の結晶が襲いかかってきた。結晶を斬り払うEs。「残念。今ので一人くらい殺せると思ったのに……」そう言って現れたのは、アハトだった。今は無性に暴れたい気分だというアハトは、ユニオンへの姿になって攻撃を仕掛けてくる。これに対し久音と冥が場に留まってアハトに応戦し、橙八とEsが研究所へ潜入する。
すると今度は、研究所の通路の中で鵜丸が館内放送を通じて呼びかけてきた。「いやぁ、本当に久しぶりですね、篝クン。今日はわざわざ来てくれて有難う。歓迎しますよ、心からね」そう楽しそうに、そして挑発するように橙八に呼びかけた鵜丸は、橙八は自分の元に案内するが、Esは「出来の悪いバグった旧式」だからここで処分すると言って、自らが作った「新型」である戦闘用の自動人形「Es-Ν」を差し向ける。Esをまたモノ扱いする再び愕然となり、激怒する橙八だが、思い通りに動かない壊れた人形もなんて可愛くもなんともないし、所詮橙八に自分の話なんてわかるはずもないと鵜丸は吐き捨て、嘲笑いながら、Es-Νをけしかけてきた。そこで今度は、Esが自分が戦うから先へ進めと橙八に申し出た。Esは、今まで鵜丸と御剣機関の命令に従い、何の考えも迷いもなしに多くのユニオンを殺してきたことを思い出し、橙八たちと一緒に過ごすことでユニオンもまた橙八と同じ生きている人間であり、一度その命が失われればもう二度と戻らない。それを理解できたからこそ、ユニオンたちの命を奪ったという償いきれない罪を背負ってでも、橙八を守りたいのだとEsは言った。橙八は迷い悩みながらも、「必ず、後から追ってきてくれ!」と言い残し、先へと進んだ。
そして、ついに研究所の最下層に辿り着いた橙八を待っていたのは、複数のEs-Nを従えた鵜丸だった。鵜丸はここで、自らの過去を明かした。かつて鵜丸の父は仕事の忙しさを理由に殆ど家に帰らず、そのせいで母は父と顔を会わせるたびに激しい口論をしていた。そして14歳になったある日、母が父を殺し、そのすぐ後に自殺してしまった。その様子を一部始終見ていた鵜丸は、あれだけ争った両親が結局どっちも死んだという事実が滑稽に思え、笑ってしまった。そんな自分にとって無意味なものでしかない争いを世界から無くし、人類全体を正しく繁栄させるためにタカマガハラを率いてT-システムを開発しようとしたが、その時、人の意思を奪うT-システムの危険性に気が付き、自分に反対してきたのが涼子だった。そしてあの日、境界の門を開けてエンブリオの精錬が始まる直前に強制停止プログラムを涼子が仕込んだことでエンブリオの精錬は失敗。そして集められていたエネルギーが暴走したことで黒い嵐が巻き起こり、ワダツミ集団消失事件が起きた。本当ならば門を開けてエンブリオを精錬した時点で、この新横崎市全体に黒い嵐が起きて、新横崎市の住民全員が魔素となってエンブリオをコアとしたT-システムの運用のためにエネルギーとなるはずだったが、涼子が妨害したことで嵐は閉鎖特区一帯に押し止められた。同時に集めていたエンブリオの精錬のエネルギーである魔素も世界中に散ってしまい、ユニオンが生み出されることとなったという。そうして10年前に自分の計画を頓挫させたまま、あの事件で命を落とした涼子を逆恨みして、タカマガハラの責任者を彼女の名前に置き換えたと自嘲しながら言う鵜丸に再び激怒する橙八。だが鵜丸はもう話は終わりだとばかりにEs-Nたちをけしかけ、橙八をその場に釘付けにしてしまう。そして、Es-Nの武器からエネルギーを流し込んで、橙八の意思に関係なく、彼の中の魔導書をコントロールできる状態に仕立て上げた。そして鵜丸は、狂気に満ちた高笑いを挙げながら、上を指差した。「上を見たまえ篝クン!! あれこそが『コード・エンブリオ』だっ!!!」

ついに「CODE:EMBRYO」のラスボスとして登場を果たすゼクス。「クサナギ」と呼ばれる8本の剣による圧倒的な力で、痛手を負わせる形で鵜丸の高笑いと夢心地を砕き、さらに彼ご自慢のEs-Nをあっさりと殲滅してしまう。

一度ならず二度までも自分が抱いた野望を阻まれたことで、虫の息になりながら赫怒と憎悪に表情を歪める鵜丸。その後、彼は自らの野望のために街の人間全ての命と引き換えに利用しようとした境界に落ちるという、因果応報の最期を遂げる。

その後、アハトとの激闘を制してきた冥と久音も駆けつけ、Esに加勢するが、彼女らもゼクスの圧倒的な力を前に一瞬で叩き伏せられてしまう。

鵜丸が指差した先、最下層の中央に立つ巨大な柱の上にあるそれを見て、橙八は絶句した。それはなんと、磔にされ、気を失っているひなただった。リッパーとの戦いで魔導書が暴走したあの日、鵜丸がエンブリオだと見て叫んだのはひなただった。そして鵜丸によると、姫鶴家に妹などいなく、ワダツミの事件の後、何者かがエンブリオを外に持ち出して由貴に妹として託し、普通の人間として生きさせていたのだという。絶叫する橙八。それに呼応して彼の中の魔導書が急激にパワーを上げていき、ひなたがついにエンブリオとして覚醒。見開かれた目は青く輝いていた。こうしてエンブリオの精錬が完了したと同時に、最下層の床が開き、境界への門が開かれてしまう。ついに全ての準備が整ったことに、鵜丸はさらに狂気に満ちた笑いを挙げ続ける。「なんて清々しい気分だ!! 今なら何でも出来る気がするぞ!? どんな奴でも、蟻のように殺す事だって、ネズミのように増やす事だってできる……素晴らしすぎるっ!!!」だが、その狂気の高笑いは長くは続かなかった。どこからともなく飛んできた一撃が、鵜丸の胴体を貫いたのだった。一瞬にして笑いが消えて、驚きと痛みに表情を歪める鵜丸。驚きに上を見上げると、そこになんとゼクスがいた。
宙に浮かんで鵜丸を見下ろしているゼクスの周りには、赤黒い8本の大剣のような武器「クサナギ」が浮かんでいて、ゼクスはそのクサナギの1本を飛ばして鵜丸に不意打ちを浴びせたのだった。思わぬ横槍に逆上した鵜丸は、Es-Nたちを一斉にゼクスに向かわせるが、ゼクスはクサナギでまるで相手にすることなくEs-Nたちを一掃してしまう。自分の自慢の新型たちが、一瞬で全て倒されたことに、鵜丸は絶望のどん底に叩き落とされる。そんな自分に一瞥もくれずに、ゼクスがエンブリオとなったひなたへと向き直ったのを見て、自分の敗北と失敗を認められずに表情を憎悪と苦悶に歪めながら、鵜丸はふらつきながらゼクスへと歩いていく。「ボクは…お前…なんかに…負け……ゔわぁああああああ!!!」と、その言葉は最期まで続かず、鵜丸は足を踏み外し、醜い断末魔の叫びをあげながら境界の中へと落ちていった。
ゼクスはそんな鵜丸の最期に何の興味を示すこともなく、ひなたの前へと歩み寄る。そんな時、Esがようやくこの場に辿り着いて、目の前の状況に愕然となるも、拘束されている橙八を見つけ、彼を助け出す。橙八から状況を聞いたEsは、ひなたを助けるべくゼクスに挑むが、逆にあっさりと吹っ飛ばされてしまう。「私は私の望む世界の為、エンブリオを破壊しなければならない……世界は魔素に満たされ、全ての魂は融け合うだろう」その一言と共に、ゼクスはついにひなたに向けてクサナギを放った。再び橙八の絶叫が響き渡る中、ひなたは身体中をクサナギに貫かれ、悲鳴をあげることなく境界へと転落していった。そして、傷ついた体を持ち上げ、何かに取り憑かれたようにひなたが落ちた境界へと進んでいこうとする橙八。それを見たゼクスが、クサナギを橙八へ向けて放つ。クサナギに薙ぎ払われ、壁に叩きつけられる橙八。駆け寄ろうとするEsにゼクスが標的を変えようとした時、アハトとの戦いを制してきた冥と久音が割り込んでゼクスに攻撃を仕掛けてきた。それから久音と冥はEsと力を合わせて挑みかかろうとするが、ゼクスは邪魔だと言わんばかりにふたりを薙ぎ払う。そして「人形……いや、『不完全』な者よ。境界へ堕ち、魔素へと還れ」と、言った後、Esにもとどめの一撃を叩き込み、境界へと突き落としてしまった。

ついに自らの中の魔導書の力を制御・行使することができた橙八。強い勇気と決意に満ちた赤い瞳でゼクスを見据え、Esの剣を構える。

橙八の前に再び現れるEs。エンブリオを継承したことにより、赤かった瞳は青く輝く澄んだ瞳となっていた。

その頃、橙八はまた魔導書が作り出した異空間の中で、リッパーの幻影と会っていた。「イヤ〜ホント御愁傷サマぁ! 弱いままじゃ喰われちまうのが分かっただろぉ? あのメガネ女、ああいうボンクラが真っ先に喰われるんだぁ!」と、また嘲り煽ってくるリッパーに、ここから出せと気色ばむ橙八。するとリッパーは、この空間から出たいなら橙八が「全てを食らう」と願えばいいと言った。つまり今度は、相手を傷つける程度ではなく、相手を殺すことにも踏み切らなければならない。その言葉に絶句させられる橙八だが、自分も償いきれない罪を背負っているというEsの言葉を思い出し、こう覚悟を決めた。「僕は大切な人を護りたい……例え、多くの罪を背負うことになったとしても!!」その橙八の覚悟の言葉を聞いて、リッパーが煽るように大笑いした後、目の前が白い光に包まれた。次に橙八が目を開けた時は真っ白い空間にいて、目の前には橙八と同じシルエットが立っていた。「魔導書の調停者」と名乗り、もう一人の橙八だと名乗るそのシルエットは、原初の魔導書の力を使うにはどんなことになっても自分を強く持てる意志が必要だと語り、橙八に魔導書を使うための言葉を教える。そして「決して諦めないで。何か必ず、方法があるはずだから……頑張って」と、言い残し、調停者は姿を消した。
それから現実に戻った時、橙八が目にしたのは、倒れている久音と冥、そして彼女たちと自分を空中から見下ろすゼクスだった。Esはどこだと叫ぶ橙八に、「あの人形は魔素へと還った……さあ、永遠の安息を受け入れろ」と、語りかけるようにして答えた後、クサナギをゆっくりと橙八に向ける。しかしそれに対し、橙八は近くに突き刺さっていたEsの大剣を手に取り、調停者から教わった言葉をこう高らかに唱えた。「コード:ソウルイーター起動!! 覚醒解放(エクスブレイズ)っ!!!」その言葉を唱えた瞬間、橙八の両目が赤く輝き、橙八の体に原初の魔導書の力が宿った。大剣を構え、ゼクスへと挑みかかる橙八。そこから凄まじい一騎討ちが繰り広げられ、一時は互角に渡り合っているかに見えたが、次第にゼクスに押され始める。そして、ついに深手を負って膝をついてしまう橙八に、ゼクスはこう言った。「幾度も造り直された世界……私にはその全ての力が集約している。どれだけ魔導書を制御しようと、今のお前『だけ』では勝てない」ゼクスのその言葉の意味がわからず、戸惑いながらも立ち上がろうとする橙八に、Esの呼び声が聞こえてきた。その声を聞いて、橙八がハッと顔を上げた瞬間、再び橙八の視界が白い光に包まれる。
それから「閉鎖空間」と呼ばれる場所で、橙八はEsに出会った。Esの両目は青く輝いており、これは先ほどゼクスによって境界に落とされたひなたからエンブリオの力を受け継いだものだという。ひなたは境界に落とされた時、自分が人間ではなくエンブリオだったことを思い出し、身体を失ったことで事象干渉を使えなくなってしまい、橙八やEsたちのことを助けられないことを嘆いていた。そんな中、続けて境界に落とされてきたEsと出会い、彼女の「何があっても橙八を守りたい」という揺るがない意志に動かされたひなたは、わずかに残った力を使ってエンブリオを継承させた。その後、事象干渉を使えるようになったEsは、普通の人間としてひなたを姫鶴家へと帰しており、ひなたにはもう自分がエンブリオだった記憶はないという。
そして、自分たちがいるこの世界はすでにひなたがエンブリオだった頃に引き起こした事象干渉によって何度も造り直されたものだとEsは語る。橙八の魔導書が暴走するのと同じように、ひなたも橙八たちが傷ついたり死んだりする結末を見た時、無意識にエンブリオを暴走させて何度も事象干渉を引き起こしていた。全ては、橙八たちを守るため、まだ何も起きていなかった平和な日常を作り直していた。しかし、事象干渉を把握し、そして封じることができるクサナギを持っているゼクスは、その事象干渉で繰り返されたすべての事象をクサナギによって自らの力として蓄えていった。自分たちが手も足も出ずにゼクスに倒されたのもそのためだ、とEsは言った。このままゼクスを放っておくと、Esが橙八たちを平和な日常に戻そうとしても戻すことはできない。それでどうすればいいのかと橙八が尋ねると、Esはこれまでに至る原因となった時間にして場所「起点事象」に直接橙八を送り、その起点事象にいるひとりのユニオンを殲滅すればいいと言った。ユニオンを殲滅、それはつまりEsと同じようにユニオンを殺すこと。その事実に橙八は驚き、Esもこれしか皆を助ける方法が見つけられなかったと悲しみに表情を歪める。だが橙八は、皆を助けるために殺しの罪を背負う覚悟を決め、Esに起点事象へと送ってくれと頼んだ。

ゼクスとの激闘を制する橙八。この起点事象での彼が倒れたことで、現在のゼクスも力を失い、境界へと落ちていった。

そして、Esは寂しげな微笑みを残し、橙八たちの世界を守るべく、彼らの前から姿を消した。

そして、Esに送ってもらった起点事象で、そのひとりのユニオンこと過去のゼクスを見つける。無言で大剣を構えた後、渾身の力をもって過去のゼクスに挑みかかる橙八。そして、その渾身の一撃は、過去のゼクスの胸元にあるクリスタルを粉々に砕いた。「何……だと……」そう呻いた後、崩れ落ちる過去のゼクス。同じ頃、ワダツミ最下層にいる現在のゼクスのクリスタルも砕け散り、現在のゼクスは橙八の名前を呟いてから、クサナギと共に境界へと落ちていった。
障害となるゼクスが倒れたことで、橙八たちはEsの事象干渉によって平和な日常に戻れるようになった。帰って来た閉鎖空間で橙八はEsに一緒に帰ろうと言ったが、エンブリオとなってしまった以上、世界に戻ることはできないと首を振る。キミがいない日常なんて嫌だと叫ぶ橙八に、Esはそっと口づけをし、顔を赤らめながら、寂しげにこう微笑みかけた。「大丈夫……私のことは、目覚めたら、全て忘れています。さようなら……私の、大切な人」そう言い残し、Esは光に包まれ、悲痛に叫ぶ橙八を残して姿を消していった。
こうしてエンブリオ事件が終結した後、仲間たちと共に新しい平和な日常に戻った橙八は、御剣機関の一員となり、冥の下でユニオンの拘束任務を手伝うようになった。ひなたは由貴と同じように医療関係に従事して看護師になるよう勉強を始め、晃は無事意識を取り戻してリハビリに精を出し、久音はイシャナに戻って十聖になるための修行の日々に明け暮れている。

『LOST:MEMORIES』

「わたし」編

父の工房から飛び込んでしまったファントムフィールドで目覚めた「わたし」。見知らぬ光景に驚きと戸惑いを隠せず、辺りをしきりに見回す彼女の前に、ノーバディが現れる。

ノーバディが「わたし」に最初の謎かけをするシーン。その謎かけは「わたしは誰でしょ〜?」という問いだが、当然、初対面である「わたし」に分かるはずもない。

そんな人の話を全く聞かず、楽しそうに振る舞うノーバディに、「わたし」はこの後も調子を狂わされ放題となる。

久音の故郷である絶海の孤島にある魔術師たちの街「魔導都市イシャナ」のはずれに住む、主人公の魔術師の少女「わたし」は、かつて自分の研究のために妻と、さらに娘である自分を実験台にしようとして、今は行方不明となっているい父との過去の夢に魘されて目を覚ました。このところ夢で見る過去の記憶に舌打ちしながらも、一緒に暮らす「いもうと」のために朝食を作り、今日も魔術学校へと向かうための準備を整えようとする。その矢先、「いもうと」の姿が見当たらなく胸騒ぎを覚え、すぐさま「いもうと」を探しに行こうとした時、「いもうと」が帰ってきた。「わたし」のために今日は自分が朝食を作ろう買い物に行っていたという「いもうと」だが、家の外に出てはいけないという言いつけを破った「いもうと」に「わたし」は声を荒げて叱りつける。これに対して「いもうと」は姉を楽させてあげたい、自分だけ何もできないのは嫌だと反抗して一時険悪な空気になりかけるが、たったひとりの大切な家族を失いたくないという「わたし」の必死の思いを前に、しぶしぶ引き下がった。
それからいつも通りに外出し、帰ってきたら、またも「いもうと」の姿がどこにもないことに気づく。動揺する「わたし」は、あれから行方知れずだった父が戻ってきて「いもうと」を実験に使おうとしているのではないかと最悪の可能性に思い至る。そこで「わたし」が、かつて父が使っていた地下の工房へと走ると、扉の隙間から謎の青い光が溢れているのを目の当たりにした。その光はかつて、過去に母が死んだ時もこの場所で見たものであり、やはり父が戻ってきて「いもうと」までもを実験に使おうとしていると思い込んでしまう。そして意を決して扉を開けて工房へ飛び込もうとした瞬間、「わたし」の視界は光に包まれ、意識も遠のいていった。それから次に気がついた時、「わたし」は見たこともない奇妙な世界の中に倒れていた。「ここ……どこ? さっきまで、家の中にいたはずなのに……」と、見知らぬ光景に「わたし」が目を疑い、戸惑いながらも、「いもうと」を呼び続けた瞬間、背後からひとりの少女がいきなり現れた。「大いなる運命に導かれた、謎の美少女! その名も……『ノーバディ』とは私のことっ! 私はね、キミを探して、ここまで来たんだ! これから、よろしくねっ!」露出度の高い衣装を纏い、両目を閉じたその白い髪の少女・ノーバディは、大袈裟までに楽しそうに名乗りを上げた。そんな人の話を全く聞かず勝手に盛り上がり、楽しそうにするノーバディに辟易させられた「わたし」は、彼女に一緒に行こうと誘われても「あんたみたいに人の話を聞かない奴の相手をしている暇はない」と突っ撥ねる。
すると不意にノーバディが言った「『妹ちゃん』待ってるよ? あの子、キミのことすっごく心配してたよ?」という言葉に表情を変える。ノーバディによると、このファントムフィールドで長いこと眠り続けていた時に突然「いもうと」が現れて、「わたし」と同じようにこの場所に迷い込んだ彼女を案内しようとしたら、姉が探しに来るだろうから自分のいるところまで連れてきてくれと「いもうと」に頼まれた。それで嬉しくなったノーバディは、絶対連れてくるとつい約束してしまい、「いもうと」をファントムフィールドの一番下に置いてから「わたし」を探しにここまでやってきたという。それを聞いた「わたし」は、「いもうと」の居場所が分かった以上一人で十分だからついてくるなと再び突っ撥ねるが、「妹ちゃんと約束したの! それにもしキミが迷子になったらどうするの!? 妹ちゃんに会えなくなるんだよっ?」と、ノーバディも一歩もひかない。そして結局根負けしてしまい、その後もなお人の話を聞かないノーバディに手を焼かされ続けながらも、「わたし」はノーバディと共に「ファントムフィールド」と呼ばれる異世界の探索を始めることになる。

ファントムフィールドの長い探索の末、ついに「わたし」が辿り着いた父の記憶。当初の父は、母と、お腹の中にいる「わたし」を助けようと必死になっており、「わたし」が思うほどの冷酷な人物ではなかった。

しかし、妻が死んでしまい、家族で一緒に過ごす夢が潰えたことで精神に異常をきたし、さらに幼い「わたし」にも自分の行いを否定され、工房で「私は間違っていなかった」と悲痛な叫びをあげる。

その後、父の真実を知って考えを改め、ノーバディも友達として認めた「わたし」。嬉しさのあまり、「いもうと」と共にノーバディは「わたし」と抱き合う。

探索を続ける中、道中で手に入れた「記憶の欠片」と呼ばれる光り輝く結晶から、「わたし」はEsの記憶と思しき光景、すなわち彼女の視点から見た、新横崎市での橙八たちの物語を何度も見ていくことになる。学校やプール、プリンといった橙八たちの世界にあるものを見て、ノーバディは楽しそうだと目を輝かせる。一方、Esが橙八やひなたたちと一緒に過ごす中、「わたし」もEsに感情移入をしだしているのか、自分の中に少しずつ温かい気持ちになっていくのを感じた。最初は鵜丸に従う人形として機械的で無感情だったEsが、橙八たちと一緒に過ごすうちに徐々に感情を覚えて人間らしくなっていき、最後は自らの意思で橙八たちという「友達」を守るために自らの意思で命をかけることを選んだ。そんなEsの姿を見て共感するものを感じた「わたし」だったが、「いもうと」を守っていくのに友達なんて邪魔なものでしかないと割り切ろうとする。その時ノーバディが声を強くして「そんなのダメっ! 友達がいるってすっごく素敵で楽しいことなんだよ!? 1人ぼっちはつまんないんだよ? 1人ってね、本当に本当に寂しいんだよ?」と、否定してきた。どうしてそこまで自分の心配をしてくる、と『わたし』が戸惑うと、ノーバディは「自分はずっとファントムフィールドにひとりでいたから、友達、つまり誰かと一緒にいることがこんなに楽しいとは知らなかった。そこで『わたし』と出会えたことが嬉しいから、「わたし」にひとりになって自分のように寂しい思いをしないでほしい」と訴え、ノーバディは強引に「わたし」の手をとって歩き出した。その手の温かさに、「わたし」はさらに戸惑いながらも、温かい気持ちに満たされていくのを感じた。
そんな中、ついに「いもうと」の待つ最下層に辿り着いた時、ひとつの大きな記憶の欠片が現れた。それに触れた時に「わたし」が目にしたのは、なんと父と母の姿だった。母は「わたし」を身籠った時、周囲の魔素を引き寄せてしまうという「わたし」の生まれつきの特異体質によって病気になってしまい、日々体が衰弱して危険な状態だった。このままでは母子の命が危ない、そう悟った父は、二人の命を助けるために研究に研究を重ね、あらゆる手段を講じた末に、ついに魔素を抑制できる特殊な魔導書を作り上げることに成功。その魔導書を娘の身体に取り込むことで、二人を救うことに成功。「わたし」は無事に生まれることができたのだった。しかし、次に母が二人目の子供となる「いもうと」を身籠った時に、母は体はすでに衰弱しており、医師からも出産には耐えられないだろうということだった。父はその事実を聞いて、自分はあの時救う方法を間違えていたのかと激しく苦悶しながらも研究を重ね続ける。一方、母はそれでも自分が愛した人との子を産みたいと涙ながらに願い、結果、「いもうと」を産んで2年後に帰らぬ人になってしまう。「どうして……どうして君がこんな目に合わなきゃならない!? 私のしたことは、正しかったはずだ!!」と、毎日のように母の亡骸に縋りつき、父は泣き叫んだ後、母を蘇らせ、娘たちと一緒に笑って暮らせる日々を実現する妄執めいた思いに取り憑かれ、地下の工房へ篭りきりになる。そしてあの日、境界の力を使って母を蘇らせるべく、ついに母の亡骸を地下の工房に持ち込んだ時、扉の向こうから「わたし」が「おかあさんも一緒にいるんでしょ!? おかあさんまで実験に使うつもりなのっ!?」と、泣き叫ぶ声を聞いて、父は「ち、違う……私は……私はただ、君との約束を……守りたかっただけなんだ……」と、表情を変えた。子供たちを守り、幸せにする。妻とそう約束したことを思い出した父は、子供たちのためにと必死になって続けていた自分の研究が、逆にそんな目で見られるほど子供たちを傷つけていたのかもしれないと自覚し、狼狽える。「私は……私は、間違っていなかった……! 答えてくれぇぇぇぇっ!!!」と、父が悲痛に叫んだ瞬間、辺りは青い光に包まれた。

涙をこらえながら、友達となってくれた「わたし」と「いもうと」を現実世界へ帰すべく、ノーバディは二人の背をそっと押し出す。

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