スプリット(映画)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『スプリット』とは、2017年製作のアメリカ映画。日本公開は2017年の5月。23人もの別人格を持つ多重人格者に誘拐されてしまった女子高生たちが体験する、予想不可能な恐怖を描く。監督は「シックス・センス」「アンブレイカブル」「サイン」など、意表を突いたラストやどんでん返しで有名なM・ナイト・シャマラン。誘拐犯である多重人格者をジェームズ・マカヴォイが熱演し、主役の女子高生をアニャ・テイラー=ジョイが演じている。

ケイシーと同じクラスの女子高生で、クラスの人気者・クレアの親友である。クラスで浮いた存在のケイシーを疎ましく思っていたが、クレアと共に誘拐され、監禁場所から脱出するためケイシーにも協力を要請する。監禁場所からの脱出に失敗し、一人きりで閉じ込められた後も必死に脱出を試みるが、最終的に凶暴な人格ビーストの餌食となった。

5歳のケイシー(演:イジー・コッフィ)

幼い頃、まだ存命だった父親と、叔父のジョンと一緒に猟に出かけた時の姿。父親から猟についての心得を教わるが、叔父と二人きりになった時、叔父から性的虐待を受ける。その直後、猟銃で叔父を殺そうとするも、果たせなかった。父親の死後、母親もすでに死んでいたため、自分に性的虐待をしている叔父と生活することになってしまう。

ジョン叔父さん(演:ブラッド・ウィリアム・ヘンケ)

ケイシーの父親の、弟にあたる。ケイシーがまだ幼い頃に、ケイシーの父親と一緒に猟に出かけるが、その主な目的はケイシーに性的虐待をすることだった。ケイシーの父親が死んだ後にケイシーを引き取り、虐待をし続けていた。

ケイシーの父(演:セバスチャン・アーセラス)

本作の主人公である女子高生、ケイシーの父親。自分の家系に代々伝わる猟を教えようと、幼いケイシーを猟に誘う。しかしこの時一緒に猟に出かけた、弟であるジョンがケイシーに性的虐待をしようとしていたのを知らなかった。クック家の家系に多いという心臓発作で、幼いケイシーを残し、若くして死亡する。

ジャイ(演:M・ナイト・シャマラン)

精神科医フレッチャーの助手。不可解な行動を取る、多重人格者ケビンの行動を探る。自作に毎回必ずカメオ出演している、監督のM・ナイト・シャマランが演じている。

デヴィッド・ダン(演:ブルース・ウィリス)

本作のエンドクレジットが始まる時に登場する。2009年に製作された、本作の監督M・ナイト・シャマラン監督作「アンブレイカブル」の主人公で、大きな事故にあっても死なない「不死身の体」を持つ。ダンとは逆に、少しの刺激ですぐ体の骨が折れてしまう「ガラスの体」を持った男と知り合い、実はその男が自分が体験した事故も巻き起こした凶悪犯罪者と知り、対決することになる。大きな事故に会っても生き残ることの出来る不死身の体だが、水中に落とされるとその力を失くす(溺れてしまう)という弱点を持っている。

『スプリット』の名言・名セリフ/名シーン・名場面

誘拐犯「ケビン」の人格の変化

ジェームズ・マカヴォイが演じる様々な人格。左から9歳の子供ヘドウィグ、女性の人格パトリシア、潔癖症でビーストを呼び出すリーダーとなるデニス、デニスの前にリーダーだったバリー

主人公である女子高生のケイシーは、同級生のクレアとマルシアと共に見知らぬ男に誘拐され、地下室のような場所に監禁されてしまう。ケイシーたちを誘拐した男は、自分の座るイスを神経質そうにハンカチで拭く潔癖症の男だったが、次に彼女たちの前に現れた時は、その姿も言葉遣いも完全に「女性」になりきっていた。更に次に来た時には、子供のような喋り方と行動をする人格となっていた。また、解離性同一性障害の患者としてケアを受けていた精神科医フレッチャーの元へ訪ねて行く時には、分裂した人格のリーダー格である男性、「バリー」となっていた。ケイシーたちを誘拐した潔癖症の人格「デニス」、女性となった人格の「パトリシア」、9歳の子供である「ヘドウィグ」、そして精神科医を訪ねて行く分裂した人格のリーダー「バリー」など、数々の人格を一人で見事に演じ分けたジェームズ・マカヴォイの熱演が、なんといっても本作一番の見所である。彼の熱演なしにはこの映画は成り立たなかったと言っていいほど、その演じ分け方は素晴らしい。

服装や仕草など「見た目」が明らかに女性らしくなるパトリシアはまだしも、その目つきや表情を見ただけで「これはデニスの人格だ」「これはヘドウィグだ」と、劇中の登場人物だけでなく観客もそれを判断出来るほど、それぞれの人格の「個性」を演じ分けている。また、「女性的な性格を持った男性」であるバリーから神経質で男性的な性格を持つデニスの人格へ変貌する場面や、クライマックスで幾つもの人格が次々に現れるシーンなど、人格が変貌する瞬間をワンカットで演じている場面もあり、その熱演は見事と言うしかない名シーンとなっている。

人格と体格が「ビースト」へと変貌を遂げるシーン

「ビースト」となり、元々の人間だった「ケビン」の体格は、強靭なものへと変貌を遂げた

物語の中盤から「24人目の人格」として語られ始める、「ビースト」という存在。ヒロインのケイシーたちを誘拐したデニスや、女性のパトリシアなどはその存在を疑いなく信じているようだが、それが本当に存在するものかどうかは、クライマックスまで明かされない。精神科医のフレッチャーにより、解離性同一性障害の患者には、解離した性格により肉体的特長にも変化が出るという「研究結果」が説明されるのだが、そのフレッチャーですら、ビーストはデニスやパトリシアが造り上げた「妄想の人格」だと言う。見ている観客も、「ビースト」と呼ばれるものが一体何を意味するものなのかと考えていると、クライマックスに至り、人格は遂にビーストとなり、その肉体もデニスが語っていた通り、強靭なものへと変貌してしまう。この瞬間は、「スプリット」という映画そのものが、女子高生の誘拐事件を描いたサスペンススリラーから、ビーストという怪物が出現するモンスターホラーへと「変貌を遂げる」瞬間でもある。

23人の人格を持つ一人の人物という設定が、実は一人ではなく何人かの兄弟など姿のよく似た複数の人間が分裂しているのではないか、また、実は誘拐されたケイシーも多重人格者で、「誘拐された3人の女子高生」というのはケイシーの分裂した人格ではないかなど、シャマラン得意の「オチ」を期待し予想していた観客にとって、この展開は全く予期せぬものであった。そしてこの予期せぬ展開が、エンディングでのデヴィッド・ダン登場により、「そういう映画(ヒーローものの悪役が誕生するまでを描いた映画)だったのか!」とシャマランファンを唸らせ喜ばせる、伏線になっているのだ。そういった意味で、「人格の変化に伴い大いなる変貌を遂げる肉体」を描いたこのシーンは、「スプリット」という映画を象徴する名シーンと言える。

「15年前の事件も犯人にあだ名が付いたのよ。何だったかしら?」「ミスター・ガラス」

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