役職ディストピアリ(役職物語)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『役職ディストピアリ』とは、ヤングガンガンにおいて2014年16号から2016年18号まで連載された千賀史貴の漫画作品。元は原作者のサイトで掲載していたweb漫画「役職ディストピアリ」であったが、人気が出たことでプロットをリメイク、新たに作画者をつけてヤングガンガンにて連載された。連載終了後は「役職物語」と名を改め再び原作者のサイトで連載されるようになった。コンセプトは「夢も希望もないダークファンタジー」。
役職とレベルによって完璧に管理された社会で「討伐士」トルザは「魔王」討伐に挑む。

『役職ディストピアリ』『役職物語』の概要

『役職ディストピアリ』とは、ヤングガンガンにおいて2014年16号から2016年18号まで連載された漫画作品。原作は千賀史貴、作画はテルミン。
元は原作者のサイトで掲載していたweb漫画であったが、人気が出たことでプロットをリメイク、新たに作画者をつけてヤングガンガンにて連載された。
ヤングガンガンでの連載終了後は、再び原作者のサイトでweb漫画の続きが連載されている。この時タイトルを「役職ディストピアリ」から「役職物語」に変更した。
これにより、ヤングガンガンでの連載漫画を「役職ディストピアリ」、web漫画を「役職物語」と呼び分けられるようになった。
世界観や話の大筋は「役職ディストピアリ」、「役職物語」どちらも変わらず、「役職ディストピアリ」は(連載終了のため)やや強引にシナリオが完結している。

コンセプトは「夢も希望もないダークファンタジー」。

『役職ディストピアリ』『役職物語』の世界観・用語

レイヤー

この世界は合計7つの層(レイヤー)に分かれている。
レイヤーは中央調律局によってそれぞれ役割が定義されており、その役割に沿ってによって文化や風習、治安などがまったく異なっている。
レイヤーは上層にいくほど治安の良い清潔な町になっている。最下層の第1レイヤー「廃棄物の階層」はいわゆるスラム街となっている。
各レイヤーは「昼の月」「夜の月」によって監視されており、2つの月を管轄する中央調律局とその支部の観測局によって、そのレイヤーに設定された役割にとって適切な環境になるよう管理、調整がなされている。

人間が負傷すると「○ダメージ」とダメージ値が表示されたり(頭を叩かれて1ダメージの表示が出るなど)、擬音がゲームの文字フォントのような字体で浮かび上がるなど、ゲーム的な要素がみられる描写がある。
一定のダメージを受けると(当然ながら)死亡する。

役職とレベル

役職とは、この世界の全人類に生まれつき設定された本質であり、肉体的、精神的な特殊能力のことである。
役職は生まれた時に外見的特徴でわかるものもあれば、検査を受けなければわからないものもある。

役職には戦いに特化したものから、自らの才能が必要なものまで様々あるが、どれも役職にちなんだ仕事につくことが適切とされる。
「双剣士」「操槍士」などの戦闘に特化した役職の保持者であれば、必ず戦いに身を任せる必要があり、「料理人」や「画家」などの役職の保持者であれば趣味や志向に関係なくその役職の仕事をしなければならない。いくら料理が好きでも「料理人」の役職でなければシェフになることはできない。
そのくせ、本人の素質に関係なく役職は割り当てられるため、料理の腕がなくても「料理人」の役職であればシェフにならなければならない。

役職にはレベルがあり、その人の役職の熟練度を示す。
戦闘に特化した役職はまるでRPGゲームのように、レベルが上がれば高度な魔法を扱うことができるようになり、レベルが低い人はレベルが高い人に勝つことはできない。
「料理人」や「画家」といった非戦闘系の役職の人は、レベルが上がるとよりおいしい料理や芸術的な絵を生み出すことができる。
要するに、レベルは経験や知識が絶対的に数値化されたものである。

中央調律局

この世界を調整、管理する局。
絶対的な権限を持っており、政治や法律、歴史、天気といったものは中央調律局によって定められている。
また「昼の月」「夜の月」によって各レイヤーを監視している。

中央調律局は、まるでゲームをプログラミングするように世界をシステム的、プログラム的に管理している。
各レイヤーに生息する生物は中央調律局のデザイナーが外見をデザインし、生態を設定することで誕生する。
また人の活動や行動についても、まるでシミュレーションゲームでキャラクターが動いている時のようにみている。

観測所

中央調律局の支部にあたる。各レイヤーに1つずつ設置されており、担当のレイヤーとその下のレイヤーを管理する。
逆に上のレイヤーに干渉することはできない絶対的な階級がある。

「観測士」の役職に設定された人間だけが勤めており、中央調律局から提示された方針に沿って仕事をこなしている。
世界を壊すという役割を与えられた存在である魔王が誕生した際には、戦いの仲介役として「魔王が魔王らしく世界を壊していく光景」から「討伐士によって魔王が倒されるという光景」までの筋書きを設定し、その通りに実行する。

観測士

観測所で働く人間のことであり、「観測士」という役割のひとつ。

観測士は、中央調律局や観測所の方針を実現させるために実際に活動する役職である。
作中では、誕生した魔王を討伐するために、魔王を討伐する役職である「討伐士」のもとに赴き、マネージャーのように討伐士を補助する役割をしている。

体のどこか(たいてい腕や胴)に縫い目(シュレティンガー基盤)があり、そこから「シュレティンガー」を発射することができる。
「シュレティンガー」は(ゲームでいう)開発社のデバッグコマンドのようなもので、対象をレベルや役職に関係なく削除(=殺害)するものである。
また、シュレティンガー基盤によってレイヤーを監視する2つの月にアクセスし、様々な情報を閲覧することができる。

魔王

魔王とは、世界に対して悪影響を及ぼすものの俗称である。
その姿形は一定ではなく、どんなものでも、どんな事象でも魔王になりうる。

魔王に認定された存在は自分の意思にかかわらず世界を破壊する存在にならなければならない。
そういう意味では一種の役職であるが、人間ひとりひとりに割り当てられる役職とは違い、魔王はあらゆる物体や概念、事象がなるものである。
どんなものか具体的に説明されていないが、過去には「電車の魔王」や「ウイルスの魔王」というものが存在していた。
「役職ディストピアリ」「役職物語」のストーリーでは、第23代目魔王として「サーカスの魔王」が生まれた。

魔王は誕生したレイヤーから動くことはできない。そのため、魔王の破壊の対象となるのは魔王発生レイヤーのみである。
魔王は「討伐士」の役職の人間によって倒されるという運命が決定しており、その筋書きのために観測所から魔王担当観測士が派遣される。
なお、「討伐士」がすべて倒されてしまった、魔王のレベルが高すぎてどの「討伐士」でも倒せなくなったなどの理由で魔王の存在が手がつけられなくなった場合、中央調律局による強制削除「ツインズ・ガーデン・デストロイヤー」が実行されるため、どうあっても魔王は最終的に死亡、消滅する運命にある。

レベルは1や10の整数ではなく、「√-9999(ルートマイナス9999)」という虚数レベルに設定されている。
そのため一切ダメージを受けないという設定になっており、ダメージを与えるためには攻撃のダメージを虚数化しなければならず、その権限を持つのは観測士のみである。
また、仮に観測士権限でダメージを虚数化したとしてもレベル9999という膨大な数値が魔王には設定されており、レベル1万以上の人間でなければ攻撃が通用しない。そしてレベル1万以上になり得るのは、特殊な状況下のみの「討伐士」だけである。
つまり、魔王を倒すことができるのは、観測士の補助によって自身の攻撃を虚数化したレベル1万以上の「討伐士」のみである。

23代目魔王 サーカスの魔王

23代目魔王に認定された新たな魔王はシルク・ド・マーレボルジェというサーカス団である。
これは魔王に認定されたシルク・ド・マーレボルジェの座長が魔王であるということではなく、「シルク・ド・マーレボルジェ」という存在そのものが魔王ということになる。座長だけでなく団員全員でひとつの魔王であり、座長および団員は「魔王ライツ」(魔王の構成要素)である。

今回の魔王は組織そのものが魔王となっているため、団員が全滅すれば魔王討伐となる。
あるいは、魔王を魔王たらしめている「マオー・コア」を破壊することでも魔王討伐となる。

討伐士

魔王を唯一倒すことができる役職。
「最強で最悪の役職」と言われており、その本質は「討伐士」の専用スキルである「主人公補正」にある。
「主人公補正」は、発動から24時間以内に死亡した仲間のレベルを自身のレベルに一時的に加算するという能力。能力を解除すれば元のレベルに戻る。
これにより、いくらでもレベルを上昇させることができ、魔王を倒すに必要なレベル1万を突破できるのは「主人公補正」のみである。

能力を使用するためには仲間が死亡していなければならず、対象を討伐するのに必要なレベルにするためにあえて仲間を殺害するといった行為をしなければならない。
仲間を殺す必要があるこの能力は中央調律局によって情報が制限されており、一般には知られていない。「討伐士」もまた自身の能力に関して守秘義務を負っている。
「討伐士」以外が何かしらの手段で「主人公補正」についての情報を得てしまった場合は観測所の観測士によって情報隠蔽のため殺害される。

『役職ディストピアリ』のあらすじ・ストーリー

討伐士という宿命

「第3レイヤーにて、第23代目魔王のサナギが発生した」という観測所からの連絡を受け、「討伐士」トルザは第3レイヤーに向かうことにした。
そのトルザの前にアルミと名乗る「菌育士」の役職の少女が現れ、トルザの仲間にしてほしいと申し出る。
体内に植物を飼い、自由に操る「菌育士」であるアルミは、先代の第22代目魔王に住処も家族も奪われたせいで魔王という存在を憎んでおり、そのために「討伐士」であるトルザに同行を申し出たのだ。
しかしトルザはアルミの言うことを黙殺する。無視されたことで逆上したアルミを押さえたのは、トルザの3人の仲間であった。
トルザは「魔王と戦いたいなんて言うなら、こいつらくらいのスキルを身につけてから来い」と脅し、アルミを追い返す。

翌日、トルザ一行は瘴気の森に向かっていた。
そのトルザ一行の前にブルースライムが現れる。
3人の仲間に戦いを任せ、ブルースライムとトルザ一行の戦闘が始まった。

一方アルミはトルザが街を出て瘴気の森に向かったという情報を知り、トルザを追いかける。
仲間にしてくれるまで何度だって頼むつもりのアルミはトルザを追いかけて瘴気の森を走る。
森の途中、開けた場所まで駆け抜けたアルミの目の前に広がっていたのは、バラバラになって息絶えた3人の仲間たちと、彼らを犠牲にしてモンスターを討伐したトルザの姿であった。
仲間たちの死体の写真を撮りながら、トルザは振り返りもせずアルミに問いかける。
「この世界には蘇生の魔法も不死鳥の羽もない。命はあまりに脆すぎる。お前も仲間になりたいか? お前もこうなりたいか?」
へたりこんだアルミをその場に置き、トルザはその場を立ち去った。

それから数日後、新たな仲間を加えてトルザは「鐘の街」に到着した。
鐘の街で物資を補給したトルザの前に「鼻魔導士」フョードルが現れ、仲間にしてほしいと頼んでくる。
「鼻魔導士」は自分の鼻から垂れる粘液を操る役職で、フョードルは不衛生な見た目からあらゆる仕事を断られ、路頭に迷っていたところであった。
フョードルには病気の妹がおり、その妹の治療費100万レーゲルを稼がねばならなかった。しかしこの通り仕事が見つからないため、魔王討伐を引き受けたトルザに仲間としてついていこうと考えていたのである。
トルザはフョードルを仲間として引き入れることを決める。その時、街にモンスターが現れた。
モンスターを討伐するため、フョードルを加えた仲間を引き連れてトルザは現場に向かう。
廃工場に現れたブルードラゴンはあっという間にトルザの仲間の「結界士」を殺害し、「聖騎士」の片足を切り落とす。
残るはフョードルとトルザ、そして片足を失った「聖騎士」の3人だけとなり、ここまで仲間に戦闘を任せていたトルザはついに背中の剣を抜いた。
それでブルードラゴンに斬りかかるのかと思いきや、トルザは後ろから剣でフョードルを真っ二つに裂き、殺害。
そして「主人公補正、発動」と「討伐士」のスキルを発動させる。
フョードルを殺害したことに動揺する「聖騎士」の少女にトルザはゆっくりと説明する。
「討伐士」の専用スキル「主人公補正」とは、死んだ仲間のレベルを自分のレベルに加算するスキルであること。
「結界士」「鼻魔導士」のレベルを加算した結果、トルザ自身はレベル30となったこと。ブルードラゴンのレベルは50であり、あと30足らないこと。そして「聖騎士」の少女のレベルは25であるということ。
つまり彼女を殺害し、「主人公補正」によって彼女のレベルをトルザに加算すればブルードラゴンを倒せるということ。
それらを説明したトルザに「信じていたのに」と涙を浮かべ「聖騎士」の少女はトルザによって首を切られ、殺害される。
こうしてブルードラゴンを討伐したトルザは、また新たな仲間を探しに街を去った。

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