多田くんは恋をしない(多田恋・ただこい)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『多田くんは恋をしない』とは、動画工房制作のオリジナルアニメである。
カメラマン志望の多田光良は、高校二年になる春、ラルセンブルクから日本にやってきた留学生のテレサと知り合う。テレサは、多田の隣人であり、クラスメートとなった。写真を通じて、多田とテレサの距離は縮められていく。しかし、テレサには、日本でできた友達にも言えない秘密があった。

『多田くんは恋をしない』の概要

『多田くんは恋をしない』とは、動画工房制作のオリジナルアニメ。2018年4月より、放映・配信開始。全12回。
2014年7月期放映『月刊少女野崎くん』(以下『野崎くん』)のスタッフ打ち上げのときに、また同じ顔ぶれで作品を作りたいという話が実現した作品である。監督(山崎みつえ)シリーズ構成・脚本(中村能子)キャラクターデザイン(谷口淳一郎)音楽(橋本由香利)色彩設計(石黒けい)撮影監督(伊藤邦彦)編集(武宮むつみ)など、『野崎くん』と同じスタッフが名前を連ねる。また、主演の中村悠一、主題歌のオーイシマサヨシも『野崎くん』放映時と変わらず、エンディングはヒロイン役のキャストが歌唱(『野崎くん』では千代CV小澤亜李)という共通点がある。

作品の軸は、留学生テレサと高校生の多田の関係の変化である。琴線に触れる言動を重ね、揺れ動く様子が丁寧に描かれる。
高校二年生になる多田光良は、カメラマンになる志を抱いている。作品のモチーフは、写真家だった亡父にならい、日本の情景を選ぶことが多い。桜を撮るために訪れた皇居で、時代劇マニアの外国人の少女・テレサと出会う。テレサは多田の隣人となり、学校でもクラスや部活動を同じくするため、2人は触れ合う機会が増える。写真を介して、お互いが取り返しようのない過去にとらわれていることを知り、多田とテレサの距離は縮められていく。テレサには留学期間が一年であること以外にも、多田との恋に踏みきれない理由があった。

オープニングでは、映画『ローマの休日』を彷彿させるカットを挿入されている。本編でも名画のオマージュがちりばめられていることが、視聴者から指摘されている。実在の地名が頻出し、協力を仰いだ光学機器メーカーの機材も登場することから、考証を楽しめる作品に仕上がっている。

『多田くんは恋をしない』のあらすじ・ストーリー

異国から来た少女

高校2年生の多田光良(ただみつよし)は、カメラマンになる夢を抱いて、学校の写真部で活動していた。皇居に桜を撮影に行った日、古風な日本語を使う風変わりな異国の少女と出会う。別れてからも何度も少女に出くわした多田は、雨に降られて途方に暮れる彼女を自宅である多田珈琲店に連れていく。少女が喫茶店から電話を掛けると、連れだという赤毛の少女・アレクがやってくる。2人はヨーロッパの小国・ラルセンブルクからきた留学生で、少女は名前をテレサ・ワーグナーと名乗った。

テレサとアレクは多田とクラスメートになる。テレサは多田のいる写真部に興味を持ち、アレクと一緒に体験入部をする。写真部は、留学生に撮影の楽しさを知ってもらうために「いい写真を撮ったほうが勝ち」というゲームをすることにした。テレサは多田と同じチームになり、アレクの取った写真は品評会で最優秀に選ばれた。そしてテレサとアレクは、写真部に入ることにしたのだった。

写真部の部長である杉本一(すぎもとはじめ)、通称ピン先輩は、後輩たちに不遜だが女生徒はまともに口をきけない。そんなピン先輩が好きなグラビアアイドル・HINAの写真集お渡し会で挨拶できるように、部員の長谷川日向子(はせがわひなこ)は練習に付き合う。テレサは長谷川がピン先輩に振り回されていると気にかけるが、長谷川がピン先輩に片思いしていることを知っているアレクは心配ないと言う。さらに実は、長谷川はグラビアアイドル・HINA本人なのだった。お渡し会当日、長谷川を除く写真部員が会場に集まった。HINAに対面したピン先輩はガチガチに緊張していたが、長谷川が教えてくれたことを思い出しながら、「生まれてきてくれてありがとう!」と絶叫した。

結局、HINAの正体が長谷川だと気付かないピン先輩だったが、握手会が終わった後、長谷川にお礼の電話をするのだった。

婚約者・シャルルの来訪

毎年7月のはじめ、多田の幼馴染であり写真部仲間である伊集院薫(いじゅういんかおる)催のお楽しみ会・伊集院薫ショーが行われる。伊集院は写真部員全員と多田の妹のゆいに手料理をごちそうし、銭湯を貸切にした。伊集院はエンターテイナーぶりを発揮し、いつもに増して賑やかだった。テレサにとっては、多田の過去や、伊集院の隠された側面を見ることになり、印象深い一日となった。しかし余韻を味わいながら帰ったテレサたちの部屋に、侵入の形跡がある。身構えながアレクがドアを開けると、そこにはテレサの幼なじみであり婚約者のシャルルがいたのだった。

シャルルは大学の休みを利用して来日したのだと言う。シャルルは欠点のない美青年で、写真部部員たちの心を掴んだ。翌日、伊集院の誘いで、写真部員たちはホテルのパーティーに出席する。会場には、シャルルと一緒にいるテレサとアレクの姿があった。思いがけずドレスアップした状態で対面したテレサと多田は、お互いに見つめ合ってしまった。会場の庭園に興味を引かれて外に出たテレサは、写真を撮っていた多田に遭遇する。すると急に雨が降りはじめ、2人は雨宿りしながら初めて会った日も雨が降っていたことを思い出した。

帰宅したテレサは、アレクに「留学が終われば国に帰り、シャルルと結婚して女王になります。その覚悟は日本に来た時からできています」と改めて誓ったのだった。

多田の家で飼われている猫、ニャンコビッグが帰ってこない。取り乱すゆいを見かねた多田たちは、ニャンコビッグを探しに出かける。ゆいは、片想いしている山下が乗り気で同行してくれることをひそかに喜んでいた。テレサたちも巻き込んだ捜索に、解決の糸口をくれたのはシャルルだった。シャルルが公園の猫にたずねた結果、ニャンコビッグは美容院マイルで飼われているチェリーの元に通い詰めていることが判明する。しかし同時に、山下の片思いの相手が美容室の千明であることもわかってしまい、ゆいは失恋するのだった。

富士山麓での撮影旅行

「星」をテーマにしたコンテストに向けて、写真部は富士山麓での撮影合宿を行う。シャルルもドライバーとして同行し、一行は小旅行気分を満喫する。夜になり、仕事でトラブルを抱えたシャルルを置いて、テレサたちは湖畔に向かう。雨雲に空が覆い隠されているため、部員は仮眠に入り、多田は一人で晴天になるのを待機していた。テレサも起きだして、2人は話をする。空が一気に晴れ、テレサと多田は歓声を挙げた。他の部員達も起き出し、撮影会が始まる。多田は朝焼けに見入るテレサにカメラを向け、シャッターを切ったのだった。

シャルルが帰国する日、テレサとアレクは見送りに行った。その場で改めてアレクに「ラルセンブルグに帰ってシャルルと結婚し、女王になる」という覚悟を問われたテレサ。「やはり、多田光良を好きになってしまったんですね」と言うアレクに、テレサはすぐに言葉を続けることができなかったが、「だとしても私は女王になります」と覚悟を伝えるのだった。

その日から多田に対する態度がぎくしゃくしてしまうテレサ。帰りには雨が降っており、テレサとアレクに傘を貸した多田は雨に濡れ、風邪をひく。テレサとアレクは寝込んでしまった多田の代わりに喫茶店の手伝いを行い、テレサは常連客から大好きなれいん坊将軍の展示会のチケットをもらった。看病のために多田の部屋に入ったテレサは、そこにあった写真を見て、これまでの思い出を回顧する。そして、眠っている多田にキスをして、密かに涙を流すのだった。

れいん坊将軍の展示会にきたテレサと多田。楽しい時間を過ごした2人が東京スターツリーに登ってみると、いつの間にか太陽は隠れ、雨が降っていた。雨を見ながら、多田は両親が事故にあった日の話をする。急な仕事で約束を反故にされた多田は両親を許すことができず、ちゃんと見送ることができなかった。2人はそのまま帰らぬ人になってしまったのだ。これまで誰にも言えなかった話をテレサにしてしまったのはなぜだろうと不思議に思う多田。話を聞いたテレサは「ご両親は事故に遭われたのは多田くんのせいじゃないと思います」、「だけど、素直に気持ちを伝えられなかったと多田くんが後悔しているなら、これからはきちんと伝えるようにする。それでいいんじゃないですか?」と言った。テレサの言葉に、多田は救われた思いがするのだった。

しかしその翌日学校へ行った多田は、テレサとアレクが急な事情で帰国したと伝えられた。

ラルセンブルクへ

多田たちに何も伝えることなくラルセンブルクへ帰国してしまったテレサとアレク。その後も連絡はなく、気が付くと季節は冬になっていた。伊集院がテレサの話を振っても「もう会わない人間の話をしても仕方がないだろ」と気持ちを押し込めた多田は、テレサとの思い出に引きずられながらもテレサの品物を処分しようとする。

写真部の部員達が部室の片付けをしていると、テレサが残した写真のデータが見つかった。データを確認してみると、楽しそうに笑うテレサの姿が残っている。写真を見終えた多田は「俺、先に帰るわ」と席を立ち、一人で家に帰った。夜、家にやってきた伊集院に「テレサちゃんのこと、好きだったんだろ」と尋ねられ、自分自身でも今ごろ気付いたことを後悔する多田。「いつも自分が大切に思っている人が突然いなくなる」と想いを吐露する多田だったが、両親と違い、テレサは生きている。祖父や伊集院と話をして、多田はテレサに会いにラルセンブルグへ向かうことを決意するのだった。

決死の覚悟で飛行機に乗り、ラルセンブルクへとやってきた多田は、祖父の知り合いだという人物の元へ向かう。クリスマス市を抜けて辿り着いた場所は、立派なお城だった。多田が周囲をうろうろしていると、その顔を見て、祖父の知り合いである竜崎麗子(りゅうざきれいこ)が声をかけてきた。竜崎はテレサの乳母で、テレサからはレイチェルと呼ばれている人物だったのだ。レイチェルに招かれ、シャルルやテレサと再会する多田。テレサはぎこちない様子で何も言わずに帰国してしまったことを謝罪し、自分がラルセンブルクの未来の女王であることを伝えた。そして、18歳になったらシャルルと結婚することを多田に伝えるのだった。

テレサから打ち明けられた真実に打ちのめされる多田。生まれてきた時から決まっていたことだと言われると、伝えたいことを口にすることもできなかった。密かにラルセンブルクまでついてきていた伊集院が「それでいいのか」と詰め寄るが、多田は何を伝えればいいのかもわからなくなってしまっていた。「伝えたとしても迷惑なだけではないか」と言う多田に、伊集院はこれまでの思いをぶつける。伊集院はずっと自分のことを後回しにしていた多田が、テレサのことを好きになり、もう一度伝えたいことがあると行動に移したことが嬉しかったのだ。伊集院の言葉に背中を押された多田は、レイチェルが密かに荷物に忍ばせてくれたパーティの招待状を手に、決意を固めるのだった。

翌日のパーティで、シャルルはテレサの本心を問う。シャルルはテレサが多田のことを好きになっていることを知っていた。そこへフォーマルスーツに身を包んだ多田が現れ、テレサにもう一度話をしたいと伝えた。テレサと向かい合った多田は、「これまで自分が幸せになることや恋とすることを考えたことがなかった」、「君には素直に自分の胸の内を話せて、これが恋なんだと初めて知った」と素直な気持ちを伝える。そして「君が好きなんだ……ごめん」と言う多田に対して、テレサも涙を流し、「私もあなたのことが好きでした」と涙を流す。そして2人はお互いに、「この恋を一生忘れない」と伝え、別れたのだった。

春になり、卒業式の日。卒業するピン先輩のお祝いをしている写真部の部員達。一方、ラルセンブルクでは、シャルル王女が婚約破棄としたという記事が新聞の一面になっていた。

多田が写真を撮ろうとすると、また雨が降ってくる。横から傘を差しだしてくれたのは、テレサだった。「あなたを追いかけて来ました」というテレサが傘を放り出す頃には、雨もやんでいた。抱き着いてくるテレサを多田は抱きとめ、2人は見つめ合う。雨上がりの空には虹が出ていた。

『多田くんは恋をしない』の登場人物・キャラクター

多田光良(ただみつよし)

CV:中村悠一

あまり物事に動じない。
飛行機嫌いで高所恐怖症。
甘いものは苦手。カレーは甘口が好み。
祖父不在時には、多田珈琲店を切り盛りしている。ニャンコビッグによると、コーヒー名人の祖父と同じくらい美味いコーヒーが淹れられるらしい。
店でコーヒーを飲むときのマイカップは、猫の足跡がついているもの。
写真のテーマは日本の名所や風物詩であり、著名な写真家だった亡父の作風を慕っている。

テレサ・ワーグナー / テレサ・ドゥ・ラルセンブルク

CV:石見舞菜香

本名はテレサ・ドゥ・ラルセンブルク。ラルセンブルクの未来の女王(立太子をしているのかは不明)。
好奇心が強く、注意力も散漫なため、向こう見ずなことをしかねない。
バレエ経験者。
「れいん坊将軍」で日本語を覚え、時代錯誤な日本語を使ったりする。

伊集院薫(いじゅういんかおる)

CV:宮野真守

多田珈琲店の常連で「いつもの」だけで注文が事足りる。
テーマを与えられても、撮る写真はセルフポートレートのみ。
女子生徒にはそれなりに人気はあり、道行く女性を見とれさせるイケメン。
十年前、日比谷公園の池で多田に助けられて親しくなった。親しくなった後に、多田の両親が亡くなったらしい(3話OP)。
河童を異常に怖がり、言葉だけで震えあがる。
自宅の料亭は格式もあるようで、欧州貴族が招かれるようなパ-ティーに招待されることもある(6話)。板前になる意志は確固たるもので、料理の腕前はなかなか(5話)。

アレクサンドラ・マグリット

CV:下地紫野

通称アレク。
幼少時代からテレサに近侍し、日本では一人でテレサをサポートしている。そのため警戒心が強く、行き過ぎた言動も見られる。
日本文化に精通しているが、納豆のにおいが苦手。
嘘をつくとき、左腕の肘のあたりを撫でる癖がある。
読書家で、最近はゆいに貸してもらった『ひまわり急行恋する事件簿』シリーズを愛読。

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