ガラスの仮面(Glass Mask)のネタバレ解説まとめ

「ガラスの仮面」は美内すずえによる日本の少女漫画作品。1976年から白泉社「花とゆめ」に40年以上も長期連載されている。2014年9月の段階で累計発行部数が5,000万部を超え、少女漫画の金字塔とも言われる大ベストセラー。
平凡な1人の少女・北島マヤが演劇への熱い情熱を滾らせ、演劇に全てをかけ、才能を開花させる。演劇界のサラブレッド・姫川亜弓と競いながら幻の名作「紅天女」を目指す超人気大河ロマン。

『ガラスの仮面』概要

「ガラスの仮面」とは、美内すずえによる日本の少女漫画作品。白泉社「花とゆめ」にて1976年から1997年20号まで長期連載されている。2008年からは雑誌を移し、「別冊花とゆめ」にて連載が再開された。
2014年9月の時点で累計発行部数が5000万部を超えている大ベストセラーである。

演劇を題材にしている作品で、作品の中で数多くの劇中劇が描かれている。
原作がある「たけくらべ」「嵐が丘」「奇跡の人」などの作品も題材として取り上げられているが、作者美内すずえのオリジナル作品も劇中劇として数多く登場している。
美内すずえオリジナル作品である「女海賊ビアンカ」を題材にした実際の舞台なども数多く上演されている。

なんの取り柄もない平凡な少女であるが、ドラマや演劇が何よりも大好きな少女北島マヤが、演じることへの情熱を強く持ち、往年の大女優・月影千草にその才能を見出されて、女優への道をひた走り、演劇界の幻の名作と言われる「紅天女」の役を目指し成長していく過程を描いた物語。

『ガラスの仮面』のあらすじ・ストーリー

千の仮面を持つ少女

北島マヤは母親と2人ラーメン店に住み込みで働く容姿も成績も平凡な13歳の中学生。ドラマや映画、演劇などが大好きで、出前先で芝居を見かけてしまうと夢中になるあまり出前を忘れてしまい、いつも母親に怒られてばかりいる。
ある日、近所の公園で子供たちにドラマの真似を見せていたマヤは黒ずくめで髪で半分顔を隠した女性に目をつけられた。マヤはもう一度芝居を見せて欲しいという女性の執拗な頼みを振り切り、家に逃げ帰った。

「椿姫」の舞台チケットを持っていた住み込み先の娘・杉子に、このチケットが欲しければ大晦日に全ての出前を1人で配り切れと言われ、それができたらチケットを譲ってもらう約束をマヤは取り付けた。大晦日、息が切れ、足は疲れ果て、手は岡持ちの重みでボロボロの状態でありながら、午前0時までに全ての出前を配り終えたマヤは、約束のチケットをもらい受けようと杉子に手を伸ばした。マヤの執念に怯みつつ、チケットを渡したくない杉子はチケットを風に飛ばして海に落としてしまった。マヤはチケットを拾おうと深夜の真冬の海に飛び込みチケットを拾い上げるという恐ろしい執念を見せた。

見事手に入れたチケットで「椿姫」を観劇できたマヤは、その後日常生活でも「椿姫」が頭に残っていて気もそぞろになってしまう。ある日出前に行った先でマヤは、以前公園で出会った黒ずくめの女性と出会い、女性にねだられるまま「椿姫」の舞台をそのまま演じた。
拙い演技ながら、たった一度しか見ていない舞台を全て再現できるマヤの稀有な才能に女性は驚き、マヤの才能を埋もれさせないように画策を始めた。

その女性の名は月影千草といい往年の大女優だった。演劇界の幻の名作と言われる「紅天女」の上演権を持つ月影の所には、その上演権を狙う大都芸能の速水真澄と劇団オンディーヌの小野寺一が上演権を譲るように連日通っているのだが、月影は「紅天女」は自分かもしくは自分が育てた女優しかできないとしてその要求を突っぱねていた。月影が全国を巡り、紅天女にふさわしい少女を探していると知っていた速水たちは、月影の屋敷で演技をするマヤを見て、マヤが紅天女候補なのかと気にかける。

演じることの楽しさを知ったマヤは、新聞で劇団オンディーヌの入団募集を見て劇団を訪れることにした。しかし行ってみると入団費が高くて入ることができない。マヤは仕方なく入団は諦めることにしたのだが、窓から練習を覗き見ていて、それに気づいた意地悪な団員から猛犬をけしかけられ怪我を負ってしまった。猛犬からマヤを助けてくれたのは団員の桜小路優と偶然その場に居合わせた速水真澄だった。
速水の計らいで練習を見学させてもらえることになったマヤは、成り行きでパントマイムを披露することになってしまった。逃げた小鳥を捕まえるという題材。パントマイムなどやったこともないマヤなので、稚拙な演技ではあるのだが、人の目を引きつけ、まるで逃げた小鳥が見えるかのような自然な演技を披露した。団員はマヤの稚拙なマイムを笑うのだが、その中のひとり姫川亜弓だけはマヤの演技の素晴らしさに気づき、その才能を恐れるようになった。

月影が自分の演劇研究所を開設すると聞いたマヤは、母にそこに行きたいと頼み込むのだが一蹴され、仕方なく家出をして月影のもとに転がり込んだ。
月影のもとで演技の練習に励むマヤの前に、母が連れ戻しにやってきた。なんの取り柄もないマヤが女優になどなれるわけがないと、マヤを強引に連れ戻そうとする母に、月影は自分ならばマヤの取り柄を伸ばし育てることが出来ると言い切った。母でもないくせに偉そうにと激昂する母は、熱湯が入っているやかんを掴み、マヤを返さなければやかんをぶつけると脅した。脅されても決してマヤの前をどかない月影に苛立った母は、言葉通り熱湯の入ったやかんを月影めがけて投げつけた。女優になるマヤにやけどなど負わせられないと月影はマヤを庇い、そのまま熱湯を浴びてしまった。熱湯を浴びながらもマヤを守ろうとする月影の態度に母は怯み、「かってにおし」と叫んで帰っていった。

月影はマヤに泣き面、笑い面、怒り面の3つの仮面を見せ、女優はたくさんの仮面を被らなければならないと話す。そしてマヤは千の仮面を持っており、それがマヤの強大な取り柄であると語った。

炎の階段

劇団つきかげの練習の日々が始まった。練習生は実力に合わせてAクラスから順に振り分けられる。マヤはCクラスになった。正式な演技の勉強はしておらず、テレビや映画の真似ばかりしてきたマヤの演技はCクラスでも下手だとわかるレベル。ある日、「はい」「いいえ」「ありがとう」「すみません」の4つの言葉だけを使って芝居をするという題材を与えられたマヤは、言葉の持つ意味、ニュアンス、アクセントなどの難しさに気づく。同じ言葉でも使われるシチュエーションやアクセントで場面場面で使い分けられていると気づいたマヤはそれをどう表現したらいいのか考え始めた。

ある日、劇団オンディーヌの桜小路に会ったマヤは、彼に誘われて姫川亜弓が出るという芝居の稽古を見学に行った。稽古での亜弓の演技は素晴らしく、マヤはその迫力に圧倒される。休憩時に亜弓に話しかけられたマヤは、現在月影のもとで練習していることを話した。すると亜弓は高笑いしながら、月影がかつての大女優であり、自身の最大の当たり役、「紅天女」の後継者を探しているとマヤに話した。亜弓も亜弓の母も「紅天女」に憧れ、その役を目指していたのだが、月影はその役をやる女優は自分で育てるといい劇団つきかげを創設したのだという。その話を聞いた記者たちが記事になると騒ぎ出すと、マヤたちと一緒にいた速水が騒ぎになる前にさりげなくマヤをその場から連れ出し事なきを得た。

予告されていた4つの言葉のみでの芝居を披露する日、亜弓が劇団つきかげを訪れ、練習を見学したいと言ってきた。
自分も同じ芝居をやりたいと申し出た亜弓に許可を出した月影は相手役にマヤを指名した。亜弓は好きなことを話し、芝居を進める役、マヤは4つの言葉だけしか使うことができない。他の団員たちがやっていた時には、皆数分で言葉に詰まり、芝居は終わってしまっていた。
亜弓はマヤが答えにくい質問を選び、芝居を進めていくが、マヤは4つの言葉を巧みに使い分け、時にはジェスチャーも交えて応えていく。2人の芝居は一時間以上も続いた。亜弓はマヤの底知れぬ才能に気づき、恐れるようになった。

劇団つきかげの初めての発表会が決まった。演目は「若草物語」南北戦争の頃のアメリカが舞台で、貧しいけれど暖かい家庭に育った4姉妹の愛の物語。
マヤは4姉妹の3女、ベス役に決まった。どうしたらベスになりきれるのか、ベスの気持ちが分かるのか、マヤには分からず練習でも上手く演じることができない。
同じ練習生の水無月さやかはベスをやりたいと切望しており、上手く演じられないマヤではなく自分を使って欲しいとアピールする。
演出家はマヤを降ろすように月影に進言し、月影はマヤに1週間の猶予を与え、その間にベスを掴めなかったら役を降ろすと宣告した。マヤはベスになりきるため、日常生活でベスとして過ごすように月影に命令された。
マヤは月影に指示されたように、1週間演技の練習もせず、ベスとして掃除や洗濯、趣味の編み物などをして過ごしている。そうした中でだんだんとベスの気持ちがわかるようになり、ベスになりきれるようになってきた。

1週間後、ベス役のオーディションが開催され、ベスとして椅子に座れという課題を出された。マヤを含めて4人の少女がオーディションを受けたが、長時間ただ座るだけの演技に誰もが戸惑い始めていた。その中でマヤはベスとして、眠ければあくびをしパントマイムで編み物をし、空想を楽しむというベスそのままの姿を披露し、見事ベス役を勝ち取った。

ベスにはピアノを弾くシーンがあるため、ピアノの練習をしたいというマヤのために、桜小路が協力してくれることになった。桜小路の家でピアノを習いつつ、劇団でも演技の練習をするマヤ。猩紅熱にかかって苦しむシーンをどうしても上手く演じることができないマヤは悩み苦しむ。
雨の日、桜小路に演技の相談をしようと家を訪ねると、母親が対応に出て桜小路は留守だと言われた。一度は帰りかけたマヤだったが、借りていた本を返し忘れていたことに気づき戻ると、家には母親に抗議をする桜小路の姿があった。家が貧しく、父親もおらず、家出までしているマヤとのつきあいは桜小路のためにはならないと、桜小路の母はマヤの来訪を拒んだのだ。ショックを受けたマヤは雨の中泣きながら帰り、なんの取り柄もないみそっかすの自分ではそう言われても仕方がないと思いながらも涙が止まらなかった。そんな自分でも芝居にかける気持ちだけは誰にも負けない、と思い、練習生の青木麗から「転んだことのない人間に転んだときの痛さはわからない…」と言われたことを思い出し、ベスが熱に浮かされた演技を理解するため、冷たい雨に身をさらした。一晩中雨に打たれ続け、高熱を出したマヤはそれにより猩紅熱に浮かされたベスの演技を掴むことができた。

発表会当日、会場には大都芸能の速水真澄や有名な演出家小野寺一、演劇評論家や有名女優の姫川歌子、亜弓親子、さらに多くの記者などが席を埋めていた。これは劇団つきかげを潰し、紅天女の上演権を月影から奪い取ろうとする速水真澄の計略だった。演劇評論家には初めから酷評を書くように依頼し、雑誌に掲載させることで劇団つきかげの評判を落とし、月影自らが紅天女を演じられる女優を育てるなどということができなくなるように仕向けているのだ。

マヤは高熱が引かないまま舞台に立ち、演技をしている。共演者はマヤの体調を気遣い、マヤのセリフが遅れたり演技がもたついたり、壺を割ってしまったりするアクシデントをフォローし、芝居は続けられていく。雨の日のことを謝ろうと楽屋を訪ねた桜小路は、マヤの体調不良を知り責任を感じてしまう。桜小路からマヤの体調を聞いた亜弓や速水は高熱を出しながら、それでも演技を続けるマヤの演技にかける情熱を信じられない思いで見つめる。
舞台袖ではフラフラになりながらも、いざ舞台に立つと熱など微塵も感じさせない演技をするマヤ。ベスが猩紅熱で苦しむ演技では迫真の演技を見せて舞台は大拍手で幕を閉じた。
どうしても月影から上演権を譲り受け、紅天女上演を目指す速水は、大都芸能の力を使って評論家たちに悪評を言わせたのだが、なぜかマヤたちの舞台に妙な敗北感を覚えていた。高熱を出しながらひたむきに演技をするマヤの姿、マヤの情熱に心が動かされた速水は、マヤに紫バラの花束を匿名で贈り、やがてマヤの成長を見守るようになっていく。

嵐の中を行く

雑誌に劇団つきかげの発表会の酷評記事が載り、さらに月影が、援助を受けている芸能プロの代表と秘密の関係があると雑誌に掲載されてしまった。月影は雑誌社に抗議をするのだが取り合ってもらえず、激高したため心臓に負担が掛かりそのまま倒れてしまった。雑誌の悪評を信じた人々が続出し、劇団つきかげの劇団員は一人、また一人と劇団を辞めていった。月影の援助をしている青柳プロからは、芝居に対する酷評を批難され、今度開催される演劇コンクールで好成績を残さない限り、月影への援助を打ち切ると宣告してきた。
演劇コンクールへの出場申し込みにきた月影は大都芸能の速水や小野寺に出会った。雑誌の酷評のことを小野寺に揶揄され、速水が手を回したせいだと月影が詰ると、速水は大都芸能に逆らうからこのようなことになると月影を笑った。帰りが遅い月影を迎えにやってきたマヤはこの会話を聞いてしまい、今まで親切だと思っていた速水が本当は冷酷な仕事人間で、目的のためには手段を選ばない人間なのだと知った。動揺したマヤが落とした手帳から紫のバラの押し花が落ち、速水はマヤが紫のバラをとても大切にして、心の支えにしていることを知り、思わず嬉しさに顔を綻ばせた。

劇団つきかげの演劇コンクール東京大会の演目は樋口一葉の「たけくらべ」に決定した。主役美登利にはマヤが抜擢された。順調に練習は進むのだが月影は何かもう一つ足りないものがある気がしていた。
同じく東京大会に出場する劇団オンディーヌの演目も劇団つきかげと同じ「たけくらべ」、主役美登利は大女優・姫川歌子と有名映画監督・姫川貢の一人娘で天才と名高い姫川亜弓が演じる。亜弓はまるで原作から抜け出したかのような完璧な美登利を演じている。
大会会場で一回だけできる舞台稽古に訪れた劇団つきかげは、劇団オンディーヌの小野寺の策略により、舞台稽古日をずらされてしまい、本番前の舞台稽古をすることができなくなってしまった。小野寺に抗議するため会場に入ると、そこでは劇団オンディーヌがたけくらべの舞台稽古をしていた。亜弓が演じる完璧な美登利に衝撃を受けたマヤは自信を失くし月影の前でもう演じられないと弱音を吐いた。それに怒った月影はマヤを台本と一緒に物置に閉じ込めてしまった。
練習にも出ず、何もすることがないマヤは退屈になり、もう一度台本を読み始めた。すると、同じセリフでも表情や言い回しを変えると全く別の印象になるということがわかった。今まで役になりきることだけを考え、役作りを怠っていたことに気づいたマヤは、亜弓とは全く違う美登利を作ろうと練習を始めた。そのマヤの様子みていた月影は、マヤに合わせて扉越しにセリフを合わせてきた。月影は同じセリフを何パターンも試してマヤらしい美登利を作っていく。この作業は一晩中続けられ、二人共ボロボロになりながらもようやくマヤらしい美登利が完成した。コンクール1週間前のことだった。

演劇コンクール当日、劇団つきかげの出場順は5日目最終日、劇団オンディーヌの直後に割り振られている。
これも演劇協会の理事を務める小野寺が仕組んだことだった。2回続けて同じ演目を見ると、観客は飽きて興味が薄れてしまう。また、亜弓演じる完璧な美登利を見た後に、まだまだ素人のマヤの演技では見劣りすると考えたのだ。
オンディーヌの舞台は、樋口一葉の原作、そのままのような素晴らしい舞台で、観客からの評価も非常に高かった。

休憩を挟んで劇団つきかげの「たけくらべ」が上演された。
小野寺の予想に反して、つきかげの「たけくらべ」は観客の反応が素晴らしく、非常に盛り上がっている。観客の大歓声を聞き会場に入った劇団オンディーヌの役者たちは、自分たちと同じ芝居でありながら全く違う解釈をしている劇団つきかげの「たけくらべ」に目が離せなくなった。
マヤは新鮮で非常に魅力的な美登利を演じ、結果、劇団つきかげと劇団オンディーヌは同率一位となり全国大会出場が決まった。

春の嵐

全国大会出場が決まり、全国大会で演じる新しい演目が選ばれた。「ジーナと5つの青いつぼ」は、村はずれの森の中の一軒家で一人留守番をする少女ジーナが、ふとしたことから預かった青いつぼをめぐって様々な危険に遭うというサスペンス劇だ。主役ジーナにはマヤが選ばれた。全国から選ばれた高い実力を持つ劇団を相手に好成績を残さねばならない劇団つきかげは、才能あるマヤに主役を託したのだ。
たけくらべで高い演技力を見せたマヤが主役をすることは、ほとんどの劇団員に好意的に受け入れられたのだが、2人の劇団員はマヤばかりに注目が集まることを苦々しく思っていた。

稽古は順調に進み、演劇コンクール全国大会当日を迎えた。
さすが全国から選ばれた劇団だけあって、どこも素晴らしい芝居を見せる。なかでも北海道代表劇団一角獣の芝居はエンターテイメントに溢れ、素晴らしく面白い芝居で、観客にも大好評だった。
大会4日目、劇団オンディーヌの「灰の城」が上演された。没落した貴族のお姫様を演じる亜弓は、役作りのためげっそりと痩せていたのだが、その演技はまさに貴族のお姫様、鬼気迫る演技を見せオンディーヌも審査員の高評価を得た。

マヤばかり優遇している月影に不満を持ち、文句を漏らしている2人の役者に、劇団オンディーヌの小野寺が近づいた。劇団つきかげの邪魔をすればオンディーヌでいい配役を与えると言われた2人は、月影を裏切り小野寺の言うとおりに、劇団つきかげへの妨害工作を始めた。
5日目に上演予定のつきかげの大道具をめちゃくちゃに壊し、衣装を切り裂いた。これで劇団つきかげは諦めると思っていたのに、マヤが大道具を直し始めたのを見て、周りの劇団員も最後まで上演を諦めずに動き始めた。切り裂かれた衣装の代わりに、高校の演劇部で衣装を借りられることになった劇団員たちは、衣装が無事だったマヤを残して衣装を借りに行った。残されたマヤは、劇団一角獣の助けを借りて、大道具、小道具を修理して待つ。
衣装を借り、会場に戻ろうとしたのだが、小野寺に与している2人は車が故障したと嘘をいい劇団員を足止めし、舞台に間に合わないように画策した。

結局、劇団員たちは上演時間に間に合わず、マヤはひとりで舞台に立つ決意を固めた。
大勢の登場人物がいるはずなのだが、マヤは家の中で窓越しに登場人物たちと会話するという形に芝居をアレンジし、たった1人で1時間45分もの芝居をやり通した。

マヤの演技は素晴らしく、観客が選ぶ一般投票で「ジーナと5つの青いつぼ」は1位に選ばれた。2位は劇団一角獣、3位が劇団オンディーヌという結果だった。
審査員が選ぶ大賞が発表される前に、オンディーヌの小野寺が劇団つきかげの舞台について異議があると手を挙げた。台本では14人の登場人物がいたにも関わらず登場したのはたった1人、台本を大きく変える身勝手な演技をマヤがしたとして、神聖なる演劇精神を汚したというのだ。
小野寺のこの意見を受けて、審査員は審査をやり直し、結果1位は劇団オンディーヌ、2位は劇団一角獣。劇団つきかげは失格となった。
この為、月影は青柳プロから援助を得られなくなり、劇団つきかげは潰れることになってしまった。

1位になったものの、観客の人気はマヤに集まり、亜弓の気持ちははれない。亜弓はマヤに強い敗北感を持つことになった。

あした草

解散を余儀なくされた劇団つきかげ。稽古場も寮も青柳プロに明け渡さなければならず、劇団員は散り散りになった。それでも月影のもとで演技を学びたい劇団員が数名残った。マヤは月影と劇団員の青木麗とともに古びた安アパートで一緒に暮らすことになった。他にも水無月さやかや春日泰子、沢渡美奈は親からの仕送りをもとに下宿をし、みんなでアルバイトをしながら稽古をし、劇団つきかげの公演資金を貯めようとしている。
しかし、まともな稽古場などなく、早朝や土手や深夜の公園などで演技の稽古をしているが、満足な稽古はできない。古びたアパートのため、アパートでの稽古もできない。
しかしようやく稽古場として古びた教会を借りられることになった。

つきかげの皆が働く中、中学生のマヤが働く場所はない。自分もなにか働けないかと考えたマヤは新聞で見た田渕エミの映画「白い青春譜」のクラスメイト募集という記事を見つけ、これに応募することに決めた。オーディションの演技審査では素晴らしい演技で審査員の目を釘付けにしたのだが、最終審査の面接で、容姿が優れているわけでもなく地味なマヤは好印象を得ることができず、クラスメイト役にはもれてしまった。しかし、その演技は素晴らしかったため、そのまま帰すには惜しいとしてセリフがひとつだけの端役をしないかとスタッフに持ちかけられた。その役は、主人公が入院する病院の入院患者のひとりで、足の悪い少女の役だ。マヤは、主人公が落としたラケットを持って、悪い足を引きずりながら階段を上り、主人公にラケットを渡す役。端役のため演技指導はしてもらえないので、自分で十分に稽古してくるようにとマヤは言われた。
足が悪い演技をうまく出来ないマヤは、自分の足を片足折り曲げたまま紐で縛り、片足で階段を登る練習を始めた。セリフが一言しかない端役のために、懸命に練習するマヤの姿は映画のスタッフ、共演者には奇異なものに見えた。
撮影当日、演出家が撮影を見学に訪れ、足を引きずりながら階段を登る練習をしているマヤをみて、驚いた。スタッフにマヤがオーディションに落ちたと聞いた演出家は、スタッフの目は節穴かと呆れ、マヤの経歴をスタッフに教えた。マヤの演技は本当に足の悪い少女そのままであり、ひたむきに階段を登る姿はカメラマンや監督の目を引き、本来ならば後姿しか映らないはずのマヤのアップが画面に映し出された。主役・田渕エミは、マヤの演技にかける情熱に打たれ、今までのいい加減な演技を反省した。

自分はやはり演劇をしていたいと、学校の演劇部の舞台に立たせてもらおうと部に掛け合うと、新入部員のように雑用をこなさなければいけないと言われてしまう。演劇のためならばとマヤは懸命に雑用をこなしていく。演劇部が上演する舞台で、急な欠員が出て、マヤが代役として出演することになった。普段のマヤからは考えられない凛とした女王の姿に演劇部の部員は驚愕した。舞台を降りたマヤは冴えない地味なマヤに戻ってしまう。
演劇部の舞台で女王役をやらせてもらったマヤはもっともっとたくさんの役に挑戦したいと思うようになっていく。

ある日、学校から帰ると、アパートに速水真澄が来ていて、月影に紅天女の上演権を譲るように交渉をしていた。交渉の最中に月影は心臓の発作を起こし、倒れてしまった。速水はマヤに医者を呼ぶように指示を出し、マヤが戻ってくるまで月影の看病を続けた。戻ったマヤは速水の看病によって落ち着いて眠っている月影を見て安心した。マヤは冷酷で月影にひどいことばかりをする速水が月影の看病をしたことに驚き、帰りを見送ろうとした。すると速水は、月影に負担をかけたくないなら大都芸能に入らないかと誘ってきた。マヤ一人分でも食い扶持がなくなれば月影の負担が減るというのだ。その言葉はマヤの胸に突き刺さった。

月影の負担を減らすため、また何か舞台や映画の募集でもしていないかと雑誌をめくっていると、姫川亜弓が「美女と野獣」の舞台で野獣の手下というコミカルな役で好評を博し、さらに、子供向けの王子とこじきという舞台も予定していると書かれていた。マヤがライバルとして意識している亜弓が様々な役に挑戦ていることに、マヤは焦りを覚えていた。

月影の容態が良くならず、入院する必要があるのだが、入院・手術費50万を劇団つきかげの団員たちは工面することができず悩む。そんな時に、かつて劇団オンディーヌの小野寺にそそのかされて、演劇コンクール全国大会の邪魔をした2人がちり紙交換をしているのを見かけた。マヤや麗は2人が犯人だとは知らず、懐かしさのあまり声をかけた。すると2人は月影の現在の状態を聞き、自分たちの罪を告白し始めた。小野寺にオンディーヌでいい役を付けると言われ、つきかげの大道具や衣装を壊し、車の異常を装い麗たちを舞台に立たせなかったことを2人はマヤたちに謝罪した。つきかげを潰したのは劇団オンディーヌの小野寺。大都芸能の速水もこの計画に関わっていたと決めつけ、マヤは速水に対して強い憎悪の気持ちを滾らせた。
アパートに月影の見舞いに来た速水を見かけたマヤは、親切そうなことをしても全国大会でマヤたちにした仕打ちは許さない、速水の顔を見たら手術をしなければならない月影の病状が悪くなる、と言って、速水を追い返した。マヤの言葉と怒りを受け止めた速水は、月影の主治医に月影の病状を確認し、一刻も早く入院させなければいけない状態にも関わらず、入院費が用意できないでマヤたちが苦しんでいるという状況を知った。

翌日、アパートに月影を入院させる迎えが来て、月影を連れて行った。それを手配したのはマヤのファンと名乗る人物で、入院費用等全て用意するという。紫のバラの花束にメッセージが添えられており、マヤの舞台姿を待っていると書かれていた。ファンの好意に応えるため、マヤは舞台に立ちたいと熱望するようになる。

芝居に使ってもらえる劇場や舞台はないかと劇場巡りをするマヤだが、雇ってくれる劇場はない。たくさんの劇場を回ったうちの一つ、栄進座で座長・原田菊子の興味を引いたマヤは、演技テストを受けさせてもらえることになった。原田から合格をもらったマヤは「おんな河」という舞台に立てることになった。
マヤがもらった役は田舎から出てきた子守の役で既に結城麻江という女優がもらっていた役だった。結城は舞台で目立ちたいと思い、演出家や座長・原田の演出通りに演技をしようとせず、原田に逆らってばかりいた。練習中には何を言われても、舞台に立ってしまえば後は自分の好きに自由に演じられると結城は考えていたのだ。
原田は、結城の芝居全体のことを考えない自分勝手な行動を反省させるため、結城を降ろしマヤを抜擢したのだ。

マヤは田舎出の世間知らずな子守の役を、見事に演じた。その演技は人の目を引き、話の中心が子守から主役に移った後でも舞台の中で目立っていた。役を取られた結城はマヤを恨み、一矢報いたいと子守用の人形に細工をし、少し動くだけで人形の首が取れるようにしてしまった。それを知らずに舞台に立ったマヤは、振り向いた瞬間に人形の首が取れ落ちたことに驚いた。しかし、何事もなかったように人形の首を拾い、本体に装着すると「ほんに子守も楽じゃねえ」とニッコリと笑い会場を笑わせた。このようなアクシデントにも関わらず、冷静に芝居を壊さないようにアドリブで演技をこなすマヤの天性の才能に、周囲は驚き、人目を引くマヤの演技に、自分の役が食われてしまうと慄いた。
座長・原田はマヤを「舞台あらし」として、マヤをこの公演を最後に使うことはなかった。

舞台あらし

少しでも芝居に関係していたいマヤは、演劇サークルの手伝のアルバイトを始めた。舞台に出るわけではなく、雑用のアルバイトだが、芝居に関われるので楽しく働いていた。演劇サークルが幼稚園で「白雪姫」を演じることになり、マヤはその手伝いで幼稚園に行ったのだが、演劇サークルが交通渋滞にあい時間通りに会場に着けず子供たちが騒ぎ出した。マヤは子供たちを退屈させないために、1人で「白雪姫」を演じ始めた。マヤの演技に引き込まれた園児たちは、演劇サークルが到着してもマヤの一人芝居をねだり、結局マヤが最後まで演じるのを、演劇サークルのメンバーは待つことになった。演劇サークルの劇が終わると、子供たちはマヤの所へ行き、また来て欲しいとねだっている。演劇サークルのメンバーは自分たちよりも受けてしまったマヤにプライドを傷つけられ、マヤのアルバイトをクビにした。

落ち込むマヤに、栄進座での舞台を見た東洋劇場の会長がマヤを気に入り、次の芝居のオーディションを受けないかという話が来た。その芝居は「嵐が丘」。主人公・キャサリンの子供時代の役だ。「嵐が丘」の内容を知らないマヤはオーディションで大失敗をするのだが、話を知らないからできなかっただけで、伸びる可能性があるとしてマヤに決定した。情熱的で激しく野性的なキャサリンの演技を掴むことができず悩むマヤは、親が共働きで寂しい子供と知り合い、子供がもっとマヤと遊びたい、と激しく駄々をこねる姿を見て、キャサリンが激しくヒースクリフを慕う気持ちを理解した。

舞台の上でマヤ演じるキャサリンは、ヒースクリフに向けて直向きで一途な愛情を、激しく真っ直ぐに向ける情熱的な演技を見せた。ヒースクリフを演じる真島良は、マヤの情熱的な激しい演技に応え、「嵐が丘」の子供時代は評判となっていった。しかし、マヤの演技は観客の目を引く素晴らしい演技なのだが、大人時代と違和感を感じさせ、周りとの調和がとれていない。観客の評判は良くてもこの舞台は失敗だったと、マヤを気に入りこの芝居に誘った会長は言った。

劇団つきかげのもとに劇団一角獣が訪ねてきた。合同公演をやることになり、マヤにも役が振り当てられた。演目は「石の微笑」マヤはセリフもない人形の役だ。月影は、栄進座の「おんな河」や「嵐が丘」でのマヤの演技を把握していて、マヤに自分をころす演技を学ばせようとしていた。入院中の月影の病室で演技を見てもらったマヤは、人形としてただ座っているのではなく、人形としての演技があることを知った。人間のようには動かない人形の関節の動き、力を加えられた時の動きなどがあることを知った。なかなか人形になりきれないマヤの体に月影は竹の物干しで作ったギプスをくくりつけ、関節しか動かせない人形の動きを学ばせた。
病院を抜け出し、マヤたちを指導する月影を病院に連れ戻すために稽古場に来た速水は、マヤの体に物干しで作ったギプスが付いているのを見て、芝居にどうしてそこまで出来るのか、情熱を傾けられるのかと驚愕した。
速水が中学を卒業後の進路をマヤに問うと、マヤは働きながら芝居を続けるという。中卒で働きながらの生活は苦しいと諭すのだが、高校に行く金銭的余裕もないとマヤの気持ちは変わらない。それならば、高校への学費援助もマヤのプロデュースも全部やるから大都芸能に入れと速水は誘うのだが、マヤははっきりとその誘いを断った。

翌日、学校で校長室に呼ばれたマヤは、いつも紫のバラをくれるマヤのファンが高校へ行く手配をしたので従うようにと話をされた。マヤは芸能科もある有名な一ツ星高校に入学できることになった。
紫のバラの人の期待に応えるため、マヤは人形役を掴めるように練習を重ねる。

「石の微笑」公演当日、姫川亜弓が舞台を見に来ていた。「嵐が丘」で共演した真島良も来ている。無名の劇団の公演なので客の入りがほとんどない中、舞台は始まった。マヤ演じる人形は、まるで人形そのもので、本当に人形なのではないかと錯覚するほど完璧だった。舞台は大成功を収め、徐々に評判が広まり、劇場は大盛況となった。
そんな中、マヤがかつて母と一緒に住み込みで働いていた中華料理店の杉子がマヤを訪ねてやってきた。横浜で別れたマヤの母が、肺を患い、住み込み先の中華店を辞め、行方をくらませたというのだ。街中で母を見かけたような気がしたマヤは母を探して歩くのだがどうしても見つからない。母が気に掛かり舞台での演技で人形になりきれず、マヤは芝居の最中に涙を流すという失態を犯してしまった。麗の機転で芝居は壊れずに済んだが、芝居をぶち壊しにしてしまうところだったマヤに月影は怒り、マヤに役者失格と言い放ち謹慎を申し渡した。

その後もマヤは行方不明の母を捜すため、街を歩き続けた。疲れ果て劇場で休んでいると、速水と出会った。雨に打たれてずぶ濡れになっていたマヤを気遣う速水からマヤは逃げ出そうとするのだが、速水から急遽欠員ができた芝居の出演依頼をされ、その役を受けることになった。

「夢宴桜」という舞台で姫川亜弓も華族の令嬢役で出演していた。マヤ演じる千絵は華族の放蕩息子が芸者に産ませた子供で、亜弓演じる月代のいとこという役どころだった。舞台の若手共演者たちは、原田菊子がマヤにつけた「舞台あらし」という評判を知っており、マヤが舞台に出ることで舞台が荒れるのは困るとして、マヤに嫌がらせをすることにした。台本を古いバージョンのものにすり替え、マヤが舞台上で困るさまを笑ってやろうというのだ。
順調に進んでいた舞台だったが、マヤが知らない場面がやってきた。舞台袖にいたマヤは、舞台上で呼ばれてしまい、セリフも流れもわからないまま、舞台に立った。舞台で名を呼んだのは、マヤに嫌がらせをした人物だったのだが、マヤが千絵としてアドリブでする芝居についていけなくなっていた。その状況を見ていた亜弓は芝居を壊さないため、マヤのために台本にはないのに、舞台に出て話の流れを壊さないようにマヤをリードした。お互いに台本がないアドリブの中、千絵として月代としての演技にはひどい緊張感があった。亜弓にリードされ、千絵として受け答えるうちに退場のシーンを迎えたマヤは退場し、舞台は亜弓のおかげで芝居を壊すことなく終えることができた。
内容を全く知らないマヤをリードし、マヤに千絵として適切な演技をさせた亜弓の才能にマヤは震え、亜弓も内容を全く知らないのに千絵として亜弓の演技に合わせたマヤの才能に驚愕した。

ある日、マヤに「奇跡の人」のヘレン役の話が舞い込んだ。舞台「石の微笑」の人形の演技を見て、選ばれたのだという。ヘレン役に選ばれたのは5人で、オーディションをしてヘレン役を選ぶというのだ。選ばれた役者の中には亜弓がおり、演出家はマヤが憎む小野寺が務める。そんな舞台には出たくないとして、マヤはこの話を断った。

後日、入院中の月影に呼ばれたマヤは、謹慎中であるにも関わらず「夢宴桜」の舞台に出たことを咎められ破門を宣告されてしまった。マヤは必死に謝るが、月影はヘレン役をオーディションで勝ち取れたら謹慎を解き、破門も取り消すと言った。
一度は断ったものの、破門取り消しのため、マヤはオーディションを受ける決意をした。

炎のエチュード

舞台「奇跡の人」のヘレン役をつかむため、マヤはつきかげの団員が稽古場としている教会で練習に励んでいた。月影も病院を抜け出し稽古をつけてくれる。しかし、教会が代替わりし、新しい神父は古びた教会を壊し、近代的な教会を建てるので、もう稽古場として貸し出すことはできないと言う。月影も体調が悪化し、マヤはヘレンを練習する場を失ってしまった。マヤが稽古場に困っていることを知った速水は、自分の別荘までの切符と紫のバラを贈り、そこで十分にヘレンの練習をすればいいと別荘にマヤを招待した。しかし、招待する条件として自分のことは一切詮索しないことを約束させた。長野の別荘でマヤはヘレン役を掴むための練習に入った。
一方の亜弓は、盲聾唖者の施設で盲聾唖者のお世話をしながら彼らを観察していた。そこに雑誌記者が訪れ、演技のために盲聾唖者の面倒を見るとは不謹慎ではないかと批判した。施設の院長は、真摯にボランティア活動をした亜弓に対し、今度はそこで亜弓自身が盲聾唖者として過ごすことを許可した。実際には目も耳も機能しているはずなのに、亜弓のその姿は盲聾唖者そのものだった。雑誌記者が、試しに亜弓の前にりんごを置いても何の反応もなくそのままりんごを踏み、転んでしまった。見えているにも関わらず全く躊躇せずにりんごを踏んだ亜弓の演技に、雑誌記者たちは驚くばかりだった。
一方のマヤもヘレン役をつかむため、耳に粘土を詰めて音を遮断し、目には目隠しをして光を遮断した生活をしていた。そのため、マヤが紫のバラの人から招待された別荘の中は、マヤがぶつかり落としたもので散乱し、ひどい有様だった。別荘の管理人は、その状況を速水に連絡し、速水はマヤの様子を見るために別荘へと向かった。
速水が別荘についてみると、部屋はボロボロ、マヤ自身も何度も転んだせいかあちこち打ち身だらけだった。音も光も遮断しているマヤには速水の訪れは分からず、動こうとして転びそうになった所を速水に抱きとめられた。急に感じた人の腕の感触や体温に驚き、マヤは速水の手のひらに「あ・な・た・は・だ・れ?」と書いた。速水はマヤに紫のバラを触らせた。するとマヤは、今まで困った時、何度も助けてくれた紫のバラの人だと気づき、速水に抱きついた。泣きながら嬉しそうにすがりつくマヤを速水は思わず抱きしめてしまった。マヤをソファの上に運び、立ち去ろうとする速水にマヤは名前を教えて欲しいと懇願した、速水は声を出さず、マヤの手のひらに「あなたのヘレンを楽しみにしています」と書き、その場を立ち去った。
来てくれた紫のバラの人のためにもヘレンをしっかりと掴もうと、マヤは音と光を遮断した生活を続ける。そうして暮らすうちにマヤは本当に目も耳も聞こえず、しゃべれないヘレンになりきっていった。

そしてオーディションの日、候補者5人は集められ審査が開始された。
一室に通された候補者たちは、ヘレンとして遊ぶように課題を出された。3人の候補者は、床に置かれたおもちゃを使ってヘレンの遊びを表現した。4人目亜弓はその指示を聞くと、目に力のない表情になり、その場に座り爪を弾き始めた。余りにも長く爪ばかり弾いているので審査員は亜弓にボールをぶつけ、その反応を見ることにした。
審査員の投げたボールは手元が狂い、亜弓の顔面に当たってしまった。亜弓はボールが目の前に迫ってきていても避けることもなく、まともに顔でボールを受け止める演技を見せ、審査員たちの度肝を抜いた。

5人目、マヤもその場に座り込み昼寝を始めた。真面目にやりなさいと台本で肩を叩かれるとその台本を奪い取り、ビリビリに破くという演技を見せた。審査員たちは、普通の人間なら、周りにおもちゃが並べられていたらそのおもちゃを使って遊び始めるだろうが、本物のヘレンだったら、周りにおもちゃがあるなどとは気づかず、気づいたとしてもそれがおもちゃであると、どうして知ることが出来るだろうと思いあたり、おもちゃで遊ばなかった2人の候補者の才能に驚愕した。

その他の課題でも亜弓はヘレンを完璧に演じ、もう1人金谷英美もダイナミックで素晴らしい演技を見せ、審査員の興味を引いている。マヤの演技は動物じみていてあまりウケが良くない。

最終審査で一室に通された候補者たちは、ヘレンとして待つようにと課題を出された。待ち続け長い時間が経った時、非常ベルが鳴り響いた。3人の候補者は立ち上がり周りの様子を確かめる。しかし、亜弓とマヤだけは全く動かず、ヘレンとしての演技を続けた。この非常ベルが鳴ってもヘレンとしていられるかどうかが最終試験だった。
最終試験を勝ち残った亜弓とマヤで審査員による決選投票が行われることになった。審査員は7人。マヤと亜弓に3票ずつ入り残る審査員はアニー・サリバン役の姫川歌子だけになった。歌子はアニー・サリバンとして2人と演じたいとして、2人を選んだ。ヘレン役はマヤと亜弓のダブルキャストとなり、一日交代で公演されることになった。

舞台稽古初日、大都芸能の速水に出会ったマヤは挨拶もせずにそっぽを向いて速水を無視した。すると速水はマヤの顎を掴み、芸能界では何よりも挨拶や礼儀を重んじていること、人に嫌われたら生きていけないこと、私情を表に出さないこと、関係者は大切にするなどの注意を与えた。冷たい言い方ではあったが、これからマヤが生きていく芸能界での基本的なことを速水はマヤに教えた。

舞台演出を担当する小野寺は、マヤに演技指導をせず、月影に教えてもらえといいマヤを放置する。亜弓に対して演技指導をするという小野寺に対し、卑怯なことが嫌いな亜弓はマヤと同じアドバイスをして欲しいといい、小野寺の演技指導を拒否した。
亜弓と歌子の稽古はとても激しく、叩く場面などでも顔が腫れるほどに叩き合うほど真剣だ。マヤと歌子の稽古では、マヤの動き、演技に引きずられ自分のペースを掴めない歌子は戸惑ってしまっている。
最後のシーン、井戸の水を手に受けてそれが水・waterであると理解する奇跡のシーンが上手く表現できない亜弓とマヤは、それぞれに水を浴びたり手に受けたりしながら表現方法を探している。亜弓は洗濯機の水の渦を見ながら考えていた。コンセントが外れかかっているのが分かり、濡れた手でコンセントを掴んでしまい感電してしまった亜弓は、この痺れ、感電こそがヘレンが言葉を理解した奇跡のシーンの表現であるとわかった。亜弓のヘレンが完成した瞬間だった。
マヤも奇跡のシーンの表現に迷い、雨を全身に浴びて考えていた。その時、小さな子供が転びそうになり、手に持っていた水風船が手から離れマヤの顔面に当たり弾けた。
マヤは、ヘレンが奇跡を得た瞬間は割れた水風船と同じなのだと理解した。アニー・サリバンに指で言葉を教わり、ヘレンの中に蓄積されていっても、言葉と物が結びついていなかったヘレンは、井戸の水を手に受けた瞬間に今まで蓄積されていた言葉がヘレンの中で弾け、水・waterを理解したのだと気づいた。マヤのヘレンが完成した。

舞台「奇跡の人」初日は亜弓がヘレンを演じる。亜弓のヘレンは気性が荒く激しい。親である歌子に対し、何の手加減もせずに暴れ、双方ともボロボロになる壮絶な戦いを見せた。その演技は場内の観客を圧倒し、大きな感動の渦に巻き込んでいた。亜弓のヘレンは完璧だった。

2日目、マヤがヘレンを演じる。マヤのために紫のバラの人がひときわ目立つ大きな花輪を贈り、マヤは紫のバラの人のためにも亜弓に負けない自分のヘレンを演じきろうと決意した。マヤの演技は稽古時と雰囲気が変わっていた。歌子はマヤの演技に戸惑い、引きずられ、このままでは自分の演技はできないと小野寺に訴えた。アニー・サリバンとして本気でマヤ演じるヘレンに応対したい、台詞や演技を替えたいと言い小野寺に頼み込み、小野寺はそれを了承した。

マヤは、歌子の台詞や演技が変わったことに驚くが、ヘレンとして歌子演じるアニー・サリバンに応えようとした。2人の演技はもはや演技ではなく、本気でヘレンやアニー・サリバンに成りきっていた。2人の闘いは最高潮に達し、次に相手がどう動くかわからない緊迫感がただならぬ熱気となって舞台にみなぎっていた。
歌子はこれまでの長い女優生活の中で、初めて役と同化し舞台上でアニー・サリバンとして生きていたと感じ、その感覚を与えてくれたマヤの才能を賛辞した。マヤの「奇跡の人」も大絶賛を受けた。
「奇跡の人」のマヤの回は日を追うごとに話題となり、観客の動員数は増えるばかりだった。亜弓の回は常に場内をいっぱいにしながらほぼ増減はなく、一定数を保っていた。
亜弓のヘレンは劇評家の高い評価を受けているのだが、亜弓の心は晴れなかった。マヤの舞台も千秋楽を迎え、マヤ自身にも注目が集まり、どこにも所属していないマヤを芸能プロがマヤ獲得に動き始めた。
千秋楽の打ち上げ中に、三流芸能プロに呼出されたマヤを助けるため、速水は動き、マヤにうまい話に飛びつくな、自分の格を下げるなと忠告をした。

「奇跡の人」でマヤと亜弓はアカデミー芸術祭、演劇部門助演女優賞にノミネートされた。演劇部門の賞を受賞した役者はNBAテレビの大河ドラマに出演できることになっている。助演女優賞は亜弓を抑えてマヤが獲得し、同時に大河ドラマへの出演も決まった。

この授賞式に月影が現れ、舞台上で亜弓に「紅天女」を目指す気はあるかと問いかけた。亜弓は二つ返事で了承した。これにを受け、月影はマヤと亜弓の手を取り、これから2人で紅天女を、闘わせると宣言した。

授賞式後のパーティで、速水はマヤをダンスに誘った。ダンスをしながら速水はマヤに、これからスターになるのだから引っ込み思案ではいけない、目立つように考えろと教える。途中言い争いになり、マヤがよろけると速水がマヤを抱きとめた。マヤは速水の体や腕の感じが紫のバラの人の感じに似ていると思い、思い出すために強く抱きついてみた。速水はマヤに自分のことを感づかれると思い、マヤを引き離した。

華やかな迷路

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