地球へ…(テラへ)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『地球へ…』とは、竹宮惠子による日本のSF漫画作品、およびこれを原作とした派生作品。新人類ミュウの長・ジョミーと旧人類の国家元首キース、二人の少年の孤独と葛藤を描いた作品である。
派生作品は1980年4月公開の劇場版アニメ、2007年4月から同年9月放送のテレビアニメ(全24話)、ラジオドラマ、スピン・オフ漫画。
第9回星雲賞コミック部門、第25回小学館漫画賞少年少女部門を受賞。

自分の出生の秘密を知ったキース・アニアンに対し、マザーイライザが言ったセリフ。 言っているのはただのプログラムだが、その意味には無視できないものがある。 マザーシステムを作った人物はそのように思っているのであろう。 キースが、自分はマザーシステムに選ばれた指導者であるよりも、支配される「愚かな人類」側にその身を置くきっかけとなったセリフである。 愚かな人類を演じることでしかマザーの支配に反抗するすべのないキースが痛々しい。

時が過ぎてゆく中で ぼくはひとり …ただ一度の存在…(原作第二部)

ジョミー・マーキス・シンが、誰のものかわからない思いを感じ取ったときのセリフ(正確にはポエム)。
どんなにたくさんの友達や家族や仲間に囲まれても、人は一人で死んでいくものだ。 もしも転生という概念があったとしても、今の自分の人生は一度きりだという哲学を感じる。 少年漫画といえば熱い友情とチームワークが主流の中、孤独がキーワードで、繊細かつ哲学的なセリフが多用されていたこの作品は異彩を放っている。

…太陽がまぶしい(原作第二部)

キースがシロエの処分を敢行し、ステーションに戻る際のセリフ。
自らの手で親友になれるかもしれなかった存在を殺した、親友になれないくらいならいっそ自分の手で殺したかった、自分からマザーの奴隷になる道を選択してしまった、ドロドロな自分の心とは裏腹な太陽の光へのあこがれなどの様々な思いがこもった涙である。

…お母さん…ぼくの覚えているあなたは これほどまでに理想的です…(原作第三部)

妊娠出産に浮かれる若者たちを見て、ジョミーが不安がったときのセリフ。 ジョミーにはカリナたちが妊娠、出産をおままごと感覚で気楽に考えているように見えたからだ。 ジョミーは、カリナたちにごく普通の家庭を持ってごく普通に子育てをしてごく普通の幸せをつかんでほしいと願っていたのだが、カリナは「お母さん」を職業だと考えていた。 看護婦となっていた彼女にとっては出産も医療行為の一環であった。 ジョミーの両親も仕事で養父母をやっているのだから間違いではないのだ。
現実世界でも、恋愛から結婚、妊娠出産にいたるまでをイベント感覚で考えているカップルが多いことを鑑みると、非常に注目すべきセリフである。

人間には 人間以上はいらない(原作第四部)

マツカにナスカにいるミュウに攻撃をするのかと聞かれたキースの答え。
キースの言う「人間以上」とはミュウとコンピュータ管理、両方を指しているがマツカはそう受け取らなかった。 キースとマツカのすれ違いは、グランドマザーが「攻撃しろ」としか命じなかったのに弾頭ミサイルで執拗に攻撃を仕掛けたソレイド軍事基地との行き違いと全く同じ構図だ。

人間がミュウを忌み嫌うように 仲間は君たちを恐れるだろう。 だが 君たちは働け。 闘いに…ミュウのために力尽きるまで(原作第四部)

あまりにも高すぎる戦闘能力のためにミュウの同胞から嫌われるナスカの子に対するジョミーのセリフ。 まだ3歳の子供たちに対してブラック企業も裸足で逃げ出すほどの内容だ。 行き場のないナスカの子に生きる意味を示すには、このくらいのきついことを言わなければならない。 かつてのジョミーが長老たちからダメだしされ続けたように。

邪悪です! 人間は邪悪な生き物です また地球を滅びへ導くつもりか!? せっかく統制された社会を築いてきたのに! 人類はもう二度と同じ道を歩くことはなりません!!(原作第四部)

アタラクシアの中枢、テラズナンバー5がジョミーに破壊される直前に言ったセリフ。 SD時代の子供は全部テラズから生まれていると知っていれば、必死になって子供たちを守ろうとしたテラズのほうに正当性を感じる。 つまり、テラズの破壊=胎児殺し、堕胎を意味する。 ジョミーは承知の上でテラズを破壊したのだ。
原作、劇場版ではテラズが胎児を守るという直接的な描写はないが、テレビアニメではテラズの周りに小さなモノリスがたくさん配置されており、ジョミーが「ここが僕たちの故郷だ」というセリフを言っているので、そのモノリスが人工子宮であろうと推測できる。
時代を問わずタブーとされている堕胎という描写を少年漫画で実行した稀有な場面でもある。

ああ! 無論だとも! 人間は二度と道を誤ってはならぬ。 我ら一人一人 土と水と太陽と…植物を育て 動物を飼い 古代の人々のように地球とともに生きるのだ! …地球との 自然とのバランスを保つためのみに 機械は使われなくてはならぬ。 機械は考えてはならぬ! 人間になってはならぬ! もう二度と(原作第四部)

テラズ5の断末魔に対するジョミーの答え。 機械は道具でなければならないという理屈は確かに正当性がある。 だが人が過ちを犯すのは機械や道具のせいなのか?と疑問を持たねばならない。 かつてソルジャー・ブルーが言ったように。
ジョミーは「動植物を育てろ」などと言っているが、原作のステーション編では生徒が自分の部屋でペットを飼ったり花を育てたり趣味にいそしんだりしている。 成人検査に落第し、ステーションに通っていないジョミーがそれを知っているかは定かではない。
少年漫画の主人公が子供を守っているコンピュータを子供ごと殺して、自分の正当性を訴えるという描写は衝撃的である。

フィシスは人造細胞から生まれたものだ 親も子もない。 そのうえ目も開かない 生殖力のない女性体で 失敗作だった。 ブルーはそんなフィシスを 人間とミュウとの間の女神として見た。 優しい考えだったのだ(原作第四部)

フィシス出生の秘密を知ったジョミーが、その秘密をひた隠しにしてきたソルジャー・ブルーに対しての想いをはいたセリフ。
生殖力のない女性とか盲目で失敗作とか、セクシャルハラスメントと訴えられそうな表現に満ちているが、生殖力があれば女性であるという常識に疑問を投げかける文言である。
フィシスがミュウではなくその能力も与えられたものであることは、ブルーがフィシスに対して嘘をつき続けてきたという証明にもなるのだが、誰も傷つけない嘘ならばついてもいいのか、という疑問も投げかけている。

感じないかアルテラ。 自分が宇宙に漂う際限ない力(エネルギー)の中のひとかたまりだと(原作第四部)

もう人殺しの道具として戦うのは嫌だと泣くナスカの子の一人アルテラとともに、子作りをした後のトォニィのセリフ。 ミュウの同胞から嫌われ、生みの親と慕うジョミーからは道具としか扱われないナスカの子。 原作ではナスカの子もフィシス同様生殖力がない。 人との接点がないからこそ、世界そのものとの接点を求める悲しさが伝わる。

ここで言う子作りとは、二人がサイコキネシスで空中の元素を固定して精子と卵子を作り、受精させ細胞分裂を起こして胎児を作る行為を示す。
知識も体力もあるナスカの子でさえ性行為をしないまま子供を作ったということは、コンピュータによる人工授精が普通であるSD体制下では人間の性行為は存在しないかもしれないという仮説につながる重要な場面であるが、倫理的に問題があるのか映像化はされなかった。

彼についてきてよかったのだ 満足だ(原作第四部)

ミュウとの和平交渉前夜、サムの見舞いから帰ってきたキースが初めてマツカに心を開き、サムの死を教えてくれたことがうれしくててつぶやいたセリフ。 この時マツカはおぼつかない手でコーヒーを淹れて、キースは半分だけ飲んで部屋を去っていった。 この場面からファンの間に、マツカはコーヒーを淹れるのが得意だという設定が定着した。

キースはステーション時代からコーヒーにこだわりを持っていた。 ステーション編でサムに「インスタントじゃないホットモカのブラック」を注文していた場面がある。 マツカのコーヒーを半分残したのは、コーヒーブレイクの気分ではなかったのだがせっかく淹れてくれたので仕方なく飲んだのと、へこんでたキースにとってこの時のコーヒーはまずくても癒しの効果があった、という見方ができる。
心を読ませてくれたこととまずいコーヒーを飲んでくれたことが、今までキースとの距離を縮められなかったマツカにとってこの上ない喜びだった。

人間はマザーにあやされ 育てられた意志のない子供。 目も耳も口もふさがれながら それを知らない不幸な子供だ…だが反逆児ミュウたちにはそれが見える。 敵の姿として…だからここまで来た お前を壊すために!(原作第四部)

グランドマザーとの戦いに臨んだジョミーが、マザーから先制攻撃を受けた時に言ったセリフ。
盲目的な母の愛は、子供にとって不幸である。 母から愛されなかった子供も不幸である。 子供は親を選べない。 だが、その親から離れるか従属するかほかの手段をとるかは選ぶことができる。 母から愛されなかったジョミーのとった選択は母殺しだった。 愛ゆえか、憎悪ゆえか、人類とミュウの未来ゆえかは、それぞれが考えることである。

原作では人類対ミュウの戦いの最中に、キースが各国代表に対してグランドマザーのプログラムを書き換えられたらやってみろ、という発言をしたが結局誰も、キースですら実行しなかった。 和平交渉の場でもキースはマザーシステムのプログラム書き換えという提案はせず、ジョミーもしなかった。 従属か死か。 両極端の選択しかできなかったのだ。 その狭量さがジョミーとキースの破滅につながったといえる。

わめくのをやめろーっ機械(コンピュータ)!! 二度と俺の意志に触れるな! もう二度と…(原作第四部)

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