しあわせのパン（映画）とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

厳しい冬を迎えた、北海道の月浦のシーンである。カフェ・マーニを出ると、そこは白銀の世界なのである。この白い雪が広がるシーンは、りえの真っ白な純粋な心を表すシーンでもある。そして、一面に広がる雪の白が、りえの心を優しく包み込むのである。このシーンをきっかけに、少しずつ心を閉ざしていたりえが変化していく。そして雪だるまを作る水縞夫婦を眺めている、坂本夫婦がいるのである。坂本夫婦は歳をとっている上、妻が病気の為にカフェの中から水縞夫妻を見つめている。震災で娘を亡くした上、妻が余命わずかであり一度は心中を考えていた坂本夫婦だった。しかし水縞夫妻やその仲間たちと過ごしていくうちに、もう一度二人で生きて行くことを決意する。坂本夫婦がマーニを訪れた時は、猛吹雪であった。しかしその後はこの雪のシーンの様に、穏やかに静かに日々を送っていたのである。りえの心と坂本夫婦の変化がわかるシーンなのである。

『しあわせのパン』の裏話・トリビア・小ネタ／エピソード・逸話

『しあわせのパン』のロケ地

この映画に登場するカフェ・マーニであるが、北海道の洞爺湖町月浦地区に実在する店をモデルにしている為、全てのシーンは実店舗を含めて全て北海道で撮影された。
また、陽子さんの作品として登場したガラス作品も実店舗が存在している。因みにマーニの実店舗のすぐそばにある。
陽子さんのアトリエとして登場した、木造の建物も石釜パンとカフェギャラリーの店として、実在する。
香織がボートから落ちる印象的なシーンの場所は、浮見堂公園であり、香織が波打ち際で電話している場所は、有珠山噴火記念公園である。
北海道を代表する温泉観光地である洞爺湖の、素敵な自然は勿論、素朴で優しい佇まいの店や建物を満喫できる映画でもある。

夫婦らしく見せる工夫

舞台挨拶にて監督は、水縞夫婦役の原田知世と大泉洋に「おふたりに言ってなかったんですが、わざと1カット使わないカットの撮影をしました。最初の方に手と手の触れ合うカットがあったと思うんですが、あのカット、使ってないんです」と告白した。夫婦としての愛情を引き出す為、身体的接触を持ってほしいという演出だったようである。
他にもりえが尚の髪を切るシーンは、台本にはなかったシーンである。これは大泉のアイディアである。「メイクをしながら原田さんといろいろ話をしていて、この夫婦はいかにも髪を切ってもらってそうな夫婦ですよね？ って話をしていたんです。ちょうどその日は良いお天気で、そのアイデアを監督に言ったら、急きょ、小道具を用意してもらって、足してもらったシーンなんです」とインタビューの中で答えている。

『しあわせのパン』の主題歌・挿入歌

主題歌：矢野顕子with忌野清志郎「ひとつだけ」

主題歌とエンディング曲になっている「ひとつだけ」は、矢野顕子が作詞作曲した1980年に発表された名曲である。
忌野とのデュエットバージョンは、2006年に発売された「はじめてのやのあきこ」に収録されている。ライブではフジロックフェスティバルやライジングサンロックフェスティバルなどで、披露された。櫻井和寿によるBank Bandもカバーしている名曲である。
そして何より、監督・脚本を手掛けた三島有紀子は、この曲にインスパイヤされ本作の脚本を書いたのである。