娚の一生(漫画・映画)のネタバレ解説まとめ

『娚の一生』とは、西炯子による日本の漫画作品。小学館「月刊フラワーズ」にて連載された。
「このマンガを読め!2010」で第5位になった。単行本は全4巻。累計発行部数150万部を記録する。2015年、豊川悦司・榮倉奈々のダブル主演で映画化された。
大手企業に勤める30代女性・つぐみと50代の大学教授・海江田とのビタースゥイートでもどかしい関係を描いた漫画作品。

『娚の一生』概要

『娚の一生』とは、西炯子による日本の漫画作品、及びそれを原作とする映画である。小学館「月刊フラワーズ」にて、2008年9月号から2010年2月号まで連載された。月間フラワーズ増刊号の「凛花」にて2010年10号から2012年16号までスピンオフ作品全7話が掲載された。単行本は全4巻。

かつて20歳も年上の女性に想いを寄せていた50代の大学教授・海江田は、その人の死を知り葬儀に参列し、自分より16歳も年下の彼女の孫娘に一目惚れする。大手企業に勤める30代女性・つぐみは、有能で社会的地位は築いていても、恋愛になると子供のような不器用さを見せる。妻帯者や彼女持ちにばかり入れ込み、自分だけを見てくれる人と向き合う勇気が持てず、恋愛を諦め祖母の故郷で1人で生きていくことにしたつぐみは、真っ直ぐに思いを伝えてくる海江田と素直に向き合うことができない。ふたりのビタースウィートでもどかしい関係を描いている大人のラブストーリー。

「このマンガがすごい!2010」オンナ編で第6位、「THE BEST MANGA 2010 このマンガを読め!」で第5位を獲得した。
2015年2月、豊川悦司、榮倉奈々がダブル主演で映画化された。主演・豊川悦司がヒロイン・榮倉奈々の足にキスをするラブシーンが話題を呼んだ。

『娚の一生』のあらすじ・ストーリー

出会い

東京の大手電機会社に勤める堂園つぐみ・35歳は、長期休暇を田舎の祖母の家で過ごしていた。そんなある日、春からずっと入院中の祖母が亡くなってしまった。つぐみは祖母の家で葬儀の支度を全て完璧に整え、ひと月前からこの家にいると言い、親戚一同を驚かせた。
会社を辞めたのかと聞く親戚に、つぐみは初めての長期休暇を取気兼ねしなくていい静かな所で過ごしたいと、入院中の祖母のところに通いつつ、祖母の家で過ごしていたと話した。祖母からは3年前に鍵をもらっており、「好きにしろ」と言われていたのだ。
葬式も終わり、相続の話で親戚の男衆がもめている。女は話し合いには加わらないことが多いのだが、つぐみはその場で祖母の家・土地全てを買うと宣言した。話し合いは次回に持ち越しになり、親戚たちは自宅へ戻るが、つぐみはそのまま祖母の家で暮らすことになった。

翌朝、庭で新聞を抱えタバコを吸う男に出会った。その男は妙に押しが強く、「コーヒーもろてもいいですか」と家に上がり込んできた。近所の人かと思ったその男は、昨日からつぐみの家の離れに住んでいるという。海江田醇・51歳と名乗ったその男は大学教授で、祖母の元教え子だった。祖母からつぐみと同じく鍵をもらっており、今までも何回か離れに泊まったことがあるらしい。ここに居ついて欲しくないつぐみはやんわりと出て行くように言うが、海江田は、まだ相続権のないつぐみと、つぐみの祖母・十和に鍵をもらった自分は条件は同じだと、離れに居座り続ける。
押しが強く、調子がいい海江田は近所の人につぐみと結婚予定と話している。抗議するつぐみに、女性の一人暮らしは物騒だから、決まった人がいると近所に思わせた方が良いという。
掴みどころのない海江田のペースに乱され、つぐみはなし崩しに海江田と同居することになってしまった。
なんでも完璧にこなし、中身がおじさんのような、女性としてあまりにも自分に無頓着なつぐみに、そのままではおばさんの姿をしたおじさんになってしまうと海江田は言う。「練習相手やと思ってぼく相手に恋愛してみなさい」と海江田はつぐみに言うが、つぐみは「私にそれほどの器用さはありません」と全く取り合わなかった。

つぐみの同僚・秋本岬がつぐみの家に泊まりに来た。海江田を見た秋本は驚き、海江田に根掘り葉掘り聞き出すが、海江田の戸籍のコピーを見せるという言葉に、既婚者でもバツイチでもないと知り、つぐみの相手として申し分ないと判断した。
それというのも、仕事では有能で大手企業の管理職を務め、誰にもできない仕事をする、と高評価のつぐみだが、恋愛では妻子持ちに入れあげることが多く、男で不幸になることが多かったのだ。
帰り間際、秋本はつぐみと秋元の同僚・小峰と結婚すると報告し、帰っていった。

「君、そこそこ美人やのに手入れしてへんな」と海江田に言われたつぐみは、かつて自分へのご褒美として買った高価なネックレスをつけてみた。朝食に出てこない海江田を呼びに離れに行くと、「出かける」と置き手紙が残っていた。せっかく見せようと思ってつけたネックレスだが、海江田がいないので外そうとしていると、地元の2世議員・園田哲志が訪ねてきた。台風が近づいてきたため、様子を見に来たという。そこに市役所職員・ 川原信司と郵便局員・友生貴広 も現れた。彼らは美人で独身のつぐみと近づきたいと思っていたのだ。つぐみの役に立とうと、井戸の水質検査を申し出たり、壊れた扇風機を直そうとしてみたりするが、上手くいかず、井戸はつぐみが自分で検査を実施、扇風機も自力で修理してみせた。あまりに完璧なつぐみに男たちは引き気味になってしまう。
園田は家のエアコンの調子が悪いと言い出し、つぐみは逆に修理に連れ出された。難しいことはできないと断るつぐみだが、エアコンを直し、言われるがままに次々と家電を修理した。無料で直してくれる電気屋がいる、とご近所から家電修理の依頼がたくさん入ってしまった。夜までかかって依頼全てをこなし、ヘトヘトになって家に帰りつくと、朝、付けていたネックレスを落としたことに気づいた。高価なものだけに、呆然としていると、そこへスーツ姿の海江田が帰ってきた。
ネックレスが無くなった経緯を話し、でも、自分で買った負け犬ジュエリーだから無くしてもいい、というつぐみを海江田は一喝し、ネックレスを探しに行ってしまった。午前3時、台風の大雨の中、海江田がびしょ濡れで帰ってきた。探し出したネックレスをつぐみの首に付け、「きれいやで」と言った。

長期休暇を経て、在宅勤務に切り替えようとつぐみは東京の会社に来ていた。久しぶりに出社するとその日は社内講演会がある日だった。講師として現れたのはなんと海江田だった。つぐみは動揺し、初めて会ったふりをし、海江田も話を合わせるが、講演会最前列につぐみを座らせたり、懇親会に付き合わせたり、つぐみを気に入っているように見せている。
海江田に好意を持っている海江田の秘書・西園寺真保は2人の様子を怪しみ、2人の邪魔をしようとするが、その目をかいくぐり、2人でホテルに戻った海江田はつぐみに「一緒に暮らそう」と告白をする。もうすでに暮らしている、とはぐらかすつぐみにそういう意味ではないと海江田は迫った。しかし「祖母の愛人だった上に一回り以上も年上の人なんてムリです」とつぐみは断った。「好きでもか」と追う海江田に、つぐみは無言で去っていった。

祖母・十和の初盆の日、親戚一同が集まった。つぐみは海江田との同居を隠そうと海江田に隠れていて欲しいと頼むが、海江田は親戚の前に現れてしまった。そして葬儀の後からつぐみと一緒に暮らしていることや十和との関係などを語り始めた。
海江田は大学時代、染色家で海江田が通う大学の講師だった十和に恋心を抱いたが、十和は既婚者であり、その思いは一方通行だった。このまま誰も好きにならずに終わると思っていた海江田だったが、先月の初め、十和から鍵が送られてきた。その直後に十和の死を知り、葬儀に参列した際に見かけたつぐみを一目見て心惹かれたと、親戚の前で語った。

親戚が帰宅後、海江田とは結婚しないというつぐみに、好きだから結婚しようと海江田は迫る。つぐみは過去に妻帯者との恋愛で辛い別れを経験し、恋愛に臆病になってしまっていた。海江田は泣くつぐみに胸を貸し、つぐみの辛さ、孤独を癒し、少しずつつぐみの心に入り込んでいった。

過去

つぐみと海江田が住む角島の家に、海江田の秘書・西園寺真保がやってきた。西園寺は海江田を慕っており、つぐみと同棲していると嗅ぎつけやってきたのだ。しかし、まだ2人は付き合っているわけではないと知り、甲斐甲斐しく海江田の世話を焼こうとするのだが、お嬢様育ちのため、家事ができず、やる気ばかりで空回りしてしまう。海江田いわく、西園寺は育ちがよくて、キレイにしてて、明るくてわがまま。男に好かれるタイプだという。「君と違う」という海江田の言葉にちょっと傷ついてしまうつぐみ。

3人で夏祭りに出かけるが、海江田はその場にあった自転車を借り、西園寺を撒いてつぐみと2人で逃げ出してしまった。そこで、西園寺に残酷なことをしているというつぐみに、気も無いのに望みを持たす方が残酷だと海江田は言った。好きな人を追いかける幸せもあるというつぐみにそんな幸せはないと海江田はバッサリ切る。幸せの話をしようとすると、つぐみは下を向き、過去を振り返り目を逸らす。そんなつぐみに「君をひとりにはせえへん」と海江田はつぐみを抱きしめた。
西園寺は自分の思いは届かないとわかり、祭りで会った園田に諭され、帰っていった。

海江田に一通の手紙が届いた。差出人は「海江田小夜子」つぐみは海江田の奥さんからの手紙と思い込み、海江田が自分から去ってしまうのではと、恐れを抱いてしまった。海江田が留守中、その手紙を盗み見ようとするができず、海江田と普通に接することができなくなり、家を出ようとした。それを海江田に見つかり、咎められ、家を出ようとした原因「海江田小夜子」が海江田の戸籍上の姉であると知らされた。手紙には、海江田の養母が亡くなったと書かれてあったのだ。
散々好きだと言っているにも関わらず、自分の言葉を信用しないつぐみに呆れ、しばらくひとりになりたい、と海江田は離れに行った。

家の中に異変が起こっていた。残っているはずの食べ物がなくなり、誰もいないはずなのに物音がする。警察を呼ぶべきか、海江田を呼ぶべきか、まずは自分が調べようとつぐみは箒を手に物音がする押し入れを開けた。
するとそこから子供が飛び出してきた。つぐみの悲鳴に驚き海江田が駆けつけ、暴れる子供を取り押さえた。
どうやら親に置き去りにされた子供のようだ。警察に連れて行くが、母親とは連絡が取れず、しばらく海江田とつぐみが面倒を見ることになった。
とみおかまこと・5歳と名乗るその子供は生意気でジャンクフードばかり食べたがる。同情して優しく接するつぐみだが、海江田は厳しく躾けようとする。「ママはゼッタイ帰ってくる」とつぐみはまことを慰めるが、海江田は「帰ってくるかもしらんし、帰ってきいひんかもしらんぞ」と言う。まことが傷つくようなことを言う海江田につぐみは抗議するが、適当に言う方が残酷だと海江田は反論する。実は海江田は、2歳の時に親に捨てられ、海江田家で養母に育てられたのだ。自分と同じ境遇になりそうなまことに、親に頼らず強く生きなければいけないと、必要以上に厳しく接していたのだ。

まことの母と連絡が取れ、まことの母が迎えに来た。海江田はまことにこの家の行き方を書いた時刻表と宛名を書いたハガキを渡し、元気だったら大きく丸を書いて投函しろと教えた。
母が迎えに来てよかったと思う気持ちはあるけれど、数日ではあったが一緒に過ごしたまことを失ったことにつぐみは傷ついていた。もう誰も失いたくない、誰も愛したくないと1人でここに来たはずなのに、またもや別れが来てしまった。
しかし、今は1人ではなく、その悲しみを半分引き受けてくれる海江田の存在が嬉しかった。しかしそれを素直に喜べず、このままでいいのかと恐れてしまうつぐみだった。

2人で住む家につぐみの母がやってきた。一緒にいるのなら世間体が悪いから海江田と結婚しなさい、と母は迫るが、つぐみは煮え切らず、海江田は乗り気になった。
母が帰った後、役場に行くのか、と尋ねるつぐみに「君がええなら行こうや、君はホンマにマジメやなあ、額面通りに受けとるんや、そら人生しんどいわ」と優しく微笑んだ。
ある日、海江田が机で何をしているのか気になったつぐみは海江田の手元を覗き込んだ。すると勉強していると思っていた海江田が落書きをしているのを発見し、楽しくなって海江田とふざけ合ってしまった。その時、はずみで海江田の胸に触れ、2人はついに一線を越えた。

海江田が「日本エッセイスト賞」をとった。受賞パーティーに妻として出席したつぐみは、著名人が多く集まるパーティーに気後れしてしまう。海江田は昔から世話になっている人の奥方という女性に絡まれた。海江田を以前からずっと狙っていた彼女は、海江田に強い酒を飲ませ、自分の部屋に連れ込んだ。
つぐみは海江田を奥方の部屋から救出し、その怒りを海江田にぶつけた。つぐみが嫉妬したことに海江田は喜び、つぐみは海江田が好きなのだと自覚した。

昔の男

在宅勤務を始めたつぐみは新事業として地熱発電に取り組み始めた。地元の温泉組合や市役所、各種団体と協議を始めている。どこもあまり乗り気ではなく、特に温泉組合の反発が激しい。しかし、発電所建設は反発から始まる、とつぐみは前向きだった。

海江田の養母の墓参りのため、海江田とつぐみは京都の海江田の育った家にやってきた。海江田の姉から幼少期の話などを聞き、2人の距離は少し近づいた。帰宅途中、宿泊したホテルで、つぐみは偶然同僚に出会った。昔話に盛り上がり、つぐみが妻帯者や彼女持ちにばかり入れあげていた過去を話す同僚。その話をすぐ近くにいた海江田に聞かれてしまった。
「いい年をして自分にいつまでも自信がなくて、自分だけを見てくれる人と向かい合う勇気がないのよ、そのくせ人には愛されたいの。…おまけに昔の恋愛をいつまでも引きずってるのよ…。重くてだらしなくていやらしい女だわ」とつぐみは自分の抱えていた気持ちを吐き出した。海江田は「…だから?」とそんなつぐみでも関係ないと懐の深さを見せた。

地熱発電の実験施設ができた。祖母の十和は地元の名士だったが、つぐみは所詮東京から来た人間で、ましてや独り身。嫌になれば放り出してどこにでも行ける、いい年して落ち着かない人間は信用しない、と温泉組合の協会長は反発を強める。
つぐみが海江田に、社会で女性が何かしようとする時、独身では信用されないと愚痴をこぼすと、海江田は、「君は傲慢やな、ひとりでは認められへんというのは違うよ、ひとりでなんでもできると思てるその思い上がりが信用ならんということなんや」と諭した。

祖母・十和の納骨の日、もめていた相続の話が決まった。つぐみの伯父、二男、三男は相続予定の土地をつぐみに売り、つぐみの母はつぐみに譲る、長男は家を相続するが、家の面倒はつぐみに任せるという。つぐみの希望通り、つぐみは祖母の家にそのまま住んでもいいことになった。親戚はつぐみと同居している海江田と結婚するのかと問い詰める。海江田は自分は結婚したいけれども、つぐみの意思を尊重するとして、すぐには難しいと親戚に説明した。初盆の時のように、積極的に言ってくれると思っていたつぐみは拍子抜けし、少し前までのような強い気持ちはなくなり、つぐみとの結婚を迷い始めたのではないかと疑いを持ってしまった。前の男が忘れられない、と言った自分が悪いのだと、つぐみは落ち込んでしまった。しかし、海江田の部屋で偶然つぐみのために用意したウェディングドレスを発見し、海江田の照れた表情にときめいてしまった。

つぐみの昔の男・中川から「妻と別れたので結婚しよう」というメールが届いた。中川の勝手な言葉につぐみは涙した。一度は中川と会おうと思ったものの、海江田の気遣いを受け、中川とは二度と合わないと決意した。

大きめな地震が起こった。つぐみは地熱発電の実験設備に問題がないか確認に行く。するとそこを破壊しようとしている2人組に出くわし、誘拐されてしまった。それは発電所建設に反対している温泉組合長の仕業だった。つぐみは温泉組合長に会食に誘われ、地熱発電所建設を諦めるように促されていたのだが、それを拒否したため、脅しめいたことを言われていたのだ。
帰りが遅いつぐみを心配した海江田は実験施設まで迎えに行き、そこで、つぐみの自転車とサンダルを発見し、つぐみの身に何かあったと確信した。つぐみに脅しの話を聞いていた海江田は首謀者と思しきの温泉組合長を問い詰め、つぐみの居場所を聞き出そうとするが、誘拐は実行犯の独断で行われており、連絡が付かないという。
実行犯はつぐみの扱いに困り、土に埋めようとするが、その時、「大丈夫か堂園!」と中川が助けに来た。
赴任先から帰国し、つぐみに会いに角島まで来た中川は、つぐみの携帯に掛けたつもりの電話が偶然犯人の携帯に掛かっていた。つぐみと犯人の番号は一ケタ違いという偶然だったのだ。犯人が車外に出ていた時にかかってきた電話に、つぐみは自分の窮状を訴え助けを求めたのだ。
助けに来た中川はこの偶然は運命だといい、そのままつぐみと東京に戻ろうと空港までつぐみを連れて行った。2人で一緒に東京で暮らそう、と愛を語る中川につぐみは、自分の求めているのは中川が言う「愛」ではないと気づき、中川が席を外した隙に、タクシーで自宅に戻った。海江田は家から飛び出してきて、つぐみを抱きしめた。警察の捜査でつぐみが昔の男と行動を共にしていると知っていたのだが、つぐみを信じ、待っていたのだ。つぐみはその腕の中でようやく安心できたのだった。

夜、海江田はつぐみに十和が亡くなった時の自分の心情を話していた。十和が亡くなったと聞いて、もう誰も好きにならなくてもいい、このまま、十和への思いを大事にして死んで行くのもいいと思っていた。しかし、つぐみに出会い、好きなだけ愛せる相手と巡り会えて、それがどれほど嬉しいことなのかを知った。海江田の言葉に涙を流し喜びを噛み締めたつぐみだったが、その時、中川が現れた。
話すことはない、帰って、というつぐみに中川は承知せず、つぐみを無理やり連れ去ろうとする。海江田はそれを止めようと中川に殴りかかり、2人は激しい喧嘩になった。海江田との乱闘で意識を失った中川のもとにつぐみは駆け寄ってしまい、傷ついた海江田はそのまま姿を消してしまった。
つぐみは意識が戻らない中川を園田に頼み病院へ連れて行ってもらい、一緒にいた西園寺には、中川を先に介抱したことを責められた。
海江田は繁華街で飲んだくれ、つぐみは自宅で海江田の帰りを待っていた。
その時、つぐみの住む街に震度6の大地震が起こった。街は壊滅状態になり、テレビでそれを知った海江田はすぐに戻ろうとするが、交通機関も麻痺していて戻るに戻れない。
海江田の無事を祈りつつ、故郷の町のために自分の出来ることをやろうとつぐみは立ち上がった。市役所に行き、混乱している指示系統をまとめ、救援物資を住民に配り始めた。中川がつぐみのもとへやって来たが、つぐみは冷静に別れを告げた。
電気が回復せず、住民が困っている中、つぐみは自身が作っていた地熱発電の実験施設を住民に開放し、地域の人にその必要性を感じてもらうことができた。地熱発電に懐疑的だった役所も、非常時にも安心して使えるクリーンエネルギー事業を、前向きに考えるようになった。

被災した住民のために精力的に働くつぐみだが、未だ戻らない海江田をずっと心配していた、一人で心細くなり、泣きそうになっていた時、海江田が帰ってきた。十和が守ってくれたとお互いの無事を喜んだ。つぐみは海江田に「…待ってたのよ」と語りかけた。そんな1日や2日、と言う海江田に「長かったのよ、35年は」と言った。
そしてつぐみは「海江田つぐみ」になった。

結婚

かつて海江田を慕っていた海江田の秘書・西園寺だったが、自分の思いが報われないと気持ちを切り替えたあとは、角島県鶴見市の2世議員・園田哲志と交際していた。そしてとうとう、西園寺と園田の結婚式前日。式の前日だというのに西園寺は角島大学で、海江田の秘書として仕事をしていた。園田は鶴見市での仕事を終えてからつぐみと一緒に角島市内にある式を挙げる白山ホテルにまで来る予定になっていた。
新幹線の中で、園田はつぐみに不安を漏らしていた。自分に自信がない園田は、海江田と西園寺が本当に切れているのか、仕事とは言え、一緒にいる時間が長いことに不安を感じていた。
西園寺は海江田をフェリーに連れ出し、自分が長く抱き続けてきた海江田への思いをぶつけ、自分の気持ちにけじめをつけた。
結婚式当日、園田は昨夜西園寺と海江田の間に何かがあったと察し、落ち込んでいた。しかし西園寺はにこやかに「神でなく、あなたにお誓いしますわ。良き妻になるかどうかはわかりませんけれど、あたくし、これからは哲志さんのお側にずっとおります。一緒のお墓に入るときまで」と海江田への思いを捨て、園田だけを思うと誓った。
そして西園寺は退職届を出し、専業主婦になった。

かつて、奔放な母親に邪魔にされこの家に置き去りにされたまことが神奈川から1人で電車を乗り継ぎやってきた。どうやら母親は男と暮らし始めたようで、まことはその男が気に入らず、海江田とつぐみを頼って来たのだ。母親に連絡を取ると、「明日は無理なので明後日迎えに行きます」という返事だった。
まことの置かれた状況を不安に思う海江田とつぐみ。まこともずっとここにいれたらいいのに、と楽しそうに笑う。翌日、就農フェアにまことを連れて行き3人で楽しい時を過ごす。くじ引きがやりたいというまことに海江田は、くじを引いてもいいが1等を取れなかったらうちの子になれという。結局くじは1等だったのだが、まことは自分がいない方が母は喜ぶのかと考えてしまう。帰宅すると、神奈川から母親がまことを迎えにきていた。2歳の時に親に捨てられた海江田はまことの状況にやりきれない思いを持っていた。
ひと月後、まことから電話がきて、海江田が「元気なんか?」と聞くと、まことは「えっとねぇ…小さいけど…マル」と答えた。

つぐみの同期の秋本は同じく同期の小峯と結婚し、今は専業主婦をしている。久しぶりに秋本から連絡が来て、つぐみと角島の温泉に行くことになった。秋本は楽しそうな様子の割に、深夜にメールを見ていたりと不審なことをしていた。レンタカーに秋本が落としたイヤリング見つけたつぐみはそれを届けるため空港に行くと、秋本と見知らぬ男性との不倫現場を見てしまった。
「小峯だって前の女と切れていない」という秋本につぐみが口ごもると、秋本は、海江田に十分愛されているつぐみには、自分の不安な思いはわからない、と不倫相手と共に去っていった。秋本はつぐみにやり場のない感情を残した。

海江田はある日ふとつぐみと初めて会った時のことを思い出した。
海江田がまだ学生で20歳の頃、思いを寄せる十和に何度もプロポーズをしたのだが、既婚者である十和は海江田を拒絶する。しかし海江田は十和を諦められず、もう一度会って欲しいと角島までやってきたのだ。
あまりの田舎に戸惑い、十和の家を探していると、塀の上で遊んでいる女の子に会った。女の子は当時4歳のつぐみで、両親の都合で十和のもとに預けられていたのだ。つぐみに案内され十和に会った海江田は、再度プロポーズをするが、やはり断られてしまう。そこに親戚がやってきて、海江田の存在を知られたくない十和は海江田を下駄とともに隠してしまった。
暇を持て余した海江田は、側にいたつぐみと遊びに出かけた。しばらくして、つぐみを迎えに来た十和に海江田は再度激しく求婚し、駆け落ちを迫った。十和は海江田の情熱にほだされかけたが、つぐみの「ばあちゃんもつぐみをおいていくの?」という言葉に我に帰った。
海江田はその日、十和の家に泊まり翌朝、寝ていた布団から十和の残り香を感じ、そのまま東京に帰った。
その時のことを覚えていないのかと聞く海江田につぐみは「4歳だったから」覚えていないと答えた。本当は、いつもは付けない香水を祖母が付けていた日のことはなんとなく覚えていて、自分のその香水を付けたいと祖母にねだったと覚えていた。

ある日、海江田がふらっと居なくなった。数日前から様子がおかしいと感じていたつぐみだったが、海江田を信じ待つことにした。
海江田が向かった先は大阪の病院。三上早次郎という人が入院していた。彼は海江田の実の父親で2歳の海江田を公園に置き去りにした人物だった。体が弱り、もう長くはないその人は、海江田に置き去りにした当時のことを語り謝罪した。言いたいことを言え、と言った実父に海江田は何も言わず、ただお大事にとだけ言って病院を去った。遠い地まで行き、吹雪の中佇んでいたところを親切な住民に宿に泊めてもらい、つぐみに電話しながら一晩中泣き、気持ちを落ち着けた海江田はつぐみの待つ家に戻った。どこへ行っていたのか何も聞かないつぐみだったが、「どこへいっても帰ってきたからそれでいいんです」と海江田に言った。

海江田とつぐみの結婚式が近づいてきた。海江田は式に出席できない友人につぐみを紹介したいと、東京出張につぐみを誘うがつぐみは乗り気でない。義姉の娘が式に参加したいとつぐみに伝えても、青い顔をして煮え切らない様子。つぐみのそんな様子に海江田は不安になり、タバコを吸いながらつぐみに「きみ、ぼくのこと好きか?」と聞いてしまった。つぐみは顔を背けちょっとすみません、といなくなってしまった。
海江田はつぐみが結婚式を嫌がっているのかと思い、つぐみに式を考え直してもいいと言った。つぐみは海江田が勘違いしていることに気づき、「あなたの子供が出来ました」と式まで内緒にしておこうと思っていたことを打ち明けた。
ある晴れた日、海江田とつぐみの結婚式が執り行われた。
そして年月が過ぎ、つぐみは地熱発電所の社長になり、2人の子供は中学2年になっていた。

『娚の一生』の登場人物・キャラクター

堂園 つぐみ(どうぞの つぐみ)

東京の大手電機メーカー「四つ葉電気」の原子力事業部プロジェクト管理課の課長。発電所建設などの仕事に携わっている。30代半ば。独身。
田舎大学を出たものの、大手企業でメキメキと頭角を現し「ミス原発」と呼ばれる。
これまで仕事一筋に生きてきたが、大きなプロジェクトに関わる気力も体力もなくなり、初めてとった長期休暇を気兼ねしなくていい静かなところで過ごしたいと、角島県の祖母の家にやってきた。後に在宅勤務に切り替えた。
海江田と出会った当初は海江田を快く思っていなかったが、一緒に暮らすうちに少しずつ海江田との距離を縮めていった。
妻子ある男性との恋愛経験から、恋愛に臆病になり、海江田からの思いも初めは受け入れ難く思っていた。しかし、地元の住民や、海江田を慕う西園寺、置き去りにされた子供との交流を経て気持ちに変化が現れた。

地元の地熱を利用して地熱発電に取り組む。

海江田 醇(かいえだ じゅん)

東京の淑愛女子大学で哲学を教えていたが、病気療養する友人の代理で、角島大学に移ることになった。51歳→52歳。
大学から新幹線で30分程度の距離なので、十和の家の離れに住むことにした。十和が亡くなる1ヶ月前、十和から離れの鍵をもらっていた。
大学生の頃、東京の大学で別の学部の講師をしていた十和の染色作品を見て興味を持ち、思いを寄せるようになった。
十和の葬儀の時、つぐみを見かけ、「きれいな女がおる」と一目ぼれした。当初からつぐみを積極的に口説いている。
2歳の時に公園に置き去りにされているところを海江田の養母に拾われ育った。

日本エッセイスト賞を受賞。著名な哲学者。

下屋敷 十和(しもやしき とわ)

つぐみの祖母。染色家としてたくさんの仕事をしていた。かつて海江田の通う大学の講師をしていた時、海江田と知り合った。亡くなる1か月前、海江田に自宅の離れの鍵を送った。

秋本 岬(あきもと みさき)

つぐみの会社の同僚で親友。同じ部署の係長をしていた。同僚との結婚が決まり、会社を退職、専業主婦になった。退職後もつぐみとの友人関係は続いている。

西園寺 真保(さいおんじ まほ)

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