氷菓の名言・名セリフ/名シーン・名場面まとめ

「氷菓」は、2001年に刊行された米澤穂信による推理小説。
何事にも消極的な「省エネ主義」を信条とする「折木奉太郎」は、姉の勧めで入部した古典部にて好奇心旺盛な少女「千反田える」と出会う。千反田の好奇心を発端として、折木は古典部のメンバーと共に日常の中の様々な謎に巻き込まれるミステリー。人の在り方、人の心理に関して触れることが多く、数々の心に残る名言を残している。

技術が無い者がいくら情熱を注いでも結果は知れたもの。

文化祭に向け、千反田の知り合いである入須冬実のクラス、二年F組では、自主制作映画を撮影して公開する予定となっていた。
「率直な感想を聞かせてほしい」と、千反田経由で入須に頼まれその映画の試写会に呼ばれた折木たち古典部四人だったが、映画の出来栄えは酷いものだった。素人の制作なので当然といえば当然かもしれないが、映画に詳しいわけではない古典部メンバーたちから見ても、ストーリーも演出も演技も見るにたえないものと言えた。
観賞を終えた折木たちに入須が無感情で放った辛辣なセリフ。自分のクラスで作り上げた作品に対してあまりにも客観的で他人事のような評価を下していて、冷徹で現実主義な彼女の性格が表れていると同時に、理想だけでやってはいけない非情な現実を表している。

能力のある人間の無自覚は、能力のない人間には辛辣だ。

入須によって折木たちが見せられた自主制作のミステリー映画は、事件が起こったところで、解決せずに途中で終わっていた。脚本担当が解決編を書く直前に病気で倒れてしまったからである。このままでは映画は完成しない。入須から折木たちへの本当の依頼は、ただの試写会ではなく、作中の事件を解き明かしてほしいというものだった。
「氷菓」の件、折木が45年前の真実を解き明かした件について入須は聞き及んでいて、入須も折木の能力を認めていたため、わざわざ外部の下級生である古典部メンバーへ依頼したのだった。
しかし折木は難色を示す。解決できる自信がなく、もし駄目だったときに二年F組に対して責任も取れない。「氷菓」の件はたまたま運が良かったから解決できたのだ、と。
そう言って自分の能力を過小評価する折木に、入須が放った説得。
大会MVPに選ばれた選手のインタビューで、大活躍の秘訣を聞かれた際に「たまたま運が良かっただけ」と答えた選手がいたとした時、その言葉は才能の無い補欠選手の心には辛辣に響く。そんな例え話で、「誰しも自分を自覚すべきだ」と、入須は折木の能力を高く買っている旨を伝え、説得した。
評価していると同時に、折木のような人間への批判文ともいえる。

ごく簡単な物理的解決はごく簡単な心理的側面から否定される。

二年F組の映画の解決編について古典部メンバーで話し合っていたときの折木のセリフ。
事件は密室殺人であり、殺人現場の部屋は、人の出入りが可能な入り口が全て使用不可能と見做されていた。外に面した窓は、鍵こそ開いていたものの、窓へ辿り着くまでのルートは人目に付き、登場人物たちに見られる可能性が高い。
密室に対する物理的解決は簡単で、窓から入ること。しかし犯人の気持ちになってみればそんなルートは間違いなく通らない。これが心理的側面での否定、ということである。
推理小説、ミステリーの基礎といえる一文。

心からの言葉ではない。それを嘘と呼ぶのは、君の自由よ。

入須の説得により折木は映画内の事件解決に臨むことになる。
入須に「探偵役」の素養を買われた折木は期待通りの活躍を見せ、彼の推理をもとに新たに脚本が追加され、ついに映画は完成する。入須の言うように自分に能力があったことを自覚でき、また、それを証明することができた。省エネ主義に反する労働であったものの、折木は満足感を得ていた。
しかし、完成した映画の試写会を見た、古典部メンバーの反応は芳しくなかった。折木の考えた解決編は矛盾がある、とそれぞれに告げられる。ミステリーとしてその結末に矛盾はない。素晴らしい出来である。しかし脚本担当である本郷が思い描いていた結末、本郷が考えていた解決編としてはおかしい。本郷が用意していたザイルがどこにも使われていない、などといった矛盾が指摘され、折木自身も己の失敗を痛感していった。そこで、折木は入須に関して新たな真実に気付くのだった。
本郷は脚本を書けなくなったのは本当だが、倒れていない。死者が出ない結末を思い描いていたはずが、撮影班のアドリブによって一目で分かる死体となってしまった。気の弱い本郷は「撮り直してくれ」とも言えず、脚本を途中から一新しなければならなかったのだ。白紙に戻った原稿を前に、本郷の手は止まってしまう。
入須が折木に頼んだのは「探偵役」ではなく、実のところ「脚本家」だった。あるはずのない解決編を推理させ、存在しなかったストーリーを創らせた。
そのためだけに、入須は折木の「探偵役」の能力を持ち上げた。それを知った折木は、「誰しも自分を自覚すべきだ」と自分を評価してくれた言葉も嘘なのか、と入須に問い詰める。
そんな折木に、入須が容赦なく冷徹に淡々と述べた返答である。この事件が収録されたシリーズ二作目において、最も読者の心に残るセリフといって過言ではない。

頑張れば何とかなる保証は、ありませんが、頑張らなければ、何ともならない事は保証できます!

文化祭の出し物として文集「氷菓」を販売することになった古典部だが、当初売れ残り覚悟で三十部を予定していたはずの文集が、発注ミスで二百部届いてしまっていた。
文集の販売を頑張ろう、と意気込む千反田だが、「頑張るだけでなんとかなるものなのか?」と折木は机の上に積まれた文集の山を見ながら溜め息をつく。もっともな折木の感想に対し、何とか虚勢を張る千反田のセリフ。頑張れば絶対なんとかなる、とは言わないあたり、表面上だけでない心に響くセリフといえる。

絶望的な差からは、期待が生まれる。だけどその期待にまるでこたえてもらえないとしたら、行き着く先は失望だ。

文化祭にて、福部の先輩である田名辺治朗が吐いたセリフ。
田名辺は一年前の文化祭で、友の陸山と安城とともに漫画を共同制作していた。作画の陸山も原作の安城も才能があり、その出来栄えは古典部と掛け持ちで漫画研究部に所属する伊原も絶賛するほど。翌年も制作しようと予定していたところ、安城が転校となってしまい、すでに彼女が完成させていた原作だけが残された。
しかし、陸山にとっては漫画制作は一年限りの遊びでしかなかった。それとなく田名辺が進言しても陸山は作画しようとせず、ついに漫画は描かれないまま、文化祭当日になってしまう。安城の二つ目の原作に、陸山が作画すれば、間違いなく超大作となる。田名辺はそう信じて疑わず、やるぞと言ってくれれば田名辺にはいつでも協力する準備が整っていたが、実際のところ、陸山は原作を読んですらいなかったと田名辺は知る。
競い合う気すら起こらないほどの実力の差があり、競争心を超えて期待を抱いているほどなのに、陸山は全くその才能を発揮しようとしない。漫画を描こうとしない陸山に対し、悲しげな目をして田名辺が吐いたセリフである。似たような境遇にある多くの読者、視聴者の心に刺さるセリフといえよう。

自分に自信があるときは期待なんて言葉を出しちゃいけない。期待っていうのは諦めから出る言葉なんだよ。

文化祭中、あらゆる部活から物が盗まれ「怪盗十文字」からの犯行声明が残されるという事件が起きていた。
その「十文字事件」を解決したのは最終的に折木だったが、実は福部の方が先に怪盗十文字を捕らえるべく動いていた。
折木は文集「氷菓」の店番という名目で、部室から動こうとしない。「十文字事件」にも興味を示さない。これまで数々の事件を折木のサポートに徹してきた福部だったが、「折木に期待できないなら自分でやるしかない」と気合を入れ、福部にしては珍しく、自ら進んで事件に深入りしていった。しかし、福部には解決の糸口を掴むことができず、部室に引きこもっているだけのはずの折木が自分より一歩も二歩も先に進んだ推理をしていることを知る。福部は自力での解決を諦め、折木に「期待するよ」と言葉をかけ、いつも通りのサポート役に戻ったのだった。
文化祭のあらゆる勝負イベントでは、同級生の谷が福部に張り合ってきて、「次の勝負も期待してるぞ」など、事あるごとに福部へ「期待」という言葉を使ってきていた。文化祭の終わり際、鉢合って立ち話していた谷と別れた後、一緒にいた伊原へ「国語の苦手な人」だと谷を紹介する。その理由を説明したセリフ。
「十文字事件」が書かれた「クドリャフカの順番」編では、「期待」という言葉、行為に焦点を当てたストーリーとなっており、「期待」に関して深く考えさせられる場面が多い。

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