火の鳥(手塚治虫)のネタバレ解説・考察まとめ

漫画界の巨匠、手塚治虫の描く壮大な物語が『火の鳥』だ。その血を飲むと永遠の命が得られる伝説の鳥である「火の鳥」。この伝説の鳥を巡り、古代から未来へ、未来から古代へ。またミクロからマクロへ、マクロからミクロへと想像を絶するスケールで世界が流転する。文明の進化と衰退、科学の罪、生命進化、人間の心と、「火の鳥」を狂言回しに、あらゆる要素を紡ぎ、手塚治虫が読者へ送る「究極の物語」だ。

猿田、罰として呪いを受ける(第2作 宇宙編)

猿田の罪は子々孫々に受け継がれている

『火の鳥』の全ての因果の原因、猿田が永久の罰を受けるシーン。

未来編、科学者の猿田、ナナ、牧村は宇宙の流刑星に漂流する。そこで牧田は流刑星で赤ん坊から老人までを永久に繰り返す罰を、流刑星や宇宙全域を支配する火の鳥から受ける。これは牧村が過去に犯した罪によるもの。具体的には、鳥女という宇宙人を妻にしたが、殺害して食したから。科学者の猿田、ナナはそれとは無関係なので、火の鳥から地球へ返すと言われるが、ナナは牧村を罪人でも愛するとし、流刑星に残る。猿田はナナに惚れており、赤ん坊の牧村を殺害すれば、ナナと地球で結婚できると考え、牧村殺害未遂を行う。そこを火の鳥が罰する。

その火の鳥による罰は凄まじいものだった。

具体的には、火の鳥は、
「あなたの顔は永久にみにくく……子々孫々まで罪の刻印がきざまれるでしょう」
「おまけにあなたの子孫は永久に宇宙をさまよいみたされない旅をつづけるでしょう」
「それがあなたへの罰です」
という内容。
加えて火の鳥は「地球へおいき!すぐに!」と猿田を地球へワープさせ、ナナからも引き離す。

『火の鳥』の物語で時間やキャラクターがループするが、猿田に限り、絶対的に救われない理由が決定づけられるのが、この場面。

ヤマトタケルと草薙の剣(第3作 ヤマト編)

ヤマト編で王子オグナは、クマソ一族の長、川上タケルを暗殺し、その名前を継承し「ヤマトタケル」となる。この場面はそのクマソの追ってが放った火に囲まれて、危機的なヤマトタケルが、火の鳥の声で草を切り、脱出する場面。

神話のヤマトタケルと草薙の剣、その場面が『火の鳥』のヤマト編では描かれている。

墓の下からの歌(第3作 ヤマト編)

ヤマト編のラスト。王子オグナ、カジカら大勢が、王の墓の殉死のために生き埋めにされてしまう。しかし全員が火の鳥の血をわずかになめていたため、生命力が高まり、土の下でも生き続けた。
そこで、殉死のために生きた人間を埋めることをやめさせるため、歌を歌い、声を上げるシーン。この声は半年間続く。

この後、殉死の風習は廃止される。

最後の最後で、王子オグナとカジカが恋を実らせ、安らかに二人で永久の眠りにつく名場面。

30億年の時を経て再会する二人(第2作 未来編)

未来編では人類が超水爆の戦争で絶滅。その後、火の鳥の力で地球上に唯一マサトだけが残された。マサト以外の全ての生命が途絶え、孤独に30億年間マサトは過ごす。生命の種を海へまき、地球が育つのを観察し、やがてマサトは創造主などと呼ばれる霊魂だけの存在となる。

そこへ火の鳥が訪れる場面。マサトは昔の面影はなくなり、白い老人状の姿になっている。

マサトはここで火の鳥のコスモゾーン(身体)に取り込まれ、火の鳥の内部でムーピーのタマミと再会し、永遠の一体化を果たす。未来編は人類の最終局面と絶滅と再生を描き、非常に長大な時間が流転し、マサトが生命の種をまく創造主、神だったとして描かれている。マサト本人はタマミと再会し救済され、人類は一からやり直すという場面。

美しい世界(第5作 鳳凰編)

鳳凰編での主人公の一人、片目片腕の我王(猿田)は怒りにまかせ暴れまわる盗賊であった。妻を殺害し、茜丸などを傷つけるなど、乱暴狼藉の限りを尽くす。やがて師である良弁上人と出会い、彫刻を掘るようになる。内に渦巻く怒りをぶつけた彫刻は話題となり、その後、茜丸と勝負する事となる。一度は勝負に勝つものの、過去の狼藉を責められて、残った右腕も切り落とされ、山へと追放される。

そこで我王は、ふと空を見上げるとあるがままの自然、太陽や樹木、空気の美しさに生まれて初めて感動し、涙を流すのがこの場面。

手塚治虫は生命賛美や自然、あるいは共存、人間、医学、ロボット生命など非常に深いテーマを追求している。『火の鳥』のこの場面にも、そのテーマが描写されている。

猿田=我王=鞍馬天狗の最後と火の鳥(第9作 乱世編)

年老いた我王。猿田の子孫の中では唯一、幸せな最後を送った。

鳳凰編で登場した我王は、乱世編で再登場する。乱世編での我王は数百年山奥で生きた仙人のような境地に至っており、周囲からは「鞍馬天狗=テング」と尊敬されている。長い年月を生きて来た我王は遂にその命が尽きようとしていた。義経や弁太たちに見守られながら最後を遂げる我王の上空には、火の鳥を形どった美しい雲が現れる。我王は「おう……鳳凰が迎えに来てくれたよの…………」と言い、安らかに命を終える。
猿田一族は永久にみたされない、宇宙をさまようと火の鳥によって運命付けられている。だが、『火の鳥』の中、猿田一族でありながら、たった一人だけ例外なのが、幼少期から悪行を重ね、両腕を失い、負けて山に追放された我王だった。

『火の鳥』の全作品の中、我王が唯一、心やすらかに火の鳥の元へ旅立つ名場面。

火の鳥の血はいらない (第12作 太陽編)

『火の鳥』は永遠の命、不死を求め、人間があがく物語が続いている。

そんな中、たった一人、火の鳥の血=永遠の命を「いらない」と断言したのが、太陽編の百済王一族の兵士ハリマ。火の鳥が「無欲なひと」というなど、『火の鳥』全体の中で極めて珍しい場面。

永遠の命、不死を求める人間は惨めに死亡するパターンがほとんどだが、このハリマは異なる。第12作の太陽編でハリマは自分の不死は求めなかった。

ハリマはその後、千年後の未来まで生と死を繰り返す。そして最後に愛する人と結ばれ、太陽へと飛翔する。

『火の鳥』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

手塚マンガ『ブッダ』は企画時点では、『火の鳥』の東洋編だった

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