火の鳥(手塚治虫)のネタバレ解説・考察まとめ

漫画界の巨匠、手塚治虫の描く壮大な物語が『火の鳥』だ。その血を飲むと永遠の命が得られる伝説の鳥である「火の鳥」。この伝説の鳥を巡り、古代から未来へ、未来から古代へ。またミクロからマクロへ、マクロからミクロへと想像を絶するスケールで世界が流転する。文明の進化と衰退、科学の罪、生命進化、人間の心と、「火の鳥」を狂言回しに、あらゆる要素を紡ぎ、手塚治虫が読者へ送る「究極の物語」だ。

山村に住む木こりの弁太は、恋人のおぶうと暮らしていた。ある日、薪などの商品を平安京へ売りに向かった弁太は、高価な櫛を拾い、それを持ち帰りおぶうに渡す。だが、それは謀叛人として平氏より手配されていた藤原成親の持ち物で、弁太一家は謀反の一味と見なされて焼討され、弁太の両親や、おぶうの父は殺害され、おぶうは都へさらわれる。
山に出ていた弁太はさらわれた恋人のおぶうを追って、平安京へ向かう。弁太は橋に通りかかる武士を襲い、おぶうの情報を手に入れようとしていた。そこで牛若という少年に出会い、家来になる。
一方、おぶうは平清盛の侍女となる。平清盛は永遠の命を求めて火の鳥を探し求めるも結局、死去する。
やがて権力をめぐる戦乱・源平の合戦が勃発する。牛若は鞍馬天狗(=鳳凰編の我王)の元で成長し、源義経と名を改め、源氏の大将として平氏との戦で活躍する。弁太はそれに従っていたが、勝負のために卑怯な手を平然と使用し、人命を粗末に扱う義経に対し、弁太は反発をし始める。
壇ノ浦での戦いの最中に、弁太は、平氏の船に乗るおぶうとの再会を果たす。
義経は平清盛ら平氏を滅亡させ、源氏が勝利する。しかし、義経の兄であり、源氏の棟梁(武将の頭)である源頼朝と、義経は火の鳥を巡り内紛が始める。
弁太は義経に反乱を起こし、おぶうを連れて逃げる。弁太が義経を丸太で殺し(角川版では弓矢で死亡に変更)、二名が逃亡し行方不明になった場面で物語は終わる。

源平の争いをベースに描かれた本作は手塚治虫により、雑誌版、単行本版、角川版は大幅な改稿がされており、細部の修正からエピソードの追加まである。
「テング=鞍馬天狗」として鳳凰編の我王が登場し、劇中で安らかな死を迎え、火の鳥に迎えられる。
弁太は弁慶がモデルであり、義経は源義経がモデル。鞍馬天狗(我王)はその名の通り、鞍馬天狗がモデルである。源義経は英雄として描かれる作品が多いが、『火の鳥』の中での義経は、邪道を用いる臆病者として描かれている。

第10作 生命編(1980)

場所:日本とペルー
時間:2155年

22世紀でもテレビメディアは繁栄しており、テレビ局プロデューサーの青居が「クローン人間を作成し殺戮する」という企画を立案する。青居は、ペルーに住む猿田に案内され、火の鳥と人間とのハーフである鳥女からクローン技術を入手する。
クローン殺戮番組が開始されるが、なんとプロデューサーの青居自身が大量生産され、本人も狩りの対象とされてしまう。青居は北海道まで逃亡し、出会った少女ジュネと生活を始める。

雑誌掲載版と書籍版では結末が異なり、雑誌版では北海道に逃げ延びた青居はクローンと断定されるのに対し、単行本ではクローン工場を爆破する場面が追加され、青居は人間であると示唆されている。

第11作 異形編(1981)

場所:日本
時間:室町時代

室町時代の日本。残忍な領主・八儀家正(猿田)の娘に生まれた左近介は、男の侍として育てられていた。父から男として生きることを強制される事で、左近介は苦しみ、父を憎んでいた。
ある日、重い病にかかった父が、どんな病でも癒すと評判だった、八百比丘尼という尼に治療を頼むことを決める。
それを知った左近介は、八百比丘尼が治療をしなければ父は死に、女として生きることができると考える。そこで、左近介は嵐の夜に従者の可平を連れて、蓬莱寺の八百比丘尼を殺しに向かう。
左近介は八百比丘尼を斬り殺すが、そのあと城に戻ろうとするも、謎の力が働いて、寺に戻ってしまう。
左近介が城に戻れず、寺で困惑していると、村人が病気を癒してもらおうとやってくる。左近介は八百比丘尼を斬り殺したことが暴露されることを恐れ、八百比丘尼に変装し、寺の本尊の中にあった火の鳥の羽根を使って病人たちを癒す。
実はこの寺は時の閉ざされた世界であり、八百比丘尼は、未来の左近介自身であり、寺の内部でタイムリープが起きていた。
その後、寺に、戦で傷ついた妖怪や化け物たちが続々と治療に訪れてくる。

雑誌版、単行本版では治療に訪れる異形の者を、火の鳥が宇宙人だと説明する。
だが、のちに妖怪へと設定が変更され、外見も変わり、太陽編に繋がる形になった。

第12作 太陽編(1986)

場所:日本
時間:7世紀と21世紀が交互に登場

現存する手塚治虫の『火の鳥』の実質的な最終話。太陽編では7世紀と21世紀の話が交互に描かれる。

7世紀、白村江の戦いで唐・新羅連合軍に惨敗した倭・百済軍は敗走を重ねていた。百済王一族の兵士ハリマは、唐軍に捕らえられ、生きながら顔の皮をはがれ、狼の皮を被せられる。狼の顔を持ったハリマは老婆に助けられ、老婆の占いを信じて倭(日本)へと渡る。
そこでハリマは狗族の少女マリモと出会い、狗族に協力する。狗族とは八百万の神の一種であり、かつて人間から産土神として崇められていたが、仏教の力が強まり、魔物とされていた。
仏教と狗族=霊界は対決し、やがては大友皇子勢力と皇弟・大海人皇子(後の天武天皇)ら地方豪族との内乱という、壬申の乱へと発展していく。

一方、21世紀の日本では(正確には2009年)、日本人が「光一族」という集団により、「光」と「シャドー」に色分けされ、分断された世界になっていた。
1999年、惑星探索船が金星へ向かう途中、大友というクルーが宇宙空間で発光する鳥を発見し地球へ持ち帰った。これを火の鳥と命名し、持ち帰った火の鳥を不死の力がある宝と定義し、大友を大教祖に、同乗クルーを側近に構成した集団が「光一族」だった。大友は自らを神だと宣言し、火の鳥を崇める宗教団体「光」を組織し、それを信じるものを「光」一員とし、疑問を持つ者は全て「シャドー」とした。「シャドー」は地下世界へ追放され、迫害を受けていた。板東スグルは反「光」のエージェントで、地下世界で迫害を受けて暮らす「シャドー」側の人間だった。
ある時、坂東スグルはエージェントのリーダー(おやじ=猿田)から、「光」の総本山に潜入し、大金庫の中にある火の鳥を奪うミッションを受ける。だが坂東スグルは潜入ミッションに失敗し捕まる。義理の兄が「光」の教宣局長という権力者で命だけは助かるが、「光」の海底にある洗脳施設に強制送還され、狼に似た洗脳ヘルメットを付けられる。そこでかつてエージェント時代に同年代ゆえに殺さなかった少女兵士ヨドミと出会い、惹かれ合う。その後、洗脳施設内での決闘で、ヨドミがナイフで刺されても死亡しないという事件が起きる。そこでスグルは、ヨドミは火の鳥の血のありかを知っている不死者であり、その火の鳥の血は地上にあるので海底を出て地上へ行こうと煽動を行う。それがきっかけで、洗脳施設内で暴動が発生し、「シャドー」の決起に繋がっていく。

過去の壬申の乱は拡大し、未来では「シャドー」の軍勢が武装蜂起をし、どちらも大規模な戦争に発展する。

物語の終盤、決戦が行われる。その最中、過去と未来がめまぐるしく入れ替わる。過去のハリマは狼の顔が溶けて人間の顔に戻り、句族が認識できなくなる。未来のスグルは逆に狼の顔に変わる。狼の顔のスグルは、ドローン兵器のコントロール施設を爆破するため、装甲車で施設に突撃し、爆発に巻き込まれ消滅する。過去のハリマは句族の記憶を失う。

戦争は過去、また未来でも、大友皇子や大友ら、旧勢力が敗走し、新しい勢力が台頭し始める。しかし、新しい勢力の天武天皇も「シャドー」のリーダー(おやじ=猿田)も結局、旧勢力と全く同じ宗教的な支配を今後も行い、疑う者の追放と迫害を繰り返すと宣言する。

戦争の大勢が決しつつある中、過去のハリマは句族=霊界が認識できないので、マリモの元から消え、マリモは嘆く。だが、千年後に「もし愛がめばえれば再会できる」と父から告げられ、マリモは目を閉じる。目を開くと未来のヨドミの目が開く。ヨドミの目の前には「光」の総本山で、追い詰められた大友がいる。
そこで大友は真相を述べる。実は大友は惑星探索船で火の鳥に出会ったが、持ち帰っていなかった。大友は、地球上には火の鳥も不死も実際には存在しないと考えていた。本当にヨドミは死亡しないのか、それを最後に確かめるため、大友は部下に銃でヨドミを撃たせる。しかし、ヨドミは銃でなんど撃たれても死なない。ついに火炎放射器でヨドミを焼き払うが、その炎が大友に引火し、大友は焼死する。ヨドミの灰は狼となり、「光」のメンバーを襲うと、疾走し、過去と未来が入り混じった空間に降り立つ。
そこで狼のヨドミは、狼の顔のスグルと再会する。二人は千年前のマリモとハリマの生まれ変わりであった。そこを太陽のように火の鳥が上空から招き、最後には狗族らの世界=太陽へと飛翔し、過去が未来に取り込まれる。二人は恋を成就させ、物語は終わる。

作中では、7世紀のハリマは夢を見ると21世紀の坂東スグルに入れ替わり、逆に21世紀の坂東スグルが夢を見ると、7世紀のハリマに入れ替わるという構造になっている。7世紀、21世紀のどちらでも、火の鳥が神を超越した超存在として君臨している。太陽編は2つの時代が交互に描かれ、徐々に入れ替わりが頻繁になり、最終的に太陽=火の鳥に融合し、過去が未来に組み込まれる形になる。

休憩 INTERMISSION(1971)

場所:日本
時間:1971年

手塚治虫自身が登場し、火の鳥の作成秘話を語るエッセイ風短編マンガ。

雑誌少女クラブ掲載『火の鳥』エジプト編・ギリシャ編・ローマ編(1957)

場所:古代エジプト・ギリシャ・ローマ
時間:紀元前

火の鳥の血を飲んで3千年の命を持った王子クラブと奴隷の娘ダイアが、死亡し、繰り返し別の時代に生き返り、出会いと別れを繰り返す、『火の鳥』の外伝的な作品。
ウサギのポポ、カメのノロ、そしてキツネのヨタも火の鳥の血を飲み不死となり、見守る役目を果たす。

大地編(構想のみ)

構想のみでマンガとしては描かれていない。
幕末から明治維新を描く構想と、日中戦争中を描く2バージョンの構想があった。
具体的な構想は日中戦争を描く予定だった構想で、時間は西暦1938年、場所は日中戦争中の上海。関東軍が中国大陸に仙鳥(火の鳥)の探索を計画する。間久部緑郎(ロック)や弟の間久部正人、猿田博士が登場予定だった。

手塚治虫が病に倒れたため未執筆となる。

再生編(構想のみ)

『火の鳥』の作中に鉄腕アトムを登場させる構想。
手塚治虫自身が『火の鳥』の二十一世紀の作中に鉄腕アトムを登場させる予定で、「アトムもじつは火の鳥の一挿話だったというオチ」であると述べている。
具体的な構想は存在せず、断片的ではあるが、ロボット故に不死であるアトムの魂が最終的には、火の鳥に救われるのではないか、という着想がこの編の基本となっている。
構想のみ手塚治虫により語られており、未執筆。

第13作 完結編 現代編(構想のみ)

場所:日本
時間:現代

『火の鳥』の最終編。
連作マンガ『火の鳥』は過去と未来を交互に描き続け、最終的に現在に着地させて完結する壮大な構想で進められていた。
手塚治虫は「現代」の定義を「自分の体から魂が離れる時」としていた。「魂が体にある時」以前は全て過去であり、以降は全て未来という。魂が体から離れた時に「現代編」を描く時だと語っている。
また、手塚治虫は、体から魂が離れる時は死ぬ時だ、との指摘に対し、「一コマでもいいんですよね。それが一つの話になっていればいいんですから」と返している。

現代編では永久の罰が刻まれた猿田が救済され、それは『鉄腕アトム』のお茶の水博士、または手塚治虫本人が登場予定だったと言われている。

手塚治虫のライフワーク=『火の鳥』で、手塚治虫の生涯の集大成とも言える構想。晩年、手塚治虫は胃癌にかかり入院する。その最後の言葉は「仕事をさせてくれ」であり、手にはエンピツを持っていた。
1989年2月8日の翌日に胃癌により手塚治虫は死去し、『火の鳥』現代編は構想で終わる。手塚治虫が胃癌中の病院のベッドで手がけた作品『舞台劇 火の鳥』が公開された日だった。

作者死亡により未執筆。

『火の鳥』の物語構造

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