傷だらけの天使(傷天)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

「傷だらけの天使」は、1974年10月から1975年3月にかけて、1話完結の全26話が日本テレビ系で放送されたTVドラマ。探偵事務所で働く木暮修と彼を慕う乾亨。彼らは調査員として暴力団抗争から捨て子の親探しまで様々な案件に関っていく、そんな中での二人の怒りと挫折を多彩なストーリーと個性的な演技によって描く。深作欣二を始めとする個性的な映画監督が演出を担当。現在でも人気の高い伝説のドラマである。

『傷だらけの天使』の概要

「傷だらけの天使」は、1974年10月5日から1975年3月29日まで、日本テレビ系で“土曜夜10時の日テレアウトロー路線”第2弾(第1弾は藤岡弘主演「白い牙」)として放送されたテレビドラマ。1話完結の全26話。
ビルの屋上にあるペントハウスで暮らす木暮修と弟分の乾亨。彼らは探偵事務所「綾部情報社」で働き、暴力団の抗争から捨て子の親探しまで、それぞれの事件に関わる人々との出会いや別れを通しての青春群像を描いている。
演出は、深作欣二、恩地日出夫、神代辰巳、工藤栄一といった、個性的な映画監督が担当。脚本は、当時新進気鋭の市川森一がメインライターとして全26話中8話を担当し、市川森一によると「13人の脚本家と監督による壮大な実験劇」と表している。
音楽は元ザ・スパイダースの井上堯之と大野克夫が担当。軽快なタッチのオープニングテーマ曲は、いまだにテレビCMなどで流用されたりもする。
また、衣装協力としてBIGIがクレジットされており、ファッションデザイナーの菊池武夫が担当。萩原健一演じる木暮修の服やスタイルは、当時の若者に多大な影響を与えた。

放送当時は作品中に過激なシーンが多く登場することから、「有害番組」のレッテルを貼られ、「あまりにふざけている」「下品である」「ストーリーがわからない」「テーマがない」などの批判を受け、第1クールの視聴率は1桁台と苦戦を強いられた。そこで第2クールは「暴力や裸のシーンを抑え、人情味溢れる展開にする」という軌道修正が図られ、2桁台の視聴率をキープすることに成功。因みに最終回の視聴率は19.9%だった。主演の萩原健一と水谷豊による肉体を駆使した縦横無尽な演技とともに、テレビドラマの枠を大きく逸脱した大傑作と賞され、現在も人気の衰えないテレビドラマシリーズとなっている。

1997年には阪本順治監督により同名映画化しているが役名などは変えている。また、2008年にはハードボイルド小説家の矢作俊彦が「傷だらけの天使 魔都に天使のハンマーを」という小説版を発表。ドラマや俳優陣の経歴を知っていなければわからないような小ネタ描写を散りばめ、最終回から30年後、ホームレスとなった小暮修を描いている。

『傷だらけの天使』あらすじ・ストーリー

探偵事務所「綾部情報社」の調査員、木暮修。
彼はエンジェルビルの屋上にあるペントハウスに住んでいる。
修が面倒を見ている弟分の乾亨も同居というより転がり込んでいる。彼は修を手伝うこともあれば自動車修理工として働いているときもある。

朝が苦手な修は、たいてい昼頃食事を取ったあと、仕事が無い時はパチンコして任侠映画を見て涙する。
帰宅して留守番電話を聞いてみると、電話局から電話代未納の催促が入っていて、続けて「忙しそうね、修ちゃん」と綾部情報社社長・綾部貴子からの仕事依頼のメッセージ。
綾部情報社は、表向きの評判とは裏腹に悪事にも手を貸す悪徳探偵事務所でもある。事務所で綾部貴子に会う時は決まって怪しい歌が流れているのだが、この事務所にはもう一人、辰巳五郎という部下がいる。辰巳は、非常で冷徹で威張り腐ったいやな男で、仕事の話はこの男としなければならず、明日いつものお店で辰巳から話を聞いて欲しいとの事。

翌日、いつものレストランで辰巳と会う。
辰巳の前には、メロンが置いてある。辰巳の昼食はメロンかヨーグルト。胃下垂なのである。
仕事の話を聞いてみると、ヤバそうな仕事なのだが報酬が安い。渋々受けることにして、必要経費の入った封筒を受け取ると中身はこれまた雀の涙。
修が文句を言えば「やるのか?やらないのか?」と辰巳に封筒をひったくられるので、仕方なく修もひったくり返すのだ。

こうして、修と亨、2人の1日が始まる。

『傷だらけの天使』の印象的な回

第3話「ヌードダンサーに愛の炎を」

場所はストリップ劇場「浅草ロック座」。
踊り子たちが派手なステージを繰り広げる中、舞台袖で喘息の発作で苦しんでいる進行係の高階忠と、その背中をさする小暮修がいる。
修は忠に言われて、出番の近付く踊り子のマリを二階の楽屋に呼びに行く。降りて来たマリは、苦しむ忠にやさしく声を掛けステージに出ていく。
実は修は綾部情報社の綾部貴子からの命令により、忠の助手としてロック座に潜入しているのだった。
マリは財閥の令嬢でありながら、9年前に17歳で親元を飛び出し、元暴力団幹部だった忠の元へ転がり込んだのだ。何とかマリを忠から引き離して親元に返すのが仕事なのである。綾部の部下である辰巳五郎は、修にマリを忠から寝取ってしまえと命令をするが、元ヤクザが相手なので戸惑う修。
だがそんなある夜のこと、修はついにその命令を実行に移す。まずは、雑用として同じく潜入している乾亨を使って、忠を近くの居酒屋へ呼び出す。その隙を見て修は楽屋にいるマリを舞台袖に呼び出すといきなり襲い掛かり「病気の忠なんかやめて俺がヒモになってやる」と抱きつくのだが、マリは「ホテルに行きましょう。ホテルで待ってて」とかわして逃げる。本気にした修がホテルで待っていると来たのは年配の踊り子である座長の竜子で、マリにまんまと騙されてしまうのだった。

修のやり方にまったく埒があかないと感じた辰巳は、貴子に許可を取って単独の行動に出るが、それはヤクザのトラブルに見せかけて忠をこの世から消す非常な企みであった。
辰巳は亨に忠を境内の茶屋に呼び出させると、そこで「矢崎が新宿に舞い戻り、黒姫興業にわらじを脱いでいる」と直接告げる。すると忠の表情が曇る。矢崎は忠と同じ組にいた兄弟分で、親分を黒姫興業に売った裏切り者であり絶対に許せない男だったのだ。そして辰巳は、今度は黒姫興業に行き、矢崎に「今夜あたり高階があんたを殺しに来るかもしれない」と告げる。
その夜、忠はマリーに矢崎を殺しに行く話をする。「行くときはそっと出て行って…」と泣き崩れるマリを抱き寄せる忠。その光景をそっと見ていた亨は、忠の男気に惚れ、自分も忠について行く決心をすると炊事場に行って錆びた匕首を砥石で研ぎ始めるのだが、修に見つかり「余計なおせっかいするな!」と怒鳴られる。
やがて、マリのステージが始まると忠の姿はない。修は亨の姿もないことに気付き、慌てて外へ飛び出すと亨が思いつめた表情で立っていた。亨を死なせたくない修は「お前の代わりに行ってやるからステージの方を頼む」と、亨から匕首をひったくって忠のあとを追うのだった。
黒姫興業の溜り場で麻雀をしている矢崎と若い衆たち。そこへ現れる忠と修。忠と矢崎はお互いに匕首を抜くと、外の公園に出て激しく戦い始める。只々見ているだけの修の前で、忠と矢崎は刺し違えて血まみれで倒れ込む。怖くなった修はその場から走り去り、気が付くとロック座の楽屋口の前にいた。物音に気付いて出て来たマリと亨に状況を説明すると、マリは修に礼を言って泣き崩れるのだった。

しばらく放心状態だった修に辰巳から仕事の連絡が来る。その仕事とは、黒姫興業の幹部がマリのストリップの写真を財閥へのゆすりのネタにしたいというので、資料を貸して金をもらうだけだという。
修の車で辰巳と一緒に受け渡し場所の倉庫へ行く。辰巳と幹部が商談をしていると、マリの裸の写真が修の目に入り、カッとなった修はその資料をゴミを燃やす一斗缶の炎の中へ投げ込んでしまう。怒った幹部ら数人の組員と大乱闘となり、修はボロボロになりながらその場を逃げ出し、何とか住居であるペントハウスの屋上にたどり着くのであった。
翌日、修は貴子から、マリが無事に家に帰ったという連絡が父親からあった旨を聞く。
マリのことを忘れられない修と亨は何か吹っ切れないものを感じ、今度はロック座の客として見知らぬ踊り子にかぶりつきで眺めるのだった。

第19話「街の灯に桜貝の夢を」

亨は寿司屋で新宿N0.1ホステスの明美の仕事の帰りを待っていた。亨は川崎の工場で働いていた明美をスカウトし、蒲田のキャバレーを手始めに、店を移る度に口を利いてやったのだと言う。そして今の新宿の店で明美はN0.1ホステスになり、亨は明美のヒモとして生活をしていた。
明美と亨に修も合流し、馴染みの飲み屋で飲み始める。そこで明美が秘密の絨毯バーのような一軒店を持って荒稼ぎしたいという話から、修と亨も1枚加わり、修のペントハウスは「女子大生・明美ちゃんの部屋」と化したのだった。「明美ちゃんの部屋」は大盛況で、亨は深夜スナック、修は公園で寝泊りする毎日。さらに昼間を希望する客のために、昼間もペントハウスを貸すことになる。
綾部情報社では社長の綾部貴子は旅行中。秘書の浅川京子がタイプを打っている傍のソファで眠りこけている修と亨。そこへ入ってきた辰巳に叩き起こされた二人は、辰巳に事情を説明すると、元々綾部貴子の持ち物であるペントハウスを無断で、しかもいかがわしい風俗営業に貸したことに辰巳は激怒。だがすぐに思い直し、ペントハウスを出て行きたくなければ、明美を利用して仕事をしろと言うのだった。その仕事とは、テレビでもCMをやっている有名企業・板倉建設の社長のイスを狙う専務からの依頼で、板倉社長を客としてたらし込みその濡れ場をカメラに収め、スキャンダルを盾に板倉社長を失脚させようということだった。しかも上手く行ったら百万円の大仕事だという。

ある夜、板倉社長の帰宅時に、明美が女子大生の恰好で板倉邸の門にしがみつき、亨がそれを追いかけるという芝居を打つ。狙い通り、板倉は明美を追いかけてきた亨を数発殴って追い払った。板倉はそのあと明美をペントハウスへ送って行った。板倉は5年前に女子大生の娘を交通事故で亡くしていたので、そこに付け込む算段だったのだ。
第1段階を終えた修に、辰巳は男をその気にさせるには3日で十分と、明美に3日で板倉社長を落とさせろと言う。そして3日目の夜、寒空の下、ペントハウスの屋上で窓際にセットしたカメラの自動シャッターを切っている修。「期限3日でやれって言ったら、ちゃんと3日でたらしこむんだからさ、あの女も大したタマだな」と言う修に不機嫌な亨。さらに修は、撮影したフィルムを辰巳に渡さず、直接板倉をゆすったほうが銭になるという話を亨に持ちかける。
亨は翌朝、フィルムを持って、明美のいるペントハウスに向かうと、明美は部屋を片付け、荷物をまとめていた。
亨は、板倉を直接ゆする話をすると、明美はそのフィルムをどうしても欲しいと言い出す。明美は板倉社長に本気になってしまっていたのだ。そして明美は修たちの計画も全て話してしまったと言う。板倉はそのフィルムを言い値で買い取るというので明美は板倉にフィルムを売ったら消えるつもりだった。「じゃあ俺はどうなんの?」泣いている亨を悲しそうに見つめる明美。フィルムは好きにしてと言い残し荷物を持って出ていく明美の前に、何かが転がった。亨はフィルムを明美に渡したのだった。

後日、2人は、綾部情報社で辰巳の報告を聞いていた。
専務一派の計画は事前に板倉社長に漏れていて、逆に尻尾をつかまれて失脚したのは専務側だった。板倉社長は怖い男だよと話す辰巳は、2日前、箱根の山中で女の変死体が見つかったことを二人に教えるのだった。「昔から客に惚れる遊女はいたが、遊女に本気で惚れる客なんてめったにいやあしない。君らも甘いな」と言う辰巳を尻目に、修は無言でコートを手に出て行く。亨も何かを決意したようだった。
木漏れ日の中、木立の中には、亨がいた。その手にはライフル銃があった。
走ってくる車に、亨のライフルの照準が定まった。車が近づいてくる。亨の手が引き金に掛かり、後部座席の板倉社長が射程内に入る。
だがその時、照準器の視界は上に流れた。撃たせまいと、亨のライフルを上に向けさせたのは修だった。
修がライフルを取り上げようとして、2回、銃は空に向かって発射され、修は亨を殴った。泣きながら修に抱きつく亨を受け止めながら、修も泣きそうだった。

『傷だらけの天使』の主な登場人物・キャラクター

木暮修(こぐれ おさむ/演:萩原健一)

探偵事務所「綾部情報社」の調査員。中卒の25歳。
エンジェルビルの屋上にあるペントハウスが住居。
故郷は千葉で、幼い頃に両親と死別。一度結婚したが妻の菊江は病死。一人息子の健太がいるが妻方の実家に預けている。息子の名前は高倉健と菅原文太から1字ずつを取って名付けた。
性格は粗暴である反面、仁義に厚く非情に徹しきれない。危ない仕事は金銭的に困窮していてもあまり受けたがらないので、事務所からの指示に背いて独自の行動を取ることもしばしば。
酒は好きで何でも飲み、煙草はハイライトを吸っている。趣味は浪曲のレコード鑑賞。漢字はかなり苦手である。
最終回のラスト、ドラム缶に入れた亨の亡骸をリヤカーで夢の島まで運んで捨て、そのままリヤカーを引きながら何処かへ行ってしまう。

乾亨(いぬい あきら/演:水谷豊)

修と同じく綾部情報社の調査員。
住居不定、年齢不詳だが劇中の修のセリフで「俺より3つ年下」とある。最終学歴は自称小卒(中学校中退)だが、自動車修理工として働いているときもある。
修を兄のように慕い、劇中、頻繁に修を「兄貴ぃー!」と呼んで登場し、ある時は連呼する。修に張り付いて身の回りの面倒を見ているので、ある種ホモのようでもある。
修よりも純情かつ手堅い気質で、将来はお金を貯めて、修と健太の3人で暮らすことを夢見ている。
リーゼントで頭にはポマードをべったりつけ、皮ジャンかスカジャンをいつも着ている。
最終回では風邪をこじらせて肺炎にかかり、孤独死する。

綾部貴子(あやべ たかこ/演:岸田今日子)

綾部情報社の社長。
過去は一切謎のままだが、財政界や裏の世界に顔が利く。
常に黒づくめの服を愛用しプライドも高い。修たちを甘い言葉で巧みに操るが、その冷静な振舞いは、本物の悪女を感じさせる。
朝食はイギリス流のBLT、酒はブランデー、煙草は葉巻と、なんでも一流の高級品を好む。
最終回、船でヨーロッパへ高飛びを図り、その後の消息は不明。

辰巳五郎(たつみ ごろう/演:岸田森)

綾部情報社のナンバー2で、綾部貴子の忠実な部下。
修と亨には常に威張っており、冷徹で異常に計算高く、金のためなら修たちを危険な目に合わせることも平気。
実はかなりの女好き。修たちへのギャラの一部をピンハネするセコイところもある。
胃下垂だったり、猫嫌いであったり、実はカツラであったりと、隠された裏面が多々あり、途中からは喜劇的な面を押し出し、修・亨とトリオのようなキャラクターになった。
最終回では貴子を助けるために、警察に捕まり手錠をかけられる。

浅川京子(あさかわ きょうこ/演:ホーン・ユキ)

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