目次

  1. 「銀河鉄道の夜」の作者宮沢賢治について
  2. 「銀河鉄道の夜」について
  3. どこかヨーロッパ的な異国の香りがするわけ
  4. イマジネーションを刺激される描写の多さ
  5. まとめ

「銀河鉄道の夜」の作者宮沢賢治について

Kenji

宮沢賢治(1896-1933)と言えば有名なのが多分この写真でしょう。
一般的には「雨ニモマケズ」という詩が最も良く知られた彼の作品になろうかと思います。
実はこの詩は彼が亡くなる数年前病床で手帳に書き込んでいたもので、彼の死後に発見されました。
この詩から窺われる、法華経的な精神性(賢治は生前法華経の熱心な信者だった)などから、宮沢賢治を宗教的な「偉人」と思っている方も少なくはないでしょう。
でも実際のところ、宮沢賢治の凄さはそういう部分よりも(もちろんそういう部分においても優れていたのは間違いないと思いますが)、常人の想像力を遥かに超える、ぶっ飛んだファンタジーを創作したことだと思うのです。
しかもそれは今から100年近くも前のこと。
もちろんまだ「ファンタジー」などという概念もなかった時代のことです。
そんな時代に、日本でこれほどスケールの大きな、SF的と言ってもいい物語が作られたこと自体が奇蹟のようなものだと私は考えています。

「銀河鉄道の夜」について

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「銀河鉄道の夜」は、1924年(大正13年)頃に初稿が執筆され、その後37歳という若さで亡くなるまでに何度も推敲が重ねられました。賢治の死後1934年に高村光太郎らの編纂により出版されましたが、作品がこれで本当に完成していたのかどうかは、わからないというのが事実です。

画像は新潮文庫の「新編 銀河鉄道の夜」。

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短編においても数々の「不思議な」世界を彼は描き出しましたが、それらの集大成と言うべき作品が「この銀河鉄道の夜」です。

簡単なあらすじ。父親が長く家を留守にして、病弱な母親と二人暮らしをしている少年ジョバンニ。彼は家計を助けるため、放課後活版所で活字拾いの仕事をしています。
ある日クラスメイト達から父のことを揶揄され、いたたまれなくなったジョバンニは一人町外れの丘へ。
そこで星空を見上げていた彼は、いつのまにか夜空を走る「銀河鉄道」に乗っていました。かたわらには友人カムパネルラの姿も。
そこから二人の不思議な旅が始まるのでした。

どこかヨーロッパ的な異国の香りがするわけ

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こちらの画像は物語の後半のワンシーンをイラストレーターのKAGAYAさんが描かれたものです。
銀河鉄道に途中から乗り込んで来た「かおる」と呼ばれる少女(ジョバンニ達と同じくらいの年格好)と幼い弟、そして彼らの家庭教師だという青年。彼らが列車を降りたのがこの「サウザンクロス」でした。
物語を読んでいくと、彼らは氷山にぶつかって海に沈んだタイタニック(と思われる)船に乗っていたらしいことが分かってきます。
つまりこの十字架の形をしたサウザンクロスは正に「神の御元」であり、キリスト教を信仰する人達にとっての「死後の世界」。
列車が動きだし、次第に十字架が小さくなっていく様子、列車から降りた大勢の人達がひざまずきながら祈りを捧げる姿、そして彼らの方に「ひとりの神々しい白いきものの人が手をのばしてこっちへ来るのを二人は見ました」という一節からは、まるで西洋の絵画を見ているような感動を覚えます。

宮沢賢治はエスペラント(世界共通の言語)に強い関心を抱き、実際に学んでもいたそうです。
彼の作品に、あまり日本的ではない名前がしばしば登場するのは、このエスペラントの影響が大きかったのかもしれません。
「銀河鉄道の夜」の主人公ジョバンニとカムパネルラという名前にもどことなく南欧的な響きがあります。

イマジネーションを刺激される描写の多さ

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こちらの画像は1985年に制作された劇場用アニメ映画「銀河鉄道の夜」のポスターです。
ジョバンニとカムパネルラは「猫」の姿で描かれているのが原作と異なる部分ですが、劇中に登場する文字は全て前述の「エスペラント」であり、内容的には大変質の高いものとなっています。
また、音楽を担当した細野晴臣氏の祖父が、作品中登場する「タイタニック号」に実際乗船していたという話も本作にまつわる奇縁としてよく知られています。

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一方、こんな所でも「銀河鉄道」のイメージが使われていた!という例をひとつ。
こちらの画像は、筆者の世代(といっても私もさすがにかなりの子供でしたが)にはおなじみの「ウルトラQ」シリーズ、その最終回にして「子供には理解しがたい」と言われた「あけてくれ!」というタイトルの30分ドラマの1シーンです。
相当に異様な内容だったせいでしょうか、この回は大変鮮明に覚えていました。
最近TVで見直す機会があり、大人になった目で見てもかなりホラーだなと感じました。
このドラマには異次元への扉を開けてしまったしょぼくれた中年サラリーマンが出てきますが、あまりにも辛すぎる現実のせいで狂ってしまった彼の見た幻覚なのか、それとも本当に電車が空を飛ぶ異次元世界があったのかがはっきりしない、不思議な雰囲気のドラマでした。

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そしてこちらはとても有名な「銀河鉄道999(スリーナイン)」。
松本零士作・画による不朽の名作です。
タイトルからして宮沢賢治の「銀河鉄道」を下敷きにして描かれたことは一目瞭然。

このように、多くの創作者たちのイマジネーションを刺激する何かを「銀河鉄道の夜」は持っているのです。

まとめ

科学者的な観察眼と、映画的な美しい描写が絶妙にコラボして出来上がったのが「銀河鉄道の夜」だと思います。
「リンゴの皮を剥くとそれがくるくるとコルクぬきのような形になって床へ落ちるまでの間にはすうっと、灰色に光って蒸発してしまう」などという表現は、一体どうしたら出てくるのでしょうか。
天才はやはり夭折するものなのだと改めて思います。