目次

  1. 『児童文学キッチン』
  2. 美品のまま本棚に飾っていたい料理本『朝ごはんの愉しみ』
  3. 「ご家庭で作ってもらうことを想定していません。」
  4. 著者の生き方をものっけたレシピ集『ラ・ベル・コンフィチュール・マサコの果物を食べるジャムづくり』

『児童文学キッチン』

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『児童文学キッチン』
文:小林深雪
料理:福田里香
発行所:講談社

 書店の料理本コーナーでは、研究家や料理の種類に分けて、さまざまなレシピ本が本棚を埋めています。そのなかでも、絵本や映画に登場する料理をレシピ化した本があるのを知っていますか?『バムとケロ』しかり、「かもめ食堂」しかり。
 それらとは一線を画すのが、『児童文学キッチン』です。
 タイトルからもわかるとおり、小学生や中学生のころ読んできたであろう児童文学に的を絞った料理本。この本では、お菓子をピックアップしてレシピを掲載しています。
といっても、「レシピどおり作ってみる!」と勢いづけるものではなくて、作者が読者であったころの感想をつづったり、そのお菓子が登場する場面の要約が書かれていたりする読み物なのです。
 エッセーを担当された小林さんのお話もいいのですが、レシピを考案した福田さんの文章は料理家らしいコメントをだしています。たとえば、『エルマーのぼうけん』にでてくる「ももいろのぼうつきキャンデー」では―

物語に出てくる「ももいろ」のお菓子に昔から弱いんです。漢字で書くと「桃色」。どちらも好き。ももいろの砂糖菓子とか、桃色のボンボンとか。エルマーが冒険に持っていくのは、二ダースのももいろのぼうつきキャンデー。これもとってもおいしそう。いちごパウダーを入れて、ももいろにしてみました。
P71より引用

 そのほか、22品のレシピが掲載されています。

美品のまま本棚に飾っていたい料理本『朝ごはんの愉しみ』

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『朝ごはんの愉しみ』
著:内田真美
発行所:技術評論社

 わたしの本棚のベストポジションから、どこへも移動しない(させられない)一冊が『朝ごはんの愉しみ』です。詩集や写真集のような体裁で、料理本とよぶには少々もったいないつくりになっています。
 ページをめくっても、その期待は裏切られません。「はじめに」の文章が、お気に入りの詩のように、お腹をじんわりと温めてくれるのです。

ホテルや街のカフェでの焼きたてのパンや、淹れたてのあたたかいミルクティ。
旅館の炊きたてのごはんや、お出汁の薫りいっぱいのお味噌汁。
市場で出会った蒸籠で蒸したてのお饅頭や、豆の甘みがうれしい豆漿。
その土地で採れた元気な野菜たちのサラダ。
ベッドの中で想像したら、笑みがこぼれてしまう。
いつもは起きられないのに、旅先では驚くくらいに早く目が覚める。
P3より引用

 このあと、家での朝ごはんについても丁寧な言葉選びの文章が続きます。
 目次には心躍るレシピがたくさん並びます。「じゃがいもと下仁田ねぎの豆乳スープ」に、「くるみとディルのオープンオムレツ」「はちみつたまごサンドウィッチ」なんていう料理名が登場。材料と調理手順はあるけれど、イメージ写真をじっくりと見たら、その料理を食べた気になれるから不思議です。
 こちらの本は、レシピとレシピの間にエッセーが挟まれています。「週末、コーヒーショップで」は、だれもが感じている日常の出来事の一コマ。著者が紡ぐ言葉によって、まるで小説のワンシーンを読んでいるような錯覚をおこします。

「ご家庭で作ってもらうことを想定していません。」

『マンジェ・ササの本。 高知のおいしいレシピ55』
著:笹垣朋幸
発行所:ヱビス編集社


 見出しの言葉、おもしろいでしょう?
 著者は高知県のケーキショップのオーナーで、本のなかには顔写真とコメントがたっぷり詰まっています。見出しの一文は、あいさつ文のなかに出てくるものです。

のっけからナンですが、この本、レシピ集じゃありません。確かにレシピは公開してるんですが、それはそのまま店のレシピを見せているだけであって、ご家庭で作ってもらうことを想定していません。いわば、プロのレシピです。なので、「これ見ても作れんぞ!」というお叱りはどうかご容赦を。
(中略)
本を見たお客さまに「あ、コレ食べたい」って思っていただけると嬉しい。さらに「ちょっと行ってみるか」なんて、ひょいとお店へ来ていただけたら、めちゃくちゃ嬉しい。そういうお客さまのケーキ心をくすぐる本を目指してみました。
P3より引用

 この本は2003年発行です。当時、わたしは高知県で暮らしていて、この本を見て数回お店へ行きました。オーナーの作戦が成功した例といえるでしょう。
 本で紹介されているケーキが、ショーケースのなかにちゃんとある―
 最初の感激といったら、言葉にはなりませんでした。表すとしたら、「!」こんなかんじでしょうか。「洋梨タルト クリームチーズ風味」も「クロケットショコラ」も、本を見て、実物を見て、それを味わう。一連の過程がなんとも贅沢に思えるのでした。
 自分で作るわけじゃないけれど(めんどくさいですし、素人が作るよりプロが作るほうがおいしいに決まってる)、材料と調理手順を見て、そのケーキの味を想像してみます。至福の時間というやつですね。この本は、あくまで店へ来てもらうための販促物だといえます。

著者の生き方をものっけたレシピ集『ラ・ベル・コンフィチュール・マサコの果物を食べるジャムづくり』

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『ラ・ベル・コンフィチュール・マサコの果物を食べるジャムづくり』
著:鈴木方子
発行所:マーブルトロン

 最後は、ふつうのレシピ本にプラスαが付いてきた本の紹介です。
 近頃、こういうテイストのレシピ本をよく見かけます。天然酵母パンだとか、保存食だとか、焼き菓子だとか、テーマを絞ったレシピ集で、デザインがうるさくなくて、写真が完璧。そうして、販売価格が1500円以上するもの。
 雑誌『オレンジページ』の路線ではない、ポリシーをもった料理家が手がけるレシピ本といえばいいのでしょうか。ある種の凄みさえ感じます。
 巻末の著者プロフィールを見ると、著書の鈴木さんは洋菓子の道を歩みつづけてきたようです。フランスのアルザス地方の「メゾン・フェルベール」で働いたことをきっかけに、帰国後、故郷の北海道でジャム専門店をはじめたとあります。
 この本を手放せない理由も、台所に立つことより、ソファに寝転がって本を読んでしまうことに価値があるからです。
 北海道での暮らし、そこで採れる季節の果物、丹念に皮を剥いて種を取って煮詰めるジャム作り、フランスでの修行時代…
 重量感のある文字数は、レシピ本ではなく、鈴木さんの人生そのものを読んでいるようです。時間をかけて果物を砂糖漬けにするように、心のなかには、甘みと香りがじんわり広がっていきますよ。