目次

  1. 文章がない絵本 どう読みこなす?『アンジュール ある犬の物語』
  2. 上質な紙から聴こえてくるのは105人の奏楽『105にんのすてきなしごと』
  3. 朗読すれば、さらなる良さがみえてくる『大きな木のような人』
  4. 大人こそ読んでほしい! 短編アニメの絵本版『つみきのいえ』

文章がない絵本 どう読みこなす?『アンジュール ある犬の物語』

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 54ページにも及ぶ木炭デッサンの絵本。
 車からポイっと捨てられる犬の場面から物語は始まります。犬は見捨てた主人の車を必死に追いかけますが、猛スピードで走り去られてしまいます。そこから、来た道を引き返そうと記憶を巻き戻したり、においを嗅ぎとったりしながら道をすすみます。
 この絵本には文章がありません。木炭デッサンによる、犬の表情やまわりの風景のみが描かれています。さて、これをどう読みこなすか。作者ガブリエル・バンサンの筆致があれば、読者は場面ごとのセリフや情景がわかってしまうのです。
 不思議に思うでしょう?けれど、実際に絵本を読んでもらうとわかってもらえるはずです。飼い主の心ない行動によって捨てられた犬。その後に起こる騒動や結末を読みとってくださいね。

『アンジュール ある犬の物語』
作:ガブリエル・バンサン
発行所:BL出版

上質な紙から聴こえてくるのは105人の奏楽『105にんのすてきなしごと』

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きんようびの よる、8じ30ぷん。
くろと しろの ふくを きた 105にんの
おとこのひとと おんなのひとの しごとが、
いま はじまりました。
その しごととは、
しろい かみに かかれた くろい おんぷを
おんがくに かえることです。

―本文より引用

 ニューヨーク生まれのカーラ・カスキンが文を、パリ生まれのマーク・シーモントが絵を担当したオーケストラの物語絵本。ページをめくるたびに、絵本のぬくもりが指をとおして伝わってきます。
 しっとりした上質な紙に描かれているのは、金曜日の夜に本番をむかえるオーケストラ団員の支度準備です。シャワーを浴びたり、着替えをしたり、出かける前に家族に声をかけたり。会場に着いてからも、それぞれのやるべきことが描写されています。ページが残りわずかになったころ、紙面を見ていると、オーケストラの合奏が耳に届いたような感覚に陥ります。
 「ひらがな」と「カタカナ」で構築された、なかがわちひろの翻訳はすばらしく、やわらなかフォントは物語の雰囲気づくりに一役かっています。文と絵が奏でるハーモニーを存分に愉しみましょう。

『105にんのすてきなしごと』
文:カーラ・カスキン
絵:マーク・シーモント
訳:なかがわ ちひろ
発行所:あすなろ書房

朗読すれば、さらなる良さがみえてくる『大きな木のような人』

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 絵本においても、大人は文章を読むことに重きをおいてしまいがちです。けれど、誰かに読み聞かせをしてもらうと、今まで見えなった絵の世界にどっぷりとはまることができます。子どものように、絵のみに集中できる時間は、自分で読みすすめる読書とはまったく違ったものになります。
 いせひでこ作の『大きな木のような人』は、大人が朗読してもらうのに最適な一冊です。パリの植物園を舞台に、植物学者の男性と少女さえらとの交流を描いた物語。さまざまな木や花に目を凝らすのもいいですし、さえらの表情の変化を追っていくのも、自分で文章を読まず、朗読された声が耳に入ってくるから叶うことです。
 もちろん、大切な誰かに朗読してあげたくなる気持ちもわかります。自分が文章を読み、恋人や年老いた親が絵に夢中になっている様子を正面から見られるのも乙というものです。読書は一人でするものと思いがちだけど、絵本だと、大切な誰かと時間を共有することができますよ。

『大きな木のような人』
作:いせ ひでこ
発行所:講談社

大人こそ読んでほしい! 短編アニメの絵本版『つみきのいえ』

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 この作品は、2008年にアニメ映画祭の最高峰、フランス・アヌシー国際アニメーションフェスティバルでクリスタル賞を受賞した同名アニメの絵本版です。
 ストーリー展開が秀逸で、誰もが経験するはずの人生の岐路といえる場面が何度もでてきます。結婚、出産、子育て、最愛の人との別れ――
 物語は、主人公・赤鼻のおじいさんが、下へ下へと続く海の家を潜ることで、記憶を遡り、そのときどきの家族の様子を思いだすというものです。人生における後悔だとか、鬱屈した考えだとかいうものは一切なく、過去の出来事と対峙します。
 年齢を重ね、さまざまな経験をしてきた大人だからこそ、しっくり馴染む本作品。心にすきま風が吹いたような日、絵本のおじいさんとともに過去の自分を思いだしてみませんか?人生は悪いことばかりではないはずです。

『つみきのいえ』
絵:加藤久仁生
文:平田研也
発行所:白泉社