海外映像作家、二人のデビュー作

チェコのシュルレアリスム映像作家ヤン・シュヴァンクマイエルと、フランスのアニメーション作家シルヴァン・ショメ。共に映像作家としてはかなり有名な人物です。が、そんな彼らにも無論「新人」の時代はありました。そこで、今回は二人のデビュー作をまとめてみました。受賞作の多いショメと、心にずしりと来る作風のシュヴァンクマイエル。彼らの原点とは一体…?

ヤン・シュヴァンクマイエル『シュヴァルツェガルト氏とエドガル氏の最後のトリック』

『シュヴァルツェバルト氏とエドガル氏の最後のトリック』…何だか長いタイトルですが、画像の二人がその「シュヴァルツェバルト氏」と「エドガル氏」なのでしょう。二人は奇術師のようで、交互に自慢の「奇術」を披露します。「奇術」の内容はかなり「シュール」なもので、見ていて楽しいです。が…この二人。表面上は先手を譲り合ったり、相手の「奇術」に拍手をしているのですが、内面ではどう思っているやら。譲り合いも「お前が前座をしろ」と押し付け合っているように見えますし、拍手も何だか「お義理」に見えます。握手もするのですが、「汚い手で触るな」と言わんばかりに手を振ったり、握手させまいと椅子に上ったり…仮面なのに表情が変わっているように見えるのが不思議です。ことに、最初に殴りかかるときの「何すんだテメー」と言わんばかりの雰囲気が何か好きです。

シュヴァルツェヴァルト氏とエドガル氏の最後のトリック

Poslední trik pana Schwarcewalldea a pana Edgara/1964年/カラー/11分43秒/ベルガモ映画祭、マンハイム映画祭、トゥール映画祭受賞 その他 mylist/12834745

ヤン・シュヴァンクマイエルのプロフィール

1934年プラハにて誕生。人形劇の仕事を経た後、映像作家の道を歩む。妻はシュルレアリストのエヴァ・シュヴァンクマイエロヴァー。主な作品として、長編に『オテサーネク』、短編に『エトセトラ』『部屋』『家での静かな一週間』などがある。出てくる食べ物は皆まずそうだったり、大口をアップにしたりと、「食」というより「食べる」という行為にこだわりのようなものを感じさせる作風。本人いわく「昔から食べるのは好きじゃなかった」とのこと。自称「戦闘的シュルレアリスト」であり、一見荒唐無稽なその作風には、何らかの政治的意図や風刺が込められている模様。

シルヴァン・ショメ『老婦人とハト』

右側に立っているのはハトの被り物をした人間です。何でそんなことをしているのかって?となりにいる老婦人から食べ物をたかるためです。では何故?太った観光客訪れるパリにおいて、被り物の人物、警官はやせ細っています。作中痩せているのは彼だけ、というくらいにガリガリです。仕事があるのに、よほどの安月給なのか、別の理由か…窓にたかっているハトは肥え太っているのに、彼は小さな魚をほんの少し食べただけで眠らなくてはならない身。そんな中、ハトにおいしそうなケーキをたらふく食べさせている老婦人を見かけます。「ここいらのハトが丸々と太っているのは、そう言う理由か…」警官は老婦人の家を突き止めてハトから羽をむしり、前述の被り物をして老婦人の家に通うのです。が、彼女が「ハト男」に食事をさせるのは、単なる親切心からではなかった…色々と怖い作品です。でも中毒性があります。

老婦人とハト

食べてる時の音がおいしそう…。

シルヴァン・ショメのプロフィール

1963年フランス出身。高校では美術を専攻していた模様。1982年卒業。その後美術学校を卒業し、初のコミック作品を出版。バンド・デシネ作家、ニコラ・ド・クレシーと出会ったのも、このころ。1991年に『老婦人とハト』の制作に取り掛かる。この作品は、もともと3部作だったのが1つにまとまったもの。ちなみに、背景はニコラ・ド・クレシーが担当している。バンド・デシネとは、「描かれた帯」という意味であり、フランスやベルギーを中心とした漫画のこと。2004年アニメスタジオ、ジャンゴスタジオを創設。

最後に

共にハイクオリティ作品で、「栴檀は双葉より芳し」という言葉を思い出させます。それまでの経歴が影響しているのも、感慨深いものがあります。そして感じる、映像アートというものの奥深さ。芸術の秋にピッタリではないでしょうか。

えどまち
えどまち
@edono78

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