野球強豪校の監督とは? 強さの秘密に迫る「監督心(かんとくごころ)」のまとめ(パート2)

甲子園常連校・強豪校の指揮官にスポットを当てた本書。選手たちのモチベーションを上げ、それを維持する。そして、それを結果につなげていくために、各校の監督は何を考え、どう行動しているか。今回のパート2も2名の監督についてまとめてみました。

我喜屋優 興南(沖縄)

沖縄 興南高校を史上6校目の春夏連覇に導いた名将。野球以上に生活指導に厳しく、何よりも人間力向上に重きを置く監督さんです。
就任当初の興南野球部は、「寮は掃除が行き届いていない、夜はいつまでもダラダラ起きている、食事の好き嫌いが多い、グラウンドでもボールを足で蹴って集める」など、荒んだ状況でした。これでは野球はうまくならないし、社会でも通用しない。。。そこで我喜屋監督は、野球以上に大切なことを指導し、選手たちに実践を促していきます。早寝早起き、食事は残さず全部食べる、大きな声であいさつ、整理整頓、掃除など、当たり前のことを習慣づけるようにしていきました。「ごみ拾いで日本一を目指す」という目標を立てさせて、甲子園を目標とする前に、まずはできることをしっかり目標として掲げてやろうとしたこともありました。
何より我喜屋監督が大切にしていること。それは五感で感じること。早朝散歩もそれが目的で、実際に自分の足で歩き、景色を感じ、季節を感じ、匂いを感じる。。。五感が研ぎ澄まされれば、感じる力が備わり、他の人が気づかないようなことに気づくようになる。それは咄嗟の判断や勝負運にもつながったり、先を読む力にもなるでしょう。これらは当然、野球にも生きてくるでしょうし、将来社会で生きていくためにも必要なことだと思います。
甲子園出場、あるいは甲子園優勝がゴールではない。社会で花開く人材になるために、いかに高校3年間で、その礎を築いてあげられるか。それが監督の一番の仕事なのだと改めて感じました。その上での野球なのだなと。春夏連覇はあくまでも表面的な結果ですが、その裏にある徹底した人間教育がすべての土台。野球の技術だけでは大事は成しえないということがわかります。「高校野球は教育の一環」という古くからの言い伝えは、今も昔も変わらず本質をついているなと改めて感じます。

坂井宏安 九州学院(熊本)

昨今、古豪熊本工業を押しのけて、甲子園常連校となっている九州学院。その指揮官である坂井監督は、礼儀には非常に厳しい監督さんです。また、選手をその気にさせるのがうまい。それは、決してあきらめずに、しっかりと選手たちと向き合うことを実践しているからです。
九州学院OBで、現埼玉西武の高山久選手。彼は中学時代、かなりのやんちゃで、喧嘩ばかりしていた子だったそうです。高山は、中学時に進路を熊本工業にするかどうか迷う中、九州学院のセレクションを受けます。当時、1つ上に吉本亮という、その後ソフトバンク入りするスラッガーがいて、高山と同じポジションでした。「自分のポジションには吉本さんがいるじゃないですか!」という高山に対し、坂井監督は「吉本に負けるような選手ならいらん!」と一蹴。「吉本さんには絶対負けません」と、高山の負けん気に火が着き、入学が決まったそうです。
監督曰く「やんちゃな子っていうのは、根は悪くない。ちょっとしたイタズラや、ハメを外したりするが、困っている人には手を差し伸べる心は持っている。だから頭ごなしに抑えてしまってはダメ。中学生は思春期だから、悪いとわかっていてもやってしまうことはある。入学時にそういう噂があっても、そのレッテルを外してあげて、フラットな状態で見てあげるようにする。気持ちも新たに入学してきて、変わろうとしている子を潰してしまってはダメ」と。さらに続けて、「指導する上では、あきらめや逃げは禁物。子供の心が離れてしまう」と述べています。子供を偏見のまなざしで見ずに、それを野球へのエネルギーに変換するようにしっかりと向き合っていく。人を生かすために必要なリーダーとしての心得みたいなものを感じます。
そんな坂井監督が選手によく言う言葉があるそうです。「汗をかいたら拭けばいい。汗もかかずにやっていたら、人間、取り返しがつかないことになる」。頑張るのは今しかない。その今を逃したら、今後も成長のチャンスは訪れない。甲子園を目標に頑張れるのは高校の3年間だけです。仮に甲子園まで到達しなかったとしても、目指したプロセスが何よりも大切だと思います。それが卒業して、社会に出てからも生きてくるはずです。「今」の連続が、未来を創る。だからこそ「今」を大切にしなさいという坂井監督のメッセージですね。甲子園より大切なことを選手たちにしっかり伝えている監督さんだなと、この言葉から感じました。

最後に

今回の2名の「監督心」はいかがだったでしょうか?興南・我喜屋監督、九州学院・坂井監督、いずれも九州、はたまた全国の高校野球界をリードする強豪校の指揮官ですが、二人に共通する点がみえます。それは、「決してあきらめず選手たちと向き合い、心から選手たちを変えていく」ことに心を割いておられるというところではないでしょうか。そんな指導者のもとで野球ができる選手たちは幸せ者だと思います。坂井監督がいうように、選手たちには「今」を大切に、そして「今」に注力してほしいですね。その先にこそ、甲子園が見え、また明るい将来が見えてくるのでしょう。それでは次回、最終のパート3で、さらに2名の監督心についてのまとめをご紹介します。

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