野球強豪校の監督とは? 強さの秘密に迫る「監督心(かんとくごころ)」のまとめ(パート1)

昔の高校野球といえば、100本ノックで泥まみれになるなど、只々辛い練習をすれば強くなるという風潮がありました。しかし、それだけでは勝てないのが今の高校野球。今では科学的トレーニングが取り入れるなど、高校野球の指導は大きく変わってきています。本書は、現代の高校野球界をリードする強豪校の監督にスポットを当て、自チームを強豪校に仕立て上げた秘密に迫っています。

佐々木洋 花巻東(岩手)

今や高校野球界では強豪校として有名になった岩手・花巻東。その礎を築いたのが、佐々木洋監督です。しかし監督になった当初は、公立校にあっさり負けてしまうなど、なかなか勝てずクビも覚悟したとのことでした。
そんな彼の指導が変わったのは、大学時代の恩師の一言がきっかけでした。恩師が一通り練習を見たあとに言った一言、「お前が練習の邪魔をしている」。それは「あまりにも指示を出しすぎて、選手たちの考える機会を奪っている」という意味に、あとになって佐々木監督は気づきます。
そして恩師からのアドバイスは「選手たちに練習メニューを決めさせろ」というものでした。「そんなことしたら、選手たちの好きな練習ばかりするようになってダメだ」と思いながらも、それをやってみます。案の定、選手たちの好きな練習ばかりやるようになります。しかし、佐々木監督は強制的に改めさせようとはせずに、「こういうこともやってみたらどうか?」と提案し、あくまでも選手の自主性を邪魔しないよう対話を心がけていきました。監督のアドバイスも取り入れながらも、徐々に選手たち自身が率先して練習に取り組みようになります。そして試合でも自分たちで考え、判断できるようになっていきます。「監督が主人公のうちは勝てない、監督はあくまでも演出家、選手たちをいかに主人公にするか」が、佐々木監督の持論に変わっていきました。それから間もなくして、初の甲子園出場を果たします。
また、佐々木監督はここで目標設定の重要性を謳っています。目標を書き出すことで内発的動機付け(うちなるやる気)を引き出します。自身も20歳の頃に目標を書き出し、ことごとくそれを達成してきています。練習場にも選手たち各々の夢・目標を書いたものを掲示させ、気持ちを奮い立たせる工夫もしています。なおかつ目標はより具体的に、そして高く。「甲子園に出る練習」と、「甲子園で日本一になる練習」の意識の差が、そのまま結果の上でも大きな差となって表れてくることでしょう。
菊池(埼玉西武)や大谷(北海道日本ハム)などのスター不在でも、着実に甲子園で勝てるチームになりつつある花巻東。東北に、そして岩手に優勝旗を持ち帰る日も、そう遠いことではないような気がします。本気で日本一を目指す花巻東の挑戦はまだまだ続きます。

中井哲之 広陵(広島)

広島の名門、広陵高校の指揮官 中井哲之監督。ものすごい熱い監督さんで、何より選手、とりわけ控えの選手たちを大切にする人です。その中井監督ですが、冒頭で07年夏の佐賀北と戦った決勝戦でのエピソードが紹介されています。
結局この試合は終盤に逆転満塁ホームランを浴びて5-4で負けて準優勝になってしまうのですが、そのホームランを浴びる直前の打者に押し出し四球を与えてしまうシーンでの出来事。普段表情を変えないエースが、ボールの投球判定に驚きの表情。またキャッチャーも監督の方を見て、「ここをボールと判定されたら投げる球がないです」という困惑した表情を見せました。このシーンについて、中井監督は試合後公のインタビューで高野連の審判を痛烈に批判します。本来はタブー。しかし、選手たちのそんな悔しい思いを知って、クビも覚悟で敢えて選手たちの代弁をすべく公然の場で口を開いたのです。
当時もこの件は波紋を呼びましたし、賛否もありました。ストライクゾーンというのは決められていますが、極論を言えばルール上は、主審が「ストライク」と判定したら、どんなボールでも「ストライク」です。ゆえに監督含めプレーヤーが勝手に判定、判断する余地などありません。それだけ権限をもっているのが審判ですが、それを知っててもなお、一生懸命やってきた選手たちの思いを大切にし、一人捨て身で立った中井監督の男気はすごいと思います。監督のインタビューを間近で聴いていた選手たちは悔しさと嬉しさで、皆涙したといいます。
部員100人以上いるチームを指導するのは並大抵ではありませんが、中井監督は控え選手でも常に声をかけるようです。そしてレギュラーの選手たちには、「控え選手が陰で支えてくれているからこそ、試合に出ることができるのだ」と常々言うそうです。「誰一人特別扱いをしない」というのが中井監督の方針です。大切な試合前でも、問題行動を起こした選手がいたら平気で試合の直前まで全員で正座。それが影響したのか、その試合は負けたしまったとなどというエピソードもあるようです。
本書中に印象的な一節があります。「結果はいつしか忘れられる。お金はいつかなくなる。本当に残るのは、伝えていく言葉。そして、”人”という財産。”人”を育てること」。野球で結果を出すことより、大切なことがある。中井監督の信念がひしひしと伝わってきます。
ここ数年、甲子園で結果を残せていない広陵高校ですが、いつしかまた「強い広陵」が復活してくることを期待しています。中井監督の深い愛情と厳しい指導によって鍛え上げられた選手たちを甲子園で見たいですね。

最後に

甲子園常連校2校の監督をご紹介しました。いかがだったでしょうか?
この2チームとも部員は100名を超えますが、それだけの大所帯をまとめ上げ、結果を残していくことは並大抵なことではないでしょう。レギュラー選手だけの底上げだけではなく、控え部員一人一人に目を向けて、大切にしていかないとチームとしての結果は残せないと思います。そういう意味では、他にない苦労をされている監督さんではないでしょうか。
全員がレギュラーにはなれません。多くは控え、そして裏方に回ります。そういう子たちにもしっかりと役割を与え、モチベーションを維持させていることと思います。そして何よりも、高校卒業して将来、社会に出てからのことを見据えているはず。殆どが将来野球でメシは食えません。野球以外の仕事につく人がほとんどです。だからこそ「人間力向上」が一つのカギになります。野球でレギュラーになれなくても、将来に目を向けさせて、自分磨きをさせていく。。。おそらく部員の多いチームを指揮する両監督さんは、そういうことにも腐心しておられるのではないかでしょうか。それでは次回パート2も、2名の甲子園常連校監督をピックアップし、まとめてみたいと思います。

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