目次

  1. 15世紀の発見「ドムス・アウレア」
  2. 異形の人々 奇妙な構成
  3. 不思議な陳列
  4. 花、リボン、怪物、気まぐれな組み合わせ
  5. 奇妙で滑稽「両義的」なバランス
Domusaurea fresco1

15世紀の発見「ドムス・アウレア」

 グロテスクという言葉は現在では普通は気持ち悪いもの、外形的に醜いものを端的に表す、奇妙・奇怪・醜怪・不調和・不気味・奇抜なものを指す総称的な形容詞として使われている。
西洋美術史的に言うと、グロテスクの語源は、地下墓所や洞窟を意味するイタリア語"grotta"である。
ここで「洞窟」というのは、15世紀になって再発見された、古代ローマ帝ネロの建設した未完の宮殿群「ドムス・アウレア」の部屋と回廊のことを指す。
 そこには人、動物、植物などをモチーフとした装飾壁面が施されており、人から植物へ、さらには魚、動物へと連続して変化する奇妙な模様が見られた。

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1780年代のフォンテーヌブロー宮殿における、ラファエロ的グロテスク様式のフランス新古典主義彩色装飾。

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ルカ・シニョレルリ
サン・ブリッチオ礼拝堂
オルヴィエート

異形の人々 奇妙な構成

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ルーカス・ファン・レイデン
「グロテスク」1528 版画

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リモージュ陶器 蓋つきカップ 16世紀

不思議な陳列

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ポワロ・ド・ラングル
テルメ(境界柱)像 版画 1592年

グロテスク文様は、人間、怪物、植物、動物を気まぐれに配置し、時には複雑に変形したものをアラベスクなどの装飾文様と組み合わせている。それは奇妙に物堅く、凍り付いており、時にはどこか滑稽で不自然で無感情な遊戯のようである。

花、リボン、怪物、気まぐれな組み合わせ

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匿名のイタリア人
柱身の細くなっているサテュロス像とテルメ(境界柱)像を伴うグロテスク
1530年

奇妙で滑稽「両義的」なバランス

 盛期ルネサンスの人々はこぞってこの古代の奇怪なセンスにとりつかれ、それは「グロテスク装飾」と呼ばれるようになった。
 
その後グロテスク装飾は、銅版画で流布し、イタリアおよびフランス・ルネサンス期の建築装飾、 17世紀フランス古典主義装飾、18世紀新古典主義装飾がおもな対象になり、建築、絵画、書物の挿絵、舞台装飾、タペストリー、家具、壁紙、陶器など、広範囲の工芸品や内装装飾などに取り入れられた。

 一方文学の分野では、19世紀、フランスやドイツ、イギリス、イタリアなどの人間性を近代的に深く掘り下げたロマン文学において、国際的に人間の奇怪で複雑な描写に研究が重ねられた。
 
こうした時代を経て現代の辞典では、グロテスクの概念は「滑稽な」ridicule,「奇妙な」bizarre,「突飛な」extravagant、「奇怪な」étrange などの同義語を載せているが、滑稽=奇怪の図式は必ずしも成立しないという難点がある。
 この点について、グロテスクの研究者は、アンビヴァレントで矛盾するともいえる「滑稽な」と「奇怪な」の意味を両義的に持つものと定義している。