とめはねっ!鈴里高校書道部(漫画・ドラマ)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『とめはねっ! 鈴里高校書道部』とは、2007年~2015年に『週刊ヤングサンデー』(~2008年)及び『ビッグコミックスピリッツ』(~2015年)に連載された河合克敏による漫画及びそれを原作とするテレビドラマである。帰国子女ながら綺麗な字を書く内気な少年・大江縁と、闊達な性格で柔道部のホープだが字の下手な望月結希。二人の書道初心者が鈴里高校書道部に入部し、書道を通じて成長していく様が描かれる。

『とめはねっ!鈴里高校書道部』の概要

『とめはねっ! 鈴里高校書道部』とは、2007年~2015年に連載された河合克敏による漫画及びそれを原作とするテレビドラマである。当初『週刊ヤングサンデー』にて連載されていたが、2008年の休刊を期に『ビッグコミックスピリッツ』へと移行した。
カナダ帰りの帰国子女ながら綺麗な字を書く少し内気な少年・大江縁と、闊達な性格で柔道部のホープだが字を書くことは苦手な美少女・望月結希。二人の書道初心者が部員数が足りず廃部の危機にあった鈴里高校書道部に入部し、様々な出会いを経験しながら書道を通じて成長していく様が描かれる。
作中に登場する一般公募で集められた数々の実際の「書」の作品も見所の一つである。書道家の武田双雲が監修している。
第14回 (2010年)文化庁メディア芸術祭マンガ部門審査委員会推薦作品。

『とめはねっ!鈴里高校書道部』のあらすじ・ストーリー

鈴里高校書道部

日本に帰国して間もないカナダからの帰国子女、大江縁は入学式で隣の席に座った望月結希に一目惚れする。けれど引っ込み思案な性格も手伝って結希とは満足に会話することが出来ず、まだ日本語がうまくしゃべれない縁は新学期の生活にもいまいちなじめずにいた。
そんな中、縁は書道教室で偶然、加茂杏子の着替えを見てしまう。部員不足で廃部の危機に瀕していた書道部2年の杏子、同じく2年の三輪詩織は覗き疑惑をネタに脅迫し、縁は強引に書道部に入部させられることになる。早速杏子らにパシられていたところ、縁は不良の男子同級生にナンパ目的で絡まれている結希を見かける。縁は躊躇しながらも助けようと前に出たところ、タイミング悪く柔道部期待のホープである結希が放った一本背負いの巻き添えをくい右腕を骨折してしまう。部存続のためもう一人部員を確保する機会を狙っていた杏子と詩織は、結希の罪悪感に付け込み実際にはまだ書道を始めてすらいない縁の穴埋めという名目で強引に結希を書道部に引きずり込むことに成功する。
こうして縁と結希が入部(結希は柔道部と掛け持ち)した鈴里高校書道部は、まじめで温厚、書道の実力は部内随一の部長である日野ひろみ、元ヤンキーで少し凶暴な性格の杏子、悪知恵にたけたカワイイ系の詩織らとともに5人での活動をスタートさせるのだった。

夏合宿

縁の怪我も癒え、5人そろって出品した市の大会では作品を酷評されてしまった結希と縁。そこで審査委員長をつとめていた著名な書道家である三浦清風のすすめもあり、ひろみの双子の姉妹のよしみが部長を勤める鵠沼高校書道部とともに夏休みを利用して合宿を行うことになる。
初心者である結希と縁は「なるべく細い直線」や「○」「△」など、筆遣いの基礎練習を繰り返すことに。文字を書かせてもらえない状況に少し不満気味ながら真剣に取り組む二人。手先の器用な縁に少し遅れをとるが、結希も合宿終盤にはいよいよ文字にチャレンジすることになる。迎えた合宿最終日の寸評会。清風らが作品ごとに順位付けと講評を行っていく中、何とか参加者中のビリを免れた結希と、初心者ながら上位の評価を得た縁。順位は違えども各々確かな上達を感じつつ合宿を終えるのだった。

書の甲子園

合宿を終え、毎年開催されている全国の高校生が参加する書の大会「書の甲子園」へ参加することを決めた鈴里高校書道部の面々は、しばし各々の夏休みを過ごす。結希は柔道部のインターハイで奮闘(女子48kg以下級個人優勝)、杏子と詩織は海の家でのアルバイト、縁はアルバイト先に選んだ蕎麦屋が偶然合宿で一緒だった鵠沼高校書道部員である宮田麻衣の実家で、一緒に仕事をするうち麻衣との距離を縮めることになる。
夏休みが明け、着々と作品制作を進める一同。縁は「臨書」(手本とする書を崩さず手本通りに書くこと)の中でも800文字を超える書の「全臨」(手本となる書の一部ではなく、全文を臨書で書くこと)で、結希は「大字書」(大判の紙に一字か二字で表される大字の作品で、墨色の濃さから字体の崩し方など、書き手のオリジナリティを前面に出したダイナミックな作品スタイルのこと。書の新分野とされる。)で作品を提出する。
結果は「秀作賞」に選ばれたひろみ以外は選外となってしまい、(1万5千点を超える参加作品が集まる「書の甲子園」の個人賞は、評価が高い順に、「文部科学大臣賞」(2名)「外務大臣賞」(1名)「大賞」(12名)「準大賞」(26名)「優秀賞」(52名)「秀作賞」(140名程度)「入選」(1900名程度)となっている)、入選作品のレベルを肌で感じるため部員全員で大阪で行われる展示会を訪れる。そのレベルの高さに圧倒されつつ、出席した表彰式では結希は思いがけず昔の知り合いとの再会を果たす。「書の甲子園」最高の賞は創作作品と臨書作品の二作に贈られる文部科学大臣賞だが、そのうち創作作品を書いた大分の高校一年生・一条毅は結希の小学生時代の友達だった。結希に対してほのかに恋心を抱いていた毅は予期せぬ再会を喜び連絡先を交換する。
各々が受賞作品の数々から受け取った良い刺激と、毅と結希の関係が少し気になる縁の不安を残して一行は大阪を後にする。

かな文字

「書の甲子園」のもう一つの文部科学大臣賞受賞作品、京都の高校2年生・大槻藍子が書いた「かな文字」の臨書に魅せられたひろみは、かな文字に挑戦することを決意する。そんなひろみに引っ張られる形でかな文字を指導してくれる先生を探し始める縁たち。清風にも相談するがなかなか引き受け手が見つからない中、引き受けてくれたのは清風が女学校の教師だったときの教え子である縁の祖母・英子だった。指導経験はなかったものの豊富な歴史的知識を交えつつ優しく指導してくれる英子のもと縁たちはかな文字に対する造詣を深めていく。
そんな折、縁たちは国内では珍しく書道科がある東京の大学のオープンキャンパスに参加することになる。鵠沼高校書道部員たちをはじめ書道を志す高校生が全国から集まる中、縁たちは「かな」の部の講義で藍子と再会する。実技講義の寸評会では藍子には及ばなかったものの上位の高評価を得た縁やひろみは、重ねてきた努力の成果を実感するのだった。

新学期

進級した縁たち。結希に憧れ柔道部と掛け持ちすることにした新入生・羽生翔子と、同じく新入生で顧問の影山のいとこである島奏恵を新入部員として加えた書道部は、新たな7人体制で新学期の活動を始動させる。
前年に入部まもない縁や結希たちが初めて参加した市の大会に今年もそろって出品することにした一同。「かな」や「大字書」、「前衛書」(「大字書」よりもさらに字体を崩した、「文字」というよりは現代アートに近いスタイル)などそれぞれのテーマで作品作りに励む中、縁はこれまで習ってきたことを前面に出せる「漢字かな交じり」の創作作品を制作することにする。結果、「大字書」で出品した結希とともに「優秀賞」の次に高い評価の「秀作賞」に選ばれる。
修学旅行先の京都で藍子とも再会し、次の作品作りに意欲を燃やしていたところ、結希は柔道部の顧問である島田から書道部を辞めるよう告げられる。前年のインターハイや春の全国大会優勝に続き、直近の全日本選抜体重別選手権大会でもベスト4に入った結希が国際強化選手に選ばれたことをきっかけに、柔道に集中させようとする学校理事たちの圧力を含んだ通告だった。一番「得意」な柔道と一番「好き」な書道にはさまれ葛藤した末、結希はその年の「書の甲子園」を最後に書道部を引退することを約束する。

集大成

結希は自身の集大成となる「書の甲子園」の前準備として、縁たちは結希とともに活動できる最後の機会として、それぞれの思いを胸に抱いて夏合宿に臨む。そこには前年と同じく鵠沼高校書道部の面々に加え、小学校時代師事していた清風のもとで「書の甲子園」への作品を完成させようとはるばる大分からやってきた毅の姿もあった。
毅たちが着々と作品制作を進める一方で、縁はおぼろげに「漢字かな交じり」で現代短歌を題材にすることまでは決めたものの、具体的な文面が決まらず合宿所から図書館通いをしていた。ひろみとの会話や、清風の助言もあり訪れた著名な書家である井上有一の圧倒的な迫力の作品を前にして、縁は作意ではない自身の素直な気持ちが直接反映されるような書を書くべきだということに思い至る。縁が心から抱いている気持ち、それは結希たちと過ごした書道部での日々をいとしく思う気持ち、そして書道部を辞めていく結希と離れたくないという気持ちだった。そうして見つけた現代詩を縁は夜を徹して書き続ける。合宿最終日ついに完成させた作品は、清風も感嘆の声を上げるできばえだった。

その後

合宿を終え、「書の甲子園」の作品も完成させた結希は当初の約束どおり柔道部に集中することになる。本格的に受験の準備が始まるひろみら3年生も抜け、少し寂しくなってしまった書道部。けれど程なくして思わぬ形で結希が書道部に帰ってくる。きっかけは全日本ジュニア選手権で優勝した際のインタビュー。書道部に戻りたい結希は勝利インタビューの際に勝利の秘訣を書道部で培った集中力とこたえ、マスコミの前で書道部との掛け持ちを既成事実化したのだった。話題となったことで対応せざるを得なくなった学校理事たちは、いっそのこと書道部と柔道部の交流を深めてしまおうと柔道部の活動に書道を取り入れる方向に舵を取る。こうして結希は大量の柔道部員たちとともに書道部に復帰するのだった。
しばらくして届いた「書の甲子園」の結果通知は、鈴里高校書道部の大健闘を告げる。縁の「大賞」をはじめ結希も「秀作賞」を受賞するなど7人全員が入選し、鵠沼高校書道部もおさえ県内トップの成績を収める。一年ぶりに訪れた大阪での表彰式では、縁と結希ペアで席上揮毫(受賞者がその場で作品を書き上げるエキシビションのようなもの)を披露する。
柔道部の面々を加え大所帯となった書道部。ひろみ達3年生が卒業した後、以前より少し堂々とした新部長の縁は結希とともに筆を手にするのだった。

主な登場人物・キャラクター

大江 縁(おおえ ゆかり)

本作の主人公。鈴里高校の1年生。性格は生真面目で大人しく内気。いつも眠そうな顔をしており、「ガチャピン」に似ている。中学三年生までカナダのプリンスエドワード島に住んでいた帰国子女であり英語が堪能だが、垢抜けない服装やさえない性格から「ガッカリ帰国子女」「アメリカの田舎者」(実際にはカナダ)「草食系の極み」などと揶揄されている。入学式で隣りの席に座った結希に一目惚れするが、どちらかといえば縁のことを書道におけるライバルとみている結希との関係は最後まで微妙な平行線をたどる。腕の良い板前だが定職についていない父親と祖母の英子との三人暮らし。カナダ在住時に日本に住む英子と定期的に文通していたことから達筆(硬筆)を身に付けているが書道経験はなかった。しかし清風らの指導を受け努力を積み重ねる中で才能を開花させ、2年生時の「書の甲子園」では最優秀の文部科学大臣賞に次ぐ大賞を受賞するほどの実力を持つに至る。

望月 結希(もちづき ゆき)

鈴里高校の1年生で縁のクラスメイト。スポーツ万能だが、中でも子どもの頃から続けている柔道の実績は飛びぬけており、物語終盤では五輪も視野に入れた国際強化選手に選ばれるなど別格の実力を持つ。見た目こそスタイル抜群の美少女だが、気が強く負けず嫌い、基本的に女の子らしいところがほとんどない体育会系女子で、自身はそのことにコンプレックスを感じている。当初は詩織らの策略に引っかかる形で書道部に入部することになったが、少しでも女性らしく繊細で丁寧な字を書きたいという願いを抱いていることがその後も部に身をおいている大きな理由である。ただそうした思いとは裏腹に、繊細な筆遣いが持ち味の縁とは対照的に、力強く躍動的な作品を得意としている。縁と麻衣が仲よさげに接する姿に嫉妬するところを見せるなど、作中ところどころで縁を異性として意識しているような描写もあるものの、基本的には同時期に書道を始めた者としてのライバル心の方が先行しているようである。2年生時の「書の甲子園」では秀作賞を受賞するまでに成長する。

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