ルーム(Room)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

2015年に公開されたレニー・エイブラハムソン監督のヒューマンドラマ。17歳の時に誘拐され7年間監禁され続けた女性ジョイと、監禁された“部屋”でジョイが産んだ息子ジャックが、決死の覚悟で“部屋”から脱出する様と、その後に待ち受ける数々の困難を乗り越えていく姿を描く。本作でアカデミー主演女優賞を獲得したブリー・ラーソンと、天才子役と評されたジェイコブ・トレンブレイの、魂の演技が光る。

当時17歳だった学校帰りのジョイを誘拐し、自宅の納戸に監禁した犯人。納戸には暗証番号式のロックをかけ、定期的に生活に必要な物や食料を買って届けては、ジョイをレイプしていた。

ジャックが死んだと聞かされ、慌ててじゅうたんに包まれたジャックをトラックの荷台に乗せ、埋める場所を探した。ジャックが生きていて逃げ出そうとしているのに気づき、連れ戻そうとするが、犬の散歩をしていた人物に怪しまれ、ジャックを置いて逃亡。その後警察の捜査により逮捕される。“オールド・ニック”というのはジョイとジャックが呼んでいた呼称で、本名は不明。

見どころ

この作品は、長期間監禁されていた親子が決死の脱出を試み、成功させるという話ではあるが、本当の見どころはその後だ。現実にもこういった事件は世界各地で起こっており、この映画も実際に起こった「フリッツル事件」を元に描かれている。しかし我々は事件が起これば報道に注目し、被害者が解放され犯人が逮捕されれば安堵するが、その後の被害者やその家族がどういった問題を抱え、苦悩しているかを知る由は無い。

本作では中盤でジョイとジャックが解放され、後半はその後の生活にスポットをあて、彼らの苦しみや葛藤、そしてそれを乗り越えていく姿を丁寧に描いている。監禁中は生きることだけを考えていたジョイが、解放されてから自殺未遂を図り、それによってジャックや家族も苦しむ様子は、事件は終わっても被害者たちにとっては終わりではないということを、改めて考えさせられる。

『ルーム』のエピソード・逸話

ジョイを演じたブリー・ラーソンは、撮影の8か月前から準備を始めた。まず初めにジョイが何に興味を持ち、何に憧れ、どんな生活を送っていたのかを想像し、ジョイという人格を作り上げた。その後、ジョイが受けた精神的・肉体的苦痛を想像するため、実際に1か月間、電話、インターネット、食事などを制限し、部屋に閉じこもる生活を体験。4週間目になると気分が落ち込み、1日中泣くようになったという。

そしてジャックを演じたジェイコブ・トレンブレイとは、3週間前から一緒に過ごした。シーンのリハーサルをするわけではなく、一緒にレゴで遊んだり、食事をしたりと、日常の生活を積み上げ、信頼関係を築いていった。冒頭で描かれるストレッチなどの日課のシーンも、実際に3週間前から毎日やっていて、撮影の頃にはそれが当たり前の日常として表現することができたという。こういった事前の準備が、映画の中で自然な親子の空気感を作り出しているのだ。

『ルーム』の名言・名セリフ/名シーン・名場面

手に汗握る脱出シーン

ジャックが死んだふりをして“部屋”から脱出するシーンは、やはりこの映画において大きなポイントとなっている。生まれてから天窓に写る小さな空しか見たことのないジャックが、じゅうたんから抜け出し、初めて枠のない広い空を見た時の表情はとても印象深い。さらに5歳のジャックがトラックから飛び降り、見知らぬ誰かに助けを求めることは非常に危うく、手に汗握るシーンとなっている。

そしてジョイが救出され、ジャックと再会を果たすシーンでは、ジャックがパトカーから必死にママを呼ぶ姿と、ジョイが必死の形相でジャックを探す姿に、親子の愛や絆の深さというものを痛いほど感じ、涙を流さずにはいられない。ブリー・ラーソンの女優魂と、ジェイコブ・トレンブレイの天才子役と呼ばれる才能がぶつかり合う、素晴らしいシーンである。

「“世界”はとても広い所だ。だから時間が少ない。」

本作で状況を説明する役割を果たしているのが、ジャックの心の声である。冒頭ではジャックが“部屋”で生まれたことや、“部屋”が“世界”だと思っていることがジャックの言葉で語られる。そしてジョイが自殺未遂を図り入院した後も、家でひとりママを待つジャックの心の声が響く。

「“世界”はとても広い所だ。だから時間が少ない。」という言葉は、生まれてから5年間、小さな納戸の中を“世界”だと思っていたジャックの率直な気持ちであるが、同時に、広い“世界”で当たり前のように暮らしている私たちにとって「気づき」を与えてくれる言葉でもある。ジャックは“世界”を「バターみたいに薄くのびてる」とも言う。私たちは広い“世界”をちゃんと理解する時間がなく、バターを塗るように表面上しか見ていないのかもしれない。そして“世界”に純粋に感動する5歳の少年の瞳には、私たちが見落としているものが見えているのかもしれない。

断髪にみるジャックの成長

ジョイは7年間、外の“世界”を夢見ていた。しかし解放された先にあったのは、容赦ないマスコミの詮索、変わってしまった家族、取り残された自分だった。ある夜、目が覚めたジャックは隣にジョイがいないことに気づき探しに行く。そして見つけたのは、自殺未遂を図り昏睡状態のジョイの姿。ジャックは「ママ!ママ!」と泣き叫んだ。

ジョイが入院し、家に残されたジャックは小さな頭で必死に考える。どうしたらママは“部屋”にいた時のように笑ってくれるだろう、と。そしてジャックはパワーがあるからと切らなかった長い髪を切り、ジョイに渡すことを思いつく。その決意をナンシーに堂々と伝える姿はとても頼もしい。そして髪を切ってくれたナンシーに「大好き」と伝えるジャック。彼は“世界”を受け入れ、その中で懸命に成長していた。小さなジャックはその大きな勇気でジョイを狭い“部屋”から救い出しただけでなく、広い“世界”に押しつぶされそうになったジョイを、再び救い出したのだ。

予告動画

sas9791e0
sas9791e0
@sas9791e0

Related Articles関連記事

キャプテン・マーベル(MCU)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

キャプテン・マーベル(MCU)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『キャプテン・マーベル』とは、アメリカ合衆国で2019年3月に公開されたスーパーヒーロー映画である。MCUシリーズとしては第21作品目。記憶を失った主人公ヴァースは、惑星ハラで暮らすエリート女性戦闘員である。任務の途中で訪れた1990年代の地球・アメリカでアベンジャーズ結成前のニック・フューリーと出会ったヴァースは、彼と行動を共にするうちに失った真実の記憶を取り戻し、自らの使命に気づくことになる。

Read Article

アベンジャーズ/エンドゲーム(MCU)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

アベンジャーズ/エンドゲーム(MCU)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『アベンジャーズ/エンドゲーム』とは、2019年に公開されたディズニー配給・マーベル製作の『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』の続編である。本作は、宇宙最大のパワーを持つ6つの石”インフィニティ・ストーン”を集めたサノスがアベンジャーズのメンバーを含む、全宇宙の生命の半分を消滅させたところから始まる。人類を守るため、”キャプテン・アメリカ”や”アイアンマン”を筆頭に最強ヒーローたちが再び立ち上がり、史上最凶最悪の敵・サノスに逆襲(アベンジ)する。

Read Article

【MCU】仲良しっぷりが伝わるアベンジャーズキャストの画像まとめ【マーベル・コミックス】

【MCU】仲良しっぷりが伝わるアベンジャーズキャストの画像まとめ【マーベル・コミックス】

世界中にヒーロー映画旋風を巻き起こしてきた『アベンジャーズ』シリーズ。2019年、遂にヒーローたちの物語の終幕となる『アベンジャーズ/エンドゲーム』が公開されました。ここではロバート・ダウニー・Jr.やスカーレット・ヨハンソンをはじめとする、同作品に出演した超豪華キャストの集合写真などを集めました。撮影の舞台裏や貴重なオフショットを紹介していきます。

Read Article

【アベンジャーズ】宇宙最大の力を持つインフィニティ・ストーンについて徹底解説【MCU】

【アベンジャーズ】宇宙最大の力を持つインフィニティ・ストーンについて徹底解説【MCU】

世界中の人々を熱狂させたMCU作品。「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」では、インフィニティ・ストーンと呼ばれる石が宇宙最大の力を持つものだと判明。ここでは6種類ある石の名前や力、登場した作品などを画像を交えながら解説。それぞれの石の行方や「アベンジャーズ/エンドゲーム」への繋がりも紹介していきます。

Read Article

『名探偵コナン 紺青の拳』の人気の秘密とは!?『アベンジャーズ/エンドゲーム』を破ったことで海外ファン騒然!!

『名探偵コナン 紺青の拳』の人気の秘密とは!?『アベンジャーズ/エンドゲーム』を破ったことで海外ファン騒然!!

2019年の日本映画界の大きな話題となったのが、『名探偵コナン 紺青の拳』の人気の高さ。同時期に公開された『アベンジャーズ/エンドゲーム』以上の興行収入を叩き出したのです。ここでは作品情報や興行収入、映画館に足を運んだ客層など、コナンの人気の秘密を徹底的に解説。アベンジャーズとのコラボ画像も載せています。

Read Article

【アベンジャーズ/エンドゲーム】笑って泣ける!おすすめの感動系映画5選【パパは奮闘中!】

【アベンジャーズ/エンドゲーム】笑って泣ける!おすすめの感動系映画5選【パパは奮闘中!】

2019年の4月に劇場公開された映画の中から、おすすめの映画をまとめました。仲間との絆の強さに感動する『アベンジャーズ/エンドゲーム』や、仕事と育児に悪戦苦闘する父親と子の関係を描いた『パパは奮闘中!』、ハートウォーミング青春コメディの『リアム16歳、はじめての学校』など全5作品、あらすじや見どころを紹介していきます。

Read Article

目次 - Contents